お化け屋敷、すでに張られた罠の中で。
普通、お化け屋敷なんて大きな遊園地とかぐらいにしかないだろう。
でも、移動型のお化け屋敷とかあるらしく、毎年夏祭りとかになると流留歌にやってくる。
今年の夏まつりにもお化け屋敷がやってきた。
が、しかし。
「ねぇ、音川輪」
「なんだ」
「なんだか、すごーく嫌な感じがするんだけど」
「よく気づいた。その通りだ」
お化け屋敷の目の前。
結構並んでいる列の最後尾にはすでに伊莉那達が楽しそうに並んでいる。
それを音川輪と心麗、そしてうちが見ていた。
「ちょっと、アルトンどうしたの? リン君もシンリ君も……ま、まさか、お化けが怖いのっ?!」
「あら、アルトが怖いのはお母さんの雷じゃなかったかしら?」
「ちょ、イリナ! シャラップ!」
なんで、今そう言う事言うの! たしかに、怖いけどっ。
してやったり顔の伊莉那に思わず涙目になる。
ほんと、お母さんが怒った時は本気で恐いからっ。
そんな横で、輪と心麗が話している。
「どうやら、なんかしらが中に居るみたいだな」
「罠ですか? ……どうしますか、リンさん……その、みんなが危険な事に、なったら」
「……夜神が動いたから、そこまでひどいことにはならんとは思うが……今、あいつらを止めたらいろいろ疑われそうだし」
「そうですね……おじじさまがどうにかしてくれるとは思いますけど……」
さっき、心麗と夜神が話していたのはこのことだったのか。
……もしかして、さっきの寒気とかも関係しているのかもしれない。
何やら考え込んだ輪は、最終的に判断を下した。
「……現場研修ってことで、行くか。当たって砕けろ的な」
「え、良いんですか」
「は?」
「うわー、リアル……」
ちょっとゆっくりな歩みになりながら、私達はお化け屋敷を歩いていた。
あたりは真っ暗とまではいかないけど、暗い。ときどき青白い光とかが設置されてあるけど、なにやら不気味だ。
しかも、何とも言えない音楽と変な声が聞こえて来る。
がさごそとなんかしきりに動く音がする、気もする。
「ちょっと、アルト? どうしてそんなに私に寄り添っているのかしら?」
「イ、イリナこそ、なんで私の腕を掴んでるの?」
な、なにを伊莉那は言ってるんだ。
私はただ、伊莉那が腕を掴むからしょうがなく近くに居るだけで。
「……要するに、二人ともお化けが怖いのか」
「ちっ、違うわよ!」
「そ、そうだ! こ、こわいわけあるか!」
実は、本格的なお化け屋敷ってものに入ったことが無かったりする。
その横で、伊莉那がなにやらがくがくと身体を震わせている。
「お化けが怖いんじゃないわ! そ、そうじゃなくて、こう、人工的にっていうか、驚かせるの前提に作られた、こう言うところがす、すごく、びっくりするっていうか、こ、こわくないから、その」
壊れているようだ。
もう、言葉が言葉として機能していない。
誰か、翻訳して欲しい。
「自然なお化けとかなら大丈夫なの!」
「いや、ふつうは逆でしょ!」
「伊莉那さんにも苦手な物がっ」
梨果がつっこんで、礼弥は何やら愕然としていた。
ちなみに、心麗は苦笑しながら前を歩いている。
そして音川輪はしんがり。警戒しながら進んでいる。
中に入って、何かあるのかと思ったけど別にどうも無かった。
確かに何か感じる気もするけど、伊莉那達は普通だし。
でも、輪はそうは思っていないようだ。
「おい、アルト」
「なに」
「……おかしいと思わないか?」
「は?」
ちょっと離れて、輪に呼び出されたと思ったら、突然そんな事を言う。
別に、なにもおかしくないと思うんだけど……。
「悲鳴が無い」
「平和でよかったね」
「いや、お化け屋敷で悲鳴が無いって、おかしくないかっ?!」
「そ、う?」
先に入った人達が悲鳴を上げてない。
いや、恐がりじゃない人で、驚かされてもスルーしちゃってるって可能性もあるけど。
それでも、なにかしらのアクションをしているはず。と、音川輪はいいたいのだろう。
たしかに、ここは移動型のお化け屋敷だからそこまで大きくない。だから、悲鳴とか笑い声とか聞こえてもおかしくないはずだ。
でも、前の人が驚かない人なのかもしれないし。
「ちょっとー、アルトン? 輪君? はやくきてよー」
「あー、うん」
「おう」
どうやら、雲行きがおかしくなってきたようだ。
その先、普通のお化け屋敷だった。
お化け役の人が脅かしてきたり、人が来たら自動で動く仕掛けがあったり。
けっこう恐いけど、本物とかよりはそこまで怖くなかった。
この前の化物蜘蛛とか化物蝙蝠なんかよりも恐くない。
ただ、空気だけは異常で、微妙な感じ。
「普通ね」
「うn、なにもないね。でも、気をつけないとダメだよっ、アルトちゃん」
「はいはい」
心麗と一緒に後ろの方を歩いている。
理由は、前に居るとお化けと鉢合わせになるからとかの理由とかではない。そんなこと、まったくない。
「ところで――?」
後ろでしんがりをしているはずの音川輪を探す。
どうやら、前に行ったようで居ない。
「ありゃ?」
いつからだろう。気づかなかった。
とりあえず、前に居る集団――きゃあきゃあ言ってる梨果と礼弥、蒼い顔の伊莉那達のほうを見ても居ない。
先行しているのだろうか。
それにしても、三人とも楽しそうだ。
「ねぇ、アルトちゃん」
「ど、どうしたの?」
突然、心麗が真剣そうに聞いてきた。
「今、気づいたんだけどさ」
「うん」
「……このお化け屋敷、大きすぎない?」
「へ?」
そういえば、結構長い間お化け屋敷の中に居る気がする。
其処まで大きいはずが無いのに……。
「あとさ、リンさん居ないよね?」
「……」
前の方に居るんじゃないかと思って、三人を押しのけて前に出ていく。
でも、いない。
後ろには居なかった。前にもいない。
まさか――
「迷子っ?!」
「そ、それは違うと思うよっ、アルトちゃん!!」
「で、ですよねー」
これで迷子だったら、本気で怒る。
「ねぇ、イリナ。あいつ見なかった?」
「あいつ? さぁ? 後ろに居ないの?」
「それが、居なくって」
「……まさか、迷子かしら」
「イリナちゃん! なんでアルトちゃんと同じ考えなの?!」
伊莉那もそう思ったか。
音川輪、君の株は出会ってから現在進行形で大暴落中だから仕方ないことだ。
心麗はちょっと哀しそうだ。同情しているらしい。
「イリナさん……リカさんがいません」
「え? さっきまで、隣いなかった?」
「いません」
「う、うそっ」
輪はともかく、梨果まで?
どうやら、敵が動きだしたらしい。
本当に敵なのかとか解らないけど。
「心麗、これってやっぱり――」
後ろを向いた瞬間、誰も居なくなった。
「え」
なんで?
さっきまで、いや、今も伊莉那のすぐ横にいたはずなのに。
動いてなんて、いないのに。
「シンリ? イリナ? ちょっと、やだ……リカ? レミ?」
なんで、みんないないの?
おかしい、おかしい、おかしい――。
暗い。いつの間にか、周囲が暗くになっている。
今までみんなといたから気づかなかった。
懐中電灯を伊莉那がもっていたから、そこまで暗くなかったし。
でも、伊莉那はもういない。
「……うちひとりで、どうにかしろって事?」
毎度思うけど、音川輪。あんたはこう言う時の為に私の所に来たんじゃないの?
歩いていくうち、やっぱり不自然なほどお化け屋敷の無い部が大きい事に気づいた。
輪や夜神がいたら、空間が歪んでだとか結界がどうのとか教えてくれそうだけど、今は誰も居ない。
一応、自分でわかる限り慎重にいこうとしても、暗くてよく見えないせいで何度か転びかけた。
歩き続けてどれくらい経っただろうか。
やみくもに動いていたせいで、もう何も分からない。
どこにいたのか、最初からわからなかったけど、いまはどっちから来たのかもわからなくなっている。
「やば……いかも」
どうしよう。
迷った。
しかも、ぜったいあの化け物みたいなやつらがらみだ。
声を出して心麗達を探した方が良いのだろうか。でも、声を出したら化け物にも気づかれるかもしれないし……。
このまま探して歩き回ることしか出来ないのだろうか。
ふと、風が吹いた。
「…………?」
あれ、風?
さっきまで吹いてなかった、はず。
そういえば……洞窟とかで迷った時に風を頼りにして入口に辿り着いたとか、なかったっけ?
それを思い出しながら、風の吹いてきた方向へと路を進んだ。
暗いことで、視覚以外の感覚が鋭くなっていたからかもしれない。
なぜか、風が来る方向がわかった。




