とりあえず、魔法なんてものを学びましょう。
「まず始めに、現在の魔法使いについて説明する」
水埜家、つまり心麗の家に私と音川輪、小時朗はいた。
心麗の家は、私の家からすごく近い。
徒歩一分もかからないところにある普通の家だ。
まあ、住宅街などと違って広い庭があるけど、それでも昔からあるっていううちんちや伊莉那の家と比べれば小さいし、ふつうの家だ。
聞いたところによると、昔ながらの家だから庭とかあるらしい。
で、どうして心麗の家にいるかというと、……勉強するため。
心麗の家で魔法なんてものを勉強するためだ。
まあ、その教師が輪じゃ無くて夜神なのは助かったけど。
音川輪には、教えてもらいたくない。
「昔……この世界には魔法が公然に存在した。神話の時代、神が人間に教えた秘儀だとか、知恵の蛇が人間に教えた禁術、神と交信をするための儀式、霊を慰めるための祀り……様々な魔法があった。しかし、神々が姿を消し、何かが変わって行った事でこの世界から魔法は少しずつ消えていった」
「ちょっと、まさか、昔は本当に神様なんてものがいたって言うの?」
そんなの、嘘に決まってる。
神って言うのは、人間の妄想の産物。
居たらいいな、とか、きっとこんな人が居ればという偶像にきまってる。
そう言うと、夜神は優しくほほ笑む。
「たしかに、いまの世界では、神はいなかった事にされているな」
不思議な人だ。
なんでも受け入れるような微笑みに、それ以上何も言えなくなる。
聞いたところによると、彼は心麗の従兄妹だかはとこだかまたいとこだか……とりあえず、親戚らしい。
説明が面倒だと省かれた。
「しかし、いたよ。確かに。今だって、時折姿を現す」
「でも……」
「いないと思うのなら、いないと思っていればいい。信じるのはその人それぞれだから。それが真実でなかったとしても、信じる者からすればそれは真実になる」
「……」
「僕も、『神』が存在するなんて信じていない」
「え?」
思わず、首を傾げた。
小時朗も、きょとんとした顔になる。
さっき、『居た』って言ったのは、夜神だ。
一体、どういう……意味?
「人々が信じる完全なる『神』は、居ない。でも、神と呼ばれる人を超越した存在は居る」
「??」
さらによく解らない。
でも、小時朗の方は解ったらしいけど、なんだか変な顔をしていた。
「話を戻す……神の姿が消えさると共に魔法は少しずつ消えていった。なぜなのかは分かっていない。そして、唯人が魔法使いの人数を越えた時……悲劇が起こった。コジロウ、判るか?」
夜神の突然の問い。
「え? えっと……魔女狩り?」
小時朗は戸惑いながらも答える。
え、これって問題出されたりすんの?
私、魔法使いとかについてなんにも知らないんだけど……?
そもそも、興味なかったし。
若干、いづらくなって、もぞもぞと動いた。
「そう、魔女狩りだ。魔法使いや魔女を、東西問わず術師を捕まえて殺した。
異端審問が行われ、信仰心が疑われ、魔道を懼れられ……処刑された。
もちろん、魔法使い以外の疑わしい人々も。そのせいで、魔法使いは急速に減少。ついには社会的に抹消された。もう、魔法使いは存在しない事になっている。それが、歴史的事実になっている」
「……そう言えば」
歴史の授業で、そんな話を聞いたような聞かなかったような……。
中世の魔女狩りだとか、異端審問だとか。
でも、遠い国の話だと思っていた。いや、今でも思っている。
大和国でそんな話聞かないし、近くであったとも知らないから。
「だからこそ、魔法使いの存在は隠されている」
「ど、どうしてですか、師匠」
って、何時の間に師弟関係になったんだ、小時朗っ。
あ、でも教えてもらっているし、私にとっても師匠になるのか?
「唯人にとって、魔法使いは得体のしれない存在であり、畏怖の対象であり……恐怖だからだ。人は、自分にとって理解できない現象や人物を怖れ、迫害する。いきなり、隣人が魔法使いだと言われてどう思う? 知人が人外の存在だったらどう思う?」
もちろん、戸惑うに決まってる。
そして、頭がおかしいのかとかいろいろ考えて……なるべく近寄らないようにする。
もし、私が前のまま魔法使いが居ることを、私が魔法使いの素質があることを知らなかったら、そうしていた。
「だから、また、第二の魔女狩りが起こらない様に、魔法使いの存在は秘密になっている」
「そう、だったんだ……」
だから、校長は伊莉那には言わないようにと……。
隣人が実は魔法使いですとか言われて、平然と今までのように普通に接することは出来ない。
それに、もし本当に魔法使いだったとしたら、恐い。
得体のしれない、もしくはとち狂った人と見てしまいそうになる。
伊莉那の場合、喜びそうだけど……。
「だからこそ、魔法使いは自らの力を隠し、僅かな同士と共に密かに現代を生きている」
「それが、水埜や師匠なんですね!」
「……そう言う事だ」
なんて言うか、小時朗のキャラって、思ってたよりも……うん。
「魔法使いと言っても、様々なものがいる。魔法を使う者、魔術を使う者、札術を使う者、陰陽師、言霊使い、死人使い、夢祓い師、導師……昔は、きちんとわかれていたが、今は全てを合わせて魔法使いと呼んでいる」
「へえ……」
「なんでですか?!」
「数が減少したことで、魔法使いというくくりにまとめたほうが便利だということでだ。まぁ、誇りの高い奴等は魔法使いと一つにくくられるのを嫌がるがな」
魔法使いって言っても、いろいろあるんだ。
なるほど。
そう言えば、夜神は言霊使いだとか言ってたっけ?
「音川」
「え? あ、なに?」
「お前は、風術師としての才能がある」
「あー、そう言えば、言ってたね」
初めて音川玻璃と会った時とかに言われたっけ。
あの時は、何言ってんだこいつ。と思ってたけど。まさか、魔法使いの勉強なんてすることになるなんて。人生わからないというか、なんと言うか。
「師匠、オレは?!」
「残念ながら」
「えぇっ?!」
じゃあなんでいるの?!
小時朗は、見るも無残な姿で斃れ伏す。
いや、そんなに落ち込まなくても。
てか夜神さん、なに合掌してるんですか。
……意外とおちゃめな、人? なのか?
「……オレ、才能ないのか」
なんだか、気の毒になって来る。
でも、魔法使いじゃないからって、落ち込む所じゃないでしょ。
「魔法使いとしての才能は、な」
「え?」
「ん?」
まるで、魔法使い以外の才能はあるみたいな言い方だ。
「えっと?」
「お前は、たぶん異能者だ」
「異能者? エスパーとかですか?」
そう言えば、どっかの映画でエスパーどうしの戦いとかあったな……。
さいこめとらーとかさいこばすたーとかどうのこうのやってた気がする。
「まあ、そのような感じだが……少し違う、か」
「??」
ん、違うのか。
「魔法とは、持っている力を術式や儀式、演唱や詠唱によって方向性を創りだし、魔法としてこの世界に顕現させるもの。異能は、力が術式などに置関係なく自然と発生してしまう能力だ。例えば、見鬼の才。これは、唯人では見えない鬼や精霊、霊体などを視る能力だ。それは、魔法と違い、なんの手順無くして発動することができる。まあ、もう少し詳しい事を言うややこしくなるのでやめるが」
「あー、うん。よく解らない」
「でも、アルトちゃんにも見鬼の才はあるよね? あ、はい、どうぞ」
横から心麗が入って来た。持ってきたのはお茶とクッキー。
どうして茶請けにクッキーなのか良く解らないが、とりあえず、ありがたく頂いておく。
それにしても、異能か……。
そういえば……学校の事件からへんな化け物みたいなやつらを視れるようになってたっけ。
あれが見鬼の才?
んー、だからと言って、魔法と異能の違いはよくわからない。
「例えば、ビデオカメラは電源を入れて録画ボタンを押さないと録画されないだろう?」
「う、うん?」
「しかし、監視カメラは電源が入っていれば四六時中録画されている」
「まあ、そうだね」
「録画するためにわざわざ手順を踏み手動でボタンを押すのと、最初から設定されていてボタンを押さなくてもずっと録画されている。その違いだ」
「うぅむ……」
なんだか、難しいようなそうじゃないような……。
「よくわからないような、わかったような。そう言えば、コジロウは昔から視えたの?」
「ん? ああ。そうだけど?」
「ふうん」
じゃあ、どうして私はあの時まで見えなかったんだろう。
「じゃあさ、なんでコジロウはあのコウモリの声聞いて平気な顔してたの?」
この前のやつで、コウモリの奇声で苦しんだ私と違って、小時朗はまるで聞こえてないみたいだった。
それに、あの場所から逃げられるように穴を開けたのも小時朗だったし……。
「……たぶん、コジロウは魔法を無効にする、もしくは影響を受けない体質だな」
「え。だから、なんにも影響なかったわけ?」
「嗚呼、あの世界に穴を開けたのも、その影響だと思われる」
だから、あの化物コウモリの声を聞いても平気な顔してたりパンチで壊したりできたのか。
「だからこそ、コジロウには魔法の事を教えた」
「……?」
「君のような異能を持つ能力者は少ない。もちろん、魔法使いも少ない。先日君を襲ったような化物は、それに乗じてどんどん増えていく。それを止めるため、君達の力を貸してほしい」
君達……って、私も?!
あ、いや、当然か。
「……オレ」
「……」
「無理です」
小時朗はあっけなく首を振る。
意外……。
ここまで見てきた小時朗なら、よろこんで頷くと思っていたのに。
「そうか、なら無理は言わない」
夜神は、あまり驚くことなく言った。
意外と淡白だ。
「でも……コジロウ、なんで? ここまで来といて、どうして?」
「……オレは、バイトあるから」
「そ、そう」
バイト、か。
なんか、いきなり現実に戻って来たような会話になった。
魔法とかの話の中で、バイトなんていう日常を思い起こす言葉はどこか異端だった。
さっさと帰る準備をする小時朗の様子を見ていると、何か腑に落ちない。
ただ、そんな感じで、この日はそれでお開きになった。




