休日、テストの終わったお祭りで。
七月、終盤。
「って、ことで、祝! テスト週間終了よっ!!」
伊莉那の声にあわせて、梨果、礼弥、そして音川輪が乾杯をした。
それに、心麗はちょっと離れた場所で夜神と一緒に座っている。
昨日、期末テストが終わった。
あとはテスト結果を待つだけ。しかも、今日は土曜日で流留歌の夏祭り初日だ。
羽目を外さない理由が無い。
と、言う訳でみんなでカラオケに来たのだ。
ちなみに、夜神にはテスト週間中、音川輪のテスト勉強と一緒に私たちの勉強を見てくれたんで、そのお礼とかいって梨果が無理やり連れて来ていたりする。
「それにしても、悪夢の二週間だった……」
なにやら、遠い目で過去を思い出している輪に、梨果は苦笑する。
「リン君、ほんと勉強苦手なんだねー」
「だ、誰だって得意不得意はあるだろ」
「いや、それいいわけ……」
ダメだ。最近、本当にこいつが私のご先祖様なのか自信持てなくなってきた。
たしかに、魔法使いなんだろうけど……この威厳の無さは何なんだろう。
「……」
「どうしたの、アルト。大好きな輪君が梨果にいじめられてて嫉妬しちゃった?」
「イリナー。解ってて言ってるよね? うち、音川輪の事なんて何とも思ってないからね」
「へー」
なんだか、すごくほほえましい者を見るような目つきだ……。
肌がぞわぞわしてくる。
……?
なんだろう、確かにぞわぞわしてくるけど……。
「ところで、リン君。安心するのはまだ早いです……テストの結果次第では、どうなるか解らないと思います」
「っ!」
「……もしも……もしも、赤点を取った際にはどうするのですか?」
「い、言うなっ。言わないでくれ!!」
あ、音川輪が泣いている。
後ろで、夜神の暗い炎が見えたのはきっと気のせいだ。
……そういえば、夜神のスパルタ勉強会は、ほんとすごかったらしい。
「赤点、か。輪君さ、ほんとやばそうだよね」
「そのときは、また勉強会をしましょうか」
「……ところで、リン君は進路はどうするのですか?」
「へ?」
梨果と伊莉那が笑っている横で、礼弥は真面目そうな顔で聞いている。
といっても、礼弥は何時もあんな感じだけど。
「そうだな……」
そして、音川輪はなぜかこちらをちらりと見て来た。
「まぁ、秘密って事で」
「そうですか。てっきり、アルトさんの後を追って進学するのかと思っていました」
うわぁ、それストーカー……。
って、なんで輪は冷や汗をかいているんだっ。ま、まさか……。
いや、今は考えないことにしておこう。考えたくない。
「うち付属の大学行くつもりだけど、その前に単位落としそうだよね。音川輪」
「う、うっせぇ!」
「おい、音川。単位落としたとか言ったら、容赦しないぞ」
「なぜにお前が言うんだよっ!!」
どうやら、輪には新しいトラウマが出来たらしい。夜神のテスト勉強というトラウマが。
それにしても、そこまですごいのか……。
夜神って、なんだか輪には容赦してないよね。
「そう言えばアルト、神楽同好会のほうの文化祭はどうなったのかしら?」
「ん? あぁ……いろいろあって楽器が壊れたんだよね」
「えぇっ?!」
その際、身体が入れ替わるとかよく解らないことになったけど、一大事にならなくて良かった。
ちなみに、伊莉那が入れ替わったのは近くにいた担任の先生だった。
まぁ、本人忘れているけど。
「んで、しょうがないから販売に切り替えた。手作りのなんかしらを売ることになりそう」
「あらら。楽器を壊すなんて、なにをしたの?」
「……ちょっとね」
「あぁ、こいつ転んで楽器落したんだよ」
「なにやってるのよ、アルト……」
お、音川輪っ。
きさまっ、裏切ったなっ!!
睨みつけると、明後日の方向を向いて口笛なんか吹いている。
……あとで、覚えてろよ。
そうこうしている内にカラオケは終了した。
建物から出ると、いつもと違う町中に出た。
歩く隙間もないような人ごみ。道の端にはいくつもの屋台が軒を連ねている。
さらに、電柱にはぼんぼりとかいろいろ飾られている。
祭の熱気が漂っている。
もう、六時になるのにまだまだ明るいなぁ。
ほんと、夏になったと考えていると、見覚えのある人が見えた。
「あれ、コジロウ?」
いつもバイトバイト言ってるけど、今日はさすがに祭だから遊びに来たみたいだ。
いや、もしかしたらバイトで何か買いだしに来たのかもしれないけど。
「さてと、みんなどこに行こうかしら?」
「じゃあ、お化け屋敷! ねぇ、たのしそうじゃない? アルトン!」
「いや、うちに言われても」
お化け屋敷とか、あんまりいい思い出が無いというか、最近リアルお化けとかよく見るようになっちゃったし。
どうやら、伊莉那と梨果はお化け屋敷に行こうという事で話がまとまりそうだ。
見ると、礼弥もまんざらじゃないようだし。
「……そうか。そろそろ僕は失礼する」
「あ、夜神さん。ほんとありがとうございました。また、勉強会する時に来てもらえるとうれしいです。特に輪君を」
「そうだな。特に音川がな」
「えぇ。特に」
「特に」
伊莉那と夜神のにこやかな会話。
……寒気がするのはなぜだろう。
「おい、夜神……おまえ、ぜったい遊んでるだろ」
「否定はしない」
「おいぃっ!!」
ちょっとだけ、同情しておこう。
ほんのちょっとだけ。
「あと、音川」
「なんだよ」
「……気をつけろよ」
「お前に言われなくてもわかってるよ」
「そうか……」
それにしても、音川音川言われると、どっちの事を言ってるのか解らなくなる。
名前で呼んでもらった方が良いんだけど……そういえば、夜神は輪の事を時々チビキって呼ぶけど、どういうことなんだろう。
こんど、聞いてみようか。
「心麗はどうするの? 私達と一緒に行く?」
「えっと……」
夜神とこっちをちらちらと見ている。
どっちについていくのか、迷っているみたいだ。
そこに夜神がこそこそと何かを言った。
「えっ、本当ですか?」
「……」
こくんと頷く夜神。
何を話してるんだろう。
「え、えっと、イリナちゃん! 僕もついてくから!」
「じゃ、行きましょうか。お化け屋敷に」




