さしあたって、相談をしてみる。
「では、クラスで何をやるのか、考えて来た人いますー?」
伊莉那の声に、何人かの手が挙がった。
現在は七月、文化祭は十月の始めだが、今の時期から準備を始めることになる。
次々と手が挙がっていく。
みんな、意外と考えてきたみたいだ。
「はいっ、お化け屋敷!!」
「次っ」
「販売!」
「なにを売るのかしら?」
「え……、ド、ドーナツ?」
「次っ」
「焼きそば売らないですか?」
「占いの館とか」
「なるほど……次っ!」
「コスプレ喫茶」
「却下です」
「メイドきっ――」
「却下っ!!」
伊莉那の声と、クラスメイトの声が入り乱れる。
「さっすがイリナ……気合入ってるわ」
伊莉那は文化祭の実行委員だ。
しかも、三年連続の。
「そうだよね。伊莉那っちと言えば文化祭だしね」
斜め前にいる梨果が話しかけてきた。
「最後だしさ、ことしはぱあーってやりたいよね~」
「まあ、そうだよね」
でも、こっちは神楽同好会もあるしな……。
あまり、クラスの方には出られないかもしれない。
「まあ、メイド喫茶とかはないけど」
「ですよねー。でも、リカは可愛いからいいとおもうけど。個人的にみたいわ」
「ちょっと。……あ」
なぜか、にたあっと笑う。
なんで?
「な、に?」
「アルトはいいよね。彼氏がクラスにいるからいつでも見せられるね」
な、な。
誰が、なんだってっ?!
「リカっ?! ちょ、ちょっとっ!!」
「え? なに?」
「わ、わたし、そう言う関係じゃないからっ!!」
「えー?」
いやいやいや、えーじゃないって。
睨みつけてもへらりと笑う梨果。
「もうっ、お前のせいだ!!」
「痛っ、なんだよいきなり!」
思わず横にいた音川輪をはたく。と、抗議の声を上げられた。
ったく、こいつのあの発言のせいだっ。
「そこっ、なにちちくりあってんの! 音川輪!!」
「オレっ?!」
「いろいろ黙ってなさい! それか、全校生徒の前で愛の宣言でもなんでもしないさい!!」
伊莉那の怒声に、クラスで笑い声が広がった。
「アルトさん、恥ずかしいです」
梨果の横にいる礼弥が手で顔を隠す。
……なんでだっ。なんでこうなったっ!
は、恥ずかしいのはこっちだ。
「ちょ、レミ。なんでレミが恥ずかしがってんの」
「いいえ。私ではなく、アルトさんを見てて、恥ずかしいです」
「どこがっ?」
その横でクラスの話し合いが苛烈していた。
「メイド喫茶を!」
「くどい!!」
メイドメイド言った男子、自分がやれ!!
放課後。
「結局、縁日になったね……」
「まあ、想定の範囲内だわ」
伊莉那は、深くため息をついた。
あの後、結局ベターな縁日に決まった。
わなげとかでもやるんだろうけど、なんだか最後の文化祭にしては華が無いというか。
もうちょっと、お化け屋敷とか販売とかの方が良かった気がするんだけど。
「まったく、メイドメイド叫ぶ男子どもは……」
「まあ、その代わり男子はメイド服を着る事してやったけど」
ベター過ぎるのも考えものだから、という事でそう言う事になった。
今から、どんなメイド服になるのかとみんなうきうきだ。
あ、もちろん主に女子がだけど。
音川輪がメイド服。そういえば、小時朗も……。
どう笑ってやろうか。今から楽しみだわ。
「アルト、顔が笑っているわよ」
「え?」
そうしている内に梨果と礼弥が帰りの支度をしてやって来た。
「さっきはナイスだったよ、伊莉那っち!」
「ふふ、そうでしょ?」
「恥ずかしいです」
「もう、レミレミは恥ずかしがり屋なんだから」
「いや、いまの会話でどこに恥ずかしがる要因があるの!?」
なぜ恥ずかしがった。
思わずつっこむ。が、礼弥はスルースキルを持っているのか普通に無視された。
「ああっ、もう、帰る!!」
「あれ、アルトン帰っちゃうの?」
「神楽の方行かないといけないから」
クラスでは数名集まって縁日の相談をするらしいけど、こっちには神楽同好会がある。
こっちでも何やるか決めないと。
「がんばってね、部長」
「ぐっ、イリナ、覚えときなさいよ」
最初、部長になるのは伊莉那のはずだった。
それを、伊莉那はぎりぎりで翻して私に押しつけて来たのだ。
まったく、私は普通にのんびりしたかったのに!
部長になったおかげでいろいろ会議とか出なくちゃいけなくて忙しいんだから。
まあ、今年で最後だけど。
そう考えると、ちょっとさびしい。
「じゃ」
「ばいばーい」
「んじゃねー」
そういって、私は南部室棟に行こうとした。
が、なぜかまだクラスの前にいた。
思わず、メイド服姿を想像してしまい、失笑。
こいつが、メイド……っぷ。
「おい、なんだよ」
「いや……なんでもない」
「まあいいけど」
「?」
あれ、妃奈と芽?
幽霊部員の一宮妃奈と名塚芽が、音川玻璃の後ろにいた。
「あ、部長。一応部員なんで来ましたよ」
「あー、この後トモダチと遊ぶ約束してるから、早くしてくれますー?」
「……はいはい」
……なんだかなあ。
それにしても、彼女らは神楽同好会になんで入ってんだ。
「あ、おりかは面倒だって帰りましたー。あははははっ」
芽がわらって言う。
笑いながら言う事かっ。
土御門織香も一年だけど、ほとんど来ない。
てか、一度も来てない気がする。
小時朗も来てないし、どうなるんだ神楽同好会。
今後の心配で胃が痛いわ。
とにかく、部室に行く事になった。
一二年は抗議の声を上げたけど。
「あ、シンリ」
部室に入ると、いつもの如く心麗が新聞を読んでいた。
いつも思うのだが、なぜに新聞を休日のお父さんよろしく読んでいるんだ。
そのくせして、読んでいるのは占いの欄。
……高二として、どうなんだ。
幼馴染として、心配だ。
「アルトちゃん。あ、一宮さんに名塚さんも」
「シンリ、みんなの前でちゃんづけはないでしょ」
「あっ。ごめん。アルト、先輩」
まあ、一年生以外は馴れてるけど。
「で、早速決めましょうよせんぱーい」
「はいはい」
ったく。
はいはい、早く帰りたいんですね。
「じゃあ、さっそくだけど、今年の文化祭どうする?」
「去年は何やったんですかー?」
「去年は、先輩と神楽を――」
「よし、今年は何も無しで」
「おいっ!!」
っは。
しまった!!
おもわず素でつっこんでしまったっ!
「メイの言いたい事は分かるけど、それはさすがに……ね?」
「っち」
舌打ちすんな!!
だめだ。頭が痛くなってきた。
「去年と同じでいいんじゃね?」
「でも、神楽を舞えるのって、うちだけだよ?」
去年の先輩は、きちんとした神楽同好会という肩書だけあった。
でも、今年は……ねえ?
まあ、三か月もあるから、やろうと思えばやれるけど。
「いや、オレもできる」
「……」
なんで……?
「ほら、オレ、音川だろ?」
「……」
ちょっとまって、数秒停止。
「お前、まさか忘れてたわけじゃないよな?!」
「大丈夫、思い出した」
そう言えば、うん。
「やっぱり忘れてたのか!!」
音川家の人って、大抵神楽とか舞踏とか能とかなんでもかまわず習わそうとする。世界で活躍するそんな伝統芸能のなかに音川の名を持つ者は多い。
非常に、迷惑だが。
だって、親戚中からどの道に進むのかって聞かれるんだよ?
ほかの選択肢なしで。
それ以外の選択肢はないのか!
……って言っても、特になりたい職業があるわけでもないけど。
っと、話がずれた。
「ぼ、僕だってちょっとしたやつなら最初のころ習ったよ」
「私も、ちょっとなら」
「あ、そう言えばそうか……」
そう言えば、去年は心麗ががんばってたな……。
って、妃奈は一回やっただけでしょ!!
それに比べて、今年の一年は……。
一人は名前だけの本当に完全幽霊部員だし、もう一人はまったく神楽興味なさそうだし。
三年生もだ。
伊莉那はまったく習う気も無さそうだったし、小時朗は一年の途中まではやる気だったみたいだけど、そのうち来なくなったし。
「三カ月あれば、どうにか形ぐらいは……」
「いや……むりかも」
「え?」
「楽器演奏とか誰も出来ない」
「「「……」」」
三人とも黙っちゃった。
まあ、判り切ってたことだけ――
「じゃ、今年は無しで。あはははー」
「おいっ!!」
笑って言うのは、名塚芽。
おいおい。
「え、でも、神楽って笛とか太鼓とか叩いてる所でやるんでしょ?」
「いや、そうだけど……」
「ちょっと待て!」
「え?」
「なに……?」
音川輪?
突然、口はさんで――
「笛は、叩く物じゃない」
「つっこむ所はそこか!!」
「まあ、それは置いといて、それなら一人、あてがある」
「えっ、ほんと?!」
まさかだ。
「あははっ。じゃあ、今年はそれで! 終わったからあたしは行くね!」
「ちょ、メイ!!」
まだ話終わってないんだけどっ?!
光りの速さって、あれくらいなんだろうね。
恐ろしいほどの速さで、芽は去って行った。
「お、音川先輩って、すごいんですね」
なぜか目を伏せた妃奈は輪に向かって言った。
音川先輩って言われると、なんだかめんどうだわ。
「じゃあ、私も失礼します」
そう言うと、妃奈も去って行った。
この後、他の部活動があるとか。
「ったく、結局いつものメンツか」
「まあまあ、そう言えば、イリナちゃんは?」
「文化祭実行委員」
「あ、そっか。じゃあ、今年もこっちには顔出せないね」
「うん」
去年もだったから、あんまり気にしてないけど。
「で、あてって誰なの?」
そういえば、神楽の演奏できるのって誰?!
「え、ああ……夜神だよ」
「え?」
……夜神って、シンリいわくおじじさま?
「あ、おじじさまか……でも、おじじさま在学生じゃないけど?」
「マユラに言えば大丈夫だと思うけど」
「え、校長先生?」
さすがだ。
校長脅すのか。
「まあ、大丈夫だよ。あいつ、昔やってたし」
「は?」
最後の意味がわからないけど、とりあえずそういうことになった。
「で、僕か」
南部室棟、神楽同好会部室に彼の姿があった。
「お願いできますか? おじじさま」
お願いしてるのは、先日の文化祭の件だ。
今、部員で神楽の楽を知ってる人がいない。
そうなると、踊れない。
文化祭にも出られない!
因みに、去年は四人の先輩のうち、二人が演奏してくれた。
「ぶっちゃけ、ヤガミさんの手伝いが無いと、文化祭出られないんだけど……どう?」
「……」
じっと考え込む。
そして――
「わかった」
「やった!!」
「あ、ありがとうございます、おじじさま!」
そうこなくっちゃ!
最後の文化祭だし、出られないってのも寂しかったから、よかった。
「それで、何をやるんだ?」
「あ、まだ何も決まってないんだ」
夜神がやってくれるか分かって無かったし。
「出るのは何人ほどだ?」
「えっと、一応四人。心麗と妃奈は要練習だけど」
「そうか」
でも、妃奈は出られないかもしれないな……。
なんてったって、掛け持ちの部が多すぎ。
「そういや、楽器とかは?」
「あ……物置」
南部室棟には、物置と呼ばれてる部屋がある。
その部屋は、南部室棟で活動している部活や同好会、サークルの要らない物や部屋に入り切れないモノを置ける共同部屋になっていた。
「こ、この中」
いつ見ても、酷いよな……。
そんな感想が出るほど、ごちゃごちゃになった部屋に、心麗は明後日の方向を見て、私は下を向く。
なんてったって、こんな事になったのは、うちらのせいだったりなかったり。
「あそこ」
「え?」
夜神が指した方には、本棚と思しきものがあった。
「あそこの二段目」
「?」
よくわからないが、行ってみるか。
机や梱包されたなにか、よくわからない段ボールを踏みつけ、よじ登り、時に落し潰し滅しながら本棚に近づいた。
「ここ?」
あれ……これ……。
見ると、楽器用品を入れといた箱があった。
ナ、ナイス。
てか、あんたエスパーか?!
思わず心の中でつっこみながら、向こうに向かって叫ぶ。
「すごーい。あった!」
「おーい、気をつけて、持ってこい。開けるな。絶対」
「はーい」
とりあえず、ゆっくりと来た道を戻る。
でも、私は忘れていたのだ。
踏みつけ、よじ登り、時に落し潰し滅しながらここまで来た事を。
「あ……」
「……」
直前見たのは、驚いた心麗と音川輪、そしてやれやれと言ったふうに目元を抑えた夜神の姿だった。
簡単に言うと、彼等の手前で転んだ。
しかも派手に。
「きゃあっ」
ああっ。
楽器が飛んでっ。
結構重い箱が宙を舞う。
そして、すごい音をして――ふたが外れた。
『きゃあああああっ?! なんで? 私が何したの?! いやああああっ?! の、呪ってやる! の ろ っ て や る う!!』
「は?」
それが見えたのは一瞬だと思う。
少女の影が箱から飛び出して、視界が真っ暗になった。
って、今の誰の声っ?!
「……痛ったあ」
頭をぶつけたみたいだ。
なぜか違和感を覚えながら、起き上る。
気絶してたみたいだけど……?
そして、一瞬遅れて気づいた。
「なんじゃこりゃあっ?!」
「……気づいたか、音川」
「いや、うん。だけど、え?!」
普段より高い視界。
低い声。
「なんであんたが私になって私があんたになって?!」
何が起こったの?!
私は、なぜか……夜神になっていた。そんでもって、夜神は私に。
「う……アルト……ちゃん?」
「し、シンリっ?!」
心麗がいた所に、なぜか魔法少女同好会部長が立っていた。
ちなみに、神楽同好会の隣の部室にいつもこもっている人である。
「あれ? なんかおかしい……?」
うん、おかしい。
いろいろおかしいぞ。
「まさか、音川輪もっ?!」
あいつも、まさか――
「残念だったな、オレはオレだ」
「……っち」
なぜだ。
それにしても、音川輪以外の人が入れ替わっている……って事だろうか。
外や、部室内から悲鳴や混乱が起こっている。
「ちょっと、なんなのこれ?!」
「呪いだな」
「呪いっ?!」
夜神はなにそんな悠然とした態度で言うのさ!
もっと慌ててよっ。
……それにしても、私が前にいるのって新鮮だ。
「さっきのはなんなんですか? おじじさま」
「そういえば、呪ってやるとか叫んでいたけど」
「あれは……霊だな。それも、ほぼ悪霊と化している」
「っえ?」
なんでそれが楽器の入った箱から?
そういえば、楽器!!
「あ、あった……」
よかった、大丈夫だったみたい。
箱の中の楽器は、どれも……あれ、なんかちょっといろいろと……。
「こ、こわれ、てる」
「なん、だと」
これ、どうすればいいんだろう。
壊れた楽器しかり、何か知らないけど呪われたしかり。
外での騒ぎが広がっているのがここからでもわかる。
いったい、どれくらいの人が入れ替わったのだろうか。
「さっきの悪霊を捕まえる。そうすれば呪いは解けるはずだ」
「わ、わかりました!」
「でも、さっきのどこ行ったのか……?」
「とりあえず、探すぞ。このままだと、大変な事になる」
「う、うん」
音川輪の言葉に頷くのも癪だが、とにかく動くことにした。
でも、なんで音川輪は入れ変わらなかったんだろ?
「どうした?」
「いや……って、まさか、イリナも誰かと?!」
入れ替わってる?!
急いで走りだすと、一目散にクラスに向かったのだった。
「……行ったぞ」
物置に一人残った夜神は、部屋に向かって声をかけた。
そのうち、棚の影からひょこりと黒い少女の影が現れる。
『ご、ごめんなさい……』
「いや、僕は別に気にしていない」
先ほどの少女だった。
夜神の前に飛んでくると、泣きながら謝る。
『ね、寝てて、びっくりして、おもわず呪っちゃったのです……』
「わかっている」
だから、音川アルトに箱を開けるなと言ったのに。
しかし、箱の中に幽霊が眠っているなんて誰も考えないだろう。
しょうがないか。と嘆息していた。
「それより、これはどうなる?」
どう見ても、アルトの姿。
それに其処まで驚くことなく、平然と少女の霊に問う。
『わ、わからないです。でも、私にそこまで力はないので……たぶん数分で元に戻ると思いますっ』
「そうか」
『……あ、あの。その娘が新しい部長さんですか?』
「そうだ」
『そう……部長さんですか……』
少女は、にっこりと笑って。
『じゃあ、さりさの後輩さんですね!』
そう、言った。
「そう言う事になるな、紗莉沙」
『で、でも、大変なことをしてしまいましたです……』
「べつに、大丈夫だろ」
そう言って、笑う。
彼女は、神楽同好会の部員だ。
八人目の。
「しかし、なぜその箱に?」
『こ、ここに入っていたらいつの間にかこんな場所に入れられて、吃驚したんですけど、とりあえず寝てたら……』
「こうなっていたのか」
『は、はい……』
「まったく」
紗莉沙の言葉通り、よく原理の分からない人物の入れ替えの呪いは数分で終わった。
幸いなことに、被害は校内のみだったらしい。
その後、校長の指示によって魔法使い以外の者達の記憶が消された。
だから、このことを知っているのは魔法使いのみしかいない。
「……で、なんなのこいつ!!」
私の前に、かなり古いタイプの制服を着た少女の霊がふわふわと浮かんでいた。
「ああ、霊だ」
「見りゃわかる!!」
そうじゃなくって、なんで霊が神楽同好会の部室にいるのかなの!
もう、なにがなんだかわからなくて、余りにも平然としている夜神に怒りたくなる。
でも、そんなことしても意味はないんだろうな……。
『あ、あの。私、紗莉沙というのです。あの、神楽同好会設立メンバーにして、いまだ在籍中の、八人目です』
「は?」
八、人目?
あの、まさか、あの、永遠不滅の八人目?
先輩とかが言っていた、居ることになっているけど居ないはずの八人目?
この、幽霊が?
『後輩さん達、よろしくです』
その日以来、幽霊部員が一人減り、幽霊の部員が部室に来るようになった。
「最近、怪奇現象多すぎだと思うんだけど」
「まあ、しょうがないよ、アルトちゃん」
「もう、私の平穏を返して!!」
なんだかんだで、第三話はこれにて終了です。
次回より、携帯が充電切れを起こすまでのお話し(仮)となります。
ありがとうございました。




