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現在、魔法使いは絶滅危惧種です。  作者: 絢無晴蘿
第四話 「貴女も不運ね。こんな時代に生まれて来るなんて。研究材料にはなるけど」
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終着点、そこでの戦う事は。





風が吹いている方向。

そこへ向かうと相談中的な音川輪と心麗がいた。

さっきまでどこに行っていたのか。ちょっと音川輪に問い詰めたい……。


「心麗? 音川輪? どこに行ってたの? てか、ここどこ?」


どこか、部屋みたいな場所。

そこで二人がなにやらやっている。


「あ、れ? なんでアルトちゃん……」

「いや、こっちのセリフなんだけど」

「索敵してたらここまで来て、輪さんと合流したんだけど、アルトちゃんも?」

「さくてき? えっと、なんとなく、風が吹く方に来たら来ちゃったんだけど」

「それって……いや、でも……」


なぜか考え込む心麗。

その横で、音川輪は無言だった。

一体どうしたんだろう。


そんでもって、索敵って……心麗の口から聞くとなんだか場違いに思えて来る。


「ちょっと、あいつ、どうしたの?」

「えっと……この辺に、ちょっと厄介な陣が敷かれてて」

「厄介な陣ねぇ……」


どこにあるのか分からないけど、心麗が言うのならあるのだろう。


「うん。魔力を奪うみたいで……って、アルトちゃんは何ともないの?」

「えっと、うん」

「うーん。やっぱり違うから、かな……」


自分の考えに没頭し始める心麗。

呟いた言葉も私じゃ理解不能。

輪は輪で動かないし、どうしよう。


と、考えていると突然音川輪が動く。


「来るぞ」


なにが?

なんて聞く必要は無かった。

ソレはすぐそばにもう来ていたから。


ソレは


「なにこれ……」


化物というよりも、異形だった。


あの化け蜘蛛や化け蝙蝠なんかと、まったく違った。


人間のような形はしていた。

でも、ぜんぜん違う。

全身、ただれたような気持ちの悪い蒼緑の肌。

顔は無い。

手があるはずの場所には、棒が縒り合わさったような物が垂れている。

足も無い。なんか、ひらひらしている。

文字通り、化物。


「まずいな……スペリオルか……」

「ス、スペリ?」


また、なんかよく解らないことを言う。

心麗にしても、音川輪にしても、私が魔法使い見習いで、まったく何も知らないことを覚えてないんじゃないのだろうか。


「この前の蝙蝠さんとよりも、ちょっと強いんだよ」

「それって、まずいの?」


あの蝙蝠、化物だったけど、夜神にあっさり倒された感じだったから、どうも強いのかとか解らない。

もちろん、まだ魔法も使えない私が勝てるはずが無いんだけど。


「まぁ、まずいって言ったらまずいかな。けど、輪さんもいるし……」

「心麗」

「は、はいっ、なんですか?!」

「ここで止めるぞ。夜神が動くまで下手に攻撃できないが……あと、お前はさがってろ」

「う、ん」


言われなくても。

まだ魔法使いうんぬんの事をまったく分からないし魔法も使えない。そんな私はいたってただ邪魔なだけだ。

後ろ、というかなるべく離れる。

その間に、心麗があの精霊だかなんだかよく解らない、プシュケと呼ばれた少女を召喚していた。

ていうか、あれが召喚って言うのかよく解らないけど。

今回は、武器になるのではなく心麗の後ろにスタンバイ。

音川輪は、どこから出したのかわからない剣をすでに構えていた。

……いったい、ぜんたい、どこから出したって言うのさ。あんな大きなもの、さっきまで絶対持ってなかったはずなんだけど。



さて、本当に音川の亡霊なら、この結界は鬼門のはずなんだけどなぁ……。



「え――?」


今、だれかの声が聞こえた、ような?

なんだろう。

あたりを見回しても、暗いだけ。誰かがいるとかわからない。

でも、何かがいる。

スペリオなんちゃらと戦い始めた二人を片目に、声の出所を探す。

確かに、誰かがしゃべっていたはず。


「誰?」


答えは無い。

と、思っていた。


「へぇ、やっぱり、風術師に下手な隠形は無駄ってことか」


「っ?!」


口調に飾り気は無い。

どこか、笑われているような声色。

たぶん女の人だ。


「貴女が、音川言祝(ことほ)ね」

「……えっと?」


この人、どうやら私の事を知っているらしい。

別に、隠してる訳でもなんでもないけど、うちの名前はアルトじゃない。

伊莉那や心麗がアルトってよんでいるから、アルトって呼ばれているだけで、戸籍も出席簿に書いてある名前も言祝だし。

よく分からない、音川家代々の決めごとで小さい頃からアルトって呼ばれていただけだ。

だから、目の前の人が言祝と呼んできたことにそこまで驚かないけど、それでも久しぶりだったからちょっとだけ驚いた。


「あなたは誰ですか?」


腰まで届く金髪が揺れる。

黒いメガネをかけた女性が、煙草を吸いながら私を見ていた。


「グレイス。グレイス・アルテイラ。といっても、今、貴女に思えてもらう必要はないけど」

「……」


まったく知らない。

心麗や音川輪が居たら、なにかしら知ってたのだろうか。

グレイス……後で、聞いてみよう。


「貴女も不運ね。こんな時代に生まれて来るなんて。……まぁ、良い研究材料にはなるけど」

「えっ……?」


思わず、一歩下がる。

研究材料って……。

この人、その、危ない人?

ちょっと、まずいような気がする。

じりじりと後ろに下がって行く。けど、彼女は気にした様子は無い。


「こちらの事は覚えてなくていいわ。じゃあね、音川言祝……今代の『アルト』」


えっと……。

なんだかよく解らないけど、助かったらしい。


グレイスは後ろに下がって、姿を消した。

ほんの一瞬。目を放していなかったのに、だ。

たぶん、魔法なんだろう。


「いったいぜんたい、なんなのさ……」


魔法使い見習いになったものの、なにもわからないこの状況は何時まで経っても変わらない。

それが、嫌だった。






音川輪は焦っていた。


この場に敷かれた魔法陣の結界。その効果は結界内に存在する魔力の吸収。

はっきり言って、輪と相性が悪いどころか下手したら死ぬ。

しかも、あたりには魔法陣の核のような場所がない。たぶん、違う場所で発動させた陣の結界をこちらに回したのだろう。

ここで戦うのは危険だ。

が、そうも言ってられない。

今まで他の客たちを襲っていなかったようだが、この後もそうだとは限らない。

特に、『あの迷惑なやつら』が先ほど消えてしまったから。


「心麗は援護を」

「はいっ」


ここで、心麗がいるのは大いに助かる。

近距離戦も援護もできる。さすが水埜十二月と綺麗の息子なだけある。

こちらはあまり魔法を使えないから、そのフォローを頼みながら、剣を振るう。


スペリオル・エレメンタル。

禍物と呼ばれる狂った精霊の中でも、力をもつ精霊が狂った時の呼び名だ。

以前からアルトの前に現れたのは、とスティニー・エレメンタル。下位精霊が狂った禍物。

それに比べて、スペリオル・エレメンタルはかなりの力を持つ。さらに、シングラル・エレメントなんて上位の存在がいるが、あれは天災レベルのモノだし、そう簡単に表れることは無いから考えない。

とにかく、スペリオル・エレメンタルは危険だ。


心麗を後ろに下がらせて、スペリオルに剣に炎を纏わせながら斬りかかる。

硬化した腕。それに弾かれる。

まさか、弾かれるとは思っていなかった。しかも、予想以上に重い。

がその隙を逃さず心麗の魔法がぶち込まれる。



「心麗、下がれ!!」


その瞬間、魔法が弾かれた。



スティニー・エレメンタルにはさらに下位のフォール・エレメンタリィの持たない能力が存在する。

それが、場の構成。

自分の世界に獲物を招き、殺す。アルトの捕まった誰も居ない校舎や町の裏路のような場所がそれに当たる。

スペリオル・エレメンタルも同じ能力を持つが、さらに違う力を持つようになる。

周囲の精霊への汚染だ。

近くに居る精霊を狂わせ、新たな禍物を生み出す。

また、個々によってさまざまだが、擬態や異常な能力の発現や魔法の使用、知能の発達など、面倒な能力を持つ者が多い。


そして、この個体は


「魔法の反射? いや、攻撃の反射、か?」


厄介な能力の奴が現れたもんだ。

心麗は下がったおかげで攻撃の余波無いものの、こちらは直撃。

思わず結界を張ったおかげで無事だったが、魔力の消費が激しい。やはり、魔法陣のせいだ。

魔力の消費が激しいと、こちらも思うように魔法を発動できない。というか、したくない。

魔法陣をどうにかしたいがどうにもできない。

別行動中の夜神がどうにかしてくれるのを待たないとダメだろう。


「そんな、魔法の反射って……ど、どうすればいいですかっ?」

「反射できないほどの攻撃を打ちこむしかないだろ。とにかく、この魔法陣が邪魔だから、夜神が解くまで耐えるぞ」

「は、はいっ」


しかし、それは何時までなのか。


魔法で攻撃はできない。

そう判断した心麗は音川輪に補助系の魔法をかけていく。

もちろん、こうしている間にも魔力が失われていく。


剣でスペリオル・エレメンタルの攻撃をいなしながら輪はあたりを見回す。

心麗は離れた所で輪がさばけなかった攻撃を結界ではじいている。

アルトは――。


「って、居ないっ?!」


確かに離れてろとは言ったが、視える所にいろよっ。

心の中で叫びながら、アルトを探そうと視線を廻らし、慌てて薙ぎ払われた触手を回避。

さすがにアルトを探しながら戦うことはできない。

この結界さえなければ――。


と、ようやく魔法陣が消えていく。結界とともに消滅する。


「ったく、おせぇよ夜神」


文句を言いながら、攻撃を避ける。


「心麗、アレ出来るか?」

「一発なら、出来ます」

「なら、合わせるぞ」


一時撤退。

バックステップでスペリオル・エレメンタルから離れる。


「ちょっとした職権乱用させてもらうぞ、タナトスさんよ……」


後で怒られるかもしれないな。

なんて考えながら、何も無い場所で剣を振るった。瞬間、剣に纏っていた炎が変わる。

量が、質が、色が――属性が。

真紅の炎が、漆黒へ。

暗く、闇よりもなお深い黒。


その後ろでは心麗とプシュケが大型の魔術を発動するための詠唱を行っている。

発動まで後数秒。

心麗の操る精霊魔法の中でも一番の攻撃力を誇るそれは、本当に一握り者にしか使うことはできない。

なぜなら、全ての属性への適性が無ければ使いこなす事の出来ない物だからだ。


「輪さん」

「応」


いつでも発動できる。そう視線で知らせてくる。


「行くぞっ」


闇色の炎をまとった剣。

それを、敵へ。

倒すべき者へ向ける。


「行きます――radiation」


心麗が指さした先、スペリオル・エレメンラルに向かって魔法が放射される。

圧倒的な魔力の奔流。地面を削り、暴風を起こしながらそれは敵を消滅させようと牙をむく。

これでも、心麗がまだまだ未熟なため、本来の威力よりは落ちているのだが、まったくその様子はうかがえない。

圧倒的な破壊力。

詠唱が長い、魔力の調整に時間がかかる、まだ心麗に使いこなせていない等、様々な理由で発動までの時間がかかるこの術。一対一の戦いでは使用できないが、今回は前衛として戦える輪がいたからこそ発動できた。


それを輪は避けながら直進。

黒の炎をまとった剣を、問答無用で振り下ろした。








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