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この世界に幸福を  作者: たにさん
第0章『帰郷』
1/15

第1話:おませなアイツは○○○!!

一人の男の子の日常?を描いた小説です。かなり長編になる予定なのであしからず!



「ーーーイャッホォォォォォ!!」


なんと心地よい風。

暖かい日光。

そして、新鮮な空気。


電車の中から顔を突き出した俺は、それらを感じて、一目散に声を張り上げた。


そして、


「き、君!車内から顔を出したら危ないじゃないか!!」


「……す、すみません!」


怒られた。





テンションの異常な立ち上がりを感じつつ、俺。

こと、

黒崎一和くろさきいつわは、駅員さんに注意され窓際の席に大人しく鎮座した。


「――ついに、帰ってきたのか。」


視線を外に投げ出す。


澄み渡る綺麗な空。

太陽に照らされ輝く海、そして木々達が生み出した新鮮な空気。


紛れもなく、故郷の匂いだった。






俺の生まれた街。

桜木町。


山と海に挟まれた土地にあるその街は、東京や大阪に続いての、近代新都市として世間から注目を集めている。

まだ、都市としては成長過程にあるが、近い内に、様々な会社がシェアを競い合うだろう、と、そんな今まさに有名な場所。


と、まぁ。街の紹介はあとにして。



その街を離れて、四年になる。

ちょっとしたゴタゴタがあって、街を単身離れて、別の町で暮らし、中学生になり、中学生活を終え、高校に上がり一年が終わった3月、此方にある本家の方から、「帰ってこい」との連絡を受けて帰ってきた所存だ。


しかも、桜木町にある、とある高校に通う事を決定付けられていた。

本来、通っていた高校も何故か自主退学というカタチになっていて、春から担任に「来なくていいよ」と言われた俺の気持ちのやり場の無さと言ったら、もう…。


とにかく、明らかに本家からの介入があったに違いない。


そして、現在。


今まさに、本家のある桜木町に電車で帰ってきた所だ。

というか、強制送還だろこれ。





窓から外を覗き込む。

遠く離れた位置に、街から空に突き出したビルがいくつも見える。

あれが、桜木町。

俺が街を離れた時には、あんなに突き出るように立つビル郡など無かった筈だが。

近代新都市として、テレビで騒がれる様になった街だ、そりゃ数年たてば変わるよな、針の毛山の様にビルが立っていても不思議じゃないよな。


昔、住み慣れた街が変わっていくのは寂しいが、仕方ないだろう。


そんな事を考えていたところ、車内のスピーカーから声が流れる。


「―――次は、桜中央駅。乗り換えのお客様はーー、」


そんなアナウンスを耳に入れて、


俺は久しぶりの故郷に胸を弾ませていた。




「―――、なんだ!この人の数は!」


桜木町の地下鉄の中心、桜中央駅。

その駅に到着し、電車を降りた俺は悲鳴にも似たそんな声を漏らす。


周りを見渡すと、

人。

人。

人。


駅内は人で溢れていた。

それはサラリーマンであったり、OLであったり、一般人であったり、春休みの時期だと言うのに、学生がたくさんいる。


何て言うか、ごちゃごちゃしていた。


しかも駅は大きく改築された様で、その規模、大きさ、新しさは俺が離れた数年前とは一目で分かるくらい違う。

というか、こんなパリの駅内みたいなデザインはしていなかった。

凄くお洒落な駅内ですね。などと感想を呟く間も無く、


お陰でここが何処か分からないくらいですよ、僕は。などと思う。


まるで浦島太郎。


駅、改装しまくってて、此処がどこかわかんねーくらいだぜ。

変わりすぎだろ。

つか、


「ここ何処?」


………。


なんていうか。


「ヤバい、せめて迷子にならない様に気をつけないと……」


周りを見渡し、俺は呟く。

こんな事になってるなんて思わなかった。駅が新築になってる。とか、どうしたら分かろうか。


たかが、駅だぜ?

駅なのに、こんな東京ドームクラスの数倍の広さだなんて勘弁してくれ。

というか、ここ近代新都市だった。


しかし、



迷子だけは嫌だ。


この年齢で迷子なんて恥ずかし過ぎる、つーか、確か迎えに、妹かアイツのどっちかが来てるはずだったな。

もし、迎えがアイツで、迷子になったとして、それをアイツに知られたら恥ずかし過ぎて、間違いなく俺は自殺するだろう。


それを知られたら恥ずかし過ぎて、間違いなく俺は自殺するだろう。



そのときだった。


pipipi。


「ん?」


携帯が鳴った。

画面には「苺」の文字。

ちなみに、苺とは簡単に言うと。此方にいる俺の妹。


義妹だけど。


「………。」


義妹だよ。


とにかく助けを呼ぼう。苺から電話がかかってきたという事は、苺が迎えに来ているハズだ。

電話内容はあながち、「いま何処にいるの?」といった具合に違いない。


「もしもし亀よ。」

直ぐ様、電話に出る。


「あ、お兄―――。」

電話の向こうから聞こえる苺の声。


が、

プツン。

ツー、ツー。


電話は突然切れてしまう。


「え、何事?電波テロ?」


なにそれこわい。


俺は眉間を寄せつつ、携帯画面を見る。


『電池残量がありません。』


「―――なん、だと」


俺の身体は暫く硬直していた。

たぶん、暇だからって、一人電車内でエロ動画をダウンロードしては見ていたのがいけなかったのか。


片手に担いだ鞄が何故か、いつも維持に重たく感じ―――、、、


って。絶望にうちひしがれている場合じゃない!


電話がなんだ!

妹が迎えに来てくれるがどうした!


他人に頼ろうなどとするから、こんな自体を招くのだ。

過去、見果てぬ地、コロンビアを目指して向かっていった先人達も、見果てぬ島を目指した先人達も。


自分を信じて突き進んだからこそ、目的地を見つけるという偉業を成し遂げたのだ。

他人に頼ろうなどと考えた自分など捨ててしまえ。


所詮、頼れるのは自分だけなのだから!



気合いを入れ直し、人混みを見据える。


思い出せ、昨日。妹と連絡をとった時の事を。

苺は、私か優姉のどちらかが東口で待ってる。と言ったハズだ。



つまり、結論として、「東口に行けばいい」だけの話。


迷ったらどうする?


迷う?は!

アホか。


迷わない為にあれがあるんだろう!


俺は頭上を見上げた、さっき気付いたがこれがある限り迷子になるなんてありえない。


頭上に掲げられた案内板。

そして、その板に文字。


『この先、東口』


案内標識。


まさに、天の救いの召喚である。






……十分後。


西出口前。


標識の壁にもたれかかり地面に体育座りで、鎮座する少年。

迷子になった哀れな馬鹿―――黒崎一和の姿がそこにはあった。


「どうしてこうなった。」


迷子の口から漏れていたのはそんな言葉。

明らかに自業自得である。


可笑しい、明らかに可笑しい。

案内標識に従って進んで、東口に明らかに向かっていたはず。


なのに。




『西出口前。』




「どうしてこうなった!!」


何が起きた!パラレルワールドか!


「もうだめだ。」


立ち上がり、壁に寄りかかる。

無理だ。

あぁ、認める。認めるさ!

迷子さ。迷子になったよ!

だからどうした!これが俺だよ!俺ですよ!だから何?何なんですか!?


もう、


無理ぽ。


と諦めかけたその時だった。



「―――お兄!!」


「え?」


向こうから声。

顔を上げて前方を見ると、離れた位置に女の子が立っていた。

その女の子は赤い髪を丸い髪飾りで飾り、澄んだ瞳を見せて。

めちゃくちゃ可愛いい。声かけようかなぁ。


じゃなくて、


あの髪色は。

妹の苺?


「――お兄、探したよ!何処に行ってたの!」


苺は俺の側に駆け寄ると、そう声を投げ掛けてきた。

息はきれていて、今まで俺を探していただろう事が直ぐに伺えた。


だから俺は、


「遅い!」


「え?」


そう言葉を発する。


「遅いぞ、苺よ。西出口前で待ち合わせって昨日話したじゃないか。」


迷子になった事実を知られたくない俺。

妹に迷子になったなんて、知られたくないよね人間だもの。


「え、話したっけ?私、確か東口って、、」


「いや、確かに西出口前って言った。俺は覚えている。苺や、迷子になるなんてダメだな〜、こいつぅ~、HAHAHA。」


高らかに笑う俺。

そんな俺を、怪しげな眼で妹は見ていた。


「ねぇ、お兄。」


「どうしたのかなマイシスター。」←真顔


「もしかして、迷子になったの?」


妹は勘が鋭かった。


「グフッ!、」


俺は血を吐いた(心境)。


「いや、でも。例え、お兄でもさすがに、『たかが駅』なんかで迷子になんかならないよね!」


「グフッ!グフッ!」


次々と胸にとげが突き刺さる。って、ぎゃーーー!!

痛い、胸が痛いよ!!


「どうしたの、お兄、顔真っ青だよ?」


「な、なんでもない、よぉー?」


冷や汗が止まらない。


「……。その反応いかにも怪しい…。やっぱり、お兄。図星?」


「………。」


う。妹の視線が痛い。


「迷っ、迷うって、そんな訳ないだろ!子供じゃないんだぜ!?」


「……、ふーん。」


「なんだ、その人を疑う目は!全然、迷ってねぇよ!標識に東口こちらですって書いてあったからついて行ったら西出口前にいた。なんて事があるわけないだろ!!!」


「ようは、迷ったんでしょ?」


「違うわ!標識が俺を騙したんだ!JRの罠だ!道が分からなくなっただけだ!」


「迷ってんじゃん!」


「はぁ、」


苺は声をあらげると、ため息をついた。

って、あからさまに俺を見てため息をするな。


「なんていうか、お兄は変わってないね。」


「変わってるだろ、男前になった辺りが。(キリッ)」


「え、、……どこが?」



…涙が出そうです。



「変わってないよ。意味不明な嘘で物事を誤魔化す辺りとか。」


ギクッ。


「ギクッ。」


「擬音、口に出さないでよ。」


「最初から、気づいて…いたのか。」


「え、気づかれていないと思ってたの?」


―――なん、だと。


「うるへー。お前だって昔と変わってないだろうが!」


「私、変わってない?」


俺は苺を真剣に見る。


「どこか変わったか?あー、身長が伸びたな。」


そんな事を言う俺に。

苺は手刀を繰り出した。


ドスッ、


頭にクリティカルです、はい。


「ッ!」


何故だか分からない一撃。


「なにすんじゃー!お前はあれか?久しぶりに会う兄に手刀を喰らわす癖でもあるのか!!」


怒鳴る俺を、苺はジト眼で見つめていた。


「普通さぁ、そこは可愛くなったねー。とか綺麗になったねー。とかそう言うのがお約束なんじゃないの?」


「えー。」


お前、俺をけなしたじゃん。お約束じゃないじゃん。全然誉めてくれなかったじゃん。

カッコよくなったねって言ってくれなかったじゃん。


「可愛いな苺は。美人になった。なんていうか綺麗だ。びびるぜ!惚れてまうわー!!(棒読み)」


棒読みで返す。


恥ずかしく真面目に言えるかよ、とはいえ俺なりに誉めてやったハズだが。

チラリ、と苺を見る。


ゴゴゴ。


凄い怒ってる表情をしていた。


ちょ、おま


「ーーーお兄のバカ!」


「馬鹿て、」


「変態!痴漢!色情魔!ロリコン!バイ!」


「ひ、ひでぇ。」


凄まじい罵声。俺の評価、こんなの?

というか、俺バイだと思われてたのか。流石にへこむわ。


苺はそう吠えると、走り去って行こうとする。

お、おい!


俺は即座に追いかけ、。

すると。


「お兄。」


苺がこちらを振り向き、そして。

舌先をペロリと出して。



「―――おかえり。」



そう。確かに紡いだ。


……。


苺はそう行って、走り去る。

赤く頬を微かに染めて。


「はは、」


いつの間にか、おいてけぼりをくらった俺の口元には笑み。

何て言うか。


可愛いじゃないか。


確かに可愛くなったな。


そんな事を。少しでも、思った。



苺とそんな掛け合いをして、久しぶりの家族に。俺は強く、


あぁ、帰ってきたんだ。って。


思う。

数年ぶりだけど、うまくやれるだろうか。俺は。

そんな事を感じて、離れていく苺の姿を視界に見届けつつ、、、、


って!


「ーーー、苺?苺さーん!!」


俺、ここが何処だかわかんねーんだってば!!


一目散に駆けていく苺を追いかけて、俺は全力で走り出す。

桜の街。

帰京1日目の、最初の出来事。









とりあえず、駅から無事に出た俺たちは、とある場所を目指して街を歩いていた。


とある場所とは。

俺を養子にしてくれた那奈夜家の本家だ。


ちなみに、俺は元々孤児だ。幼い頃で覚えてないが、事故で両親を無くしてしまったらしく孤児院に預けられていて、そこをたまたま通りかかった那奈夜家当主。


那奈夜章造。に目をつけられ、養子に迎えられたらしい。


なんでこんな他人事見たく喋っているのかと言うと、当時の記憶はほとんど無く聞いた話だからである。

まぁ、記憶が無いのにも事情があるんだが。


ちなみに、苺も孤児で。俺を養子した数ヵ月後に、俺と同じ経緯で養子に迎えられたらしい。

他にも、色んな事情や話があるんだが、その辺は追々話していくとしよう。



挿絵(By みてみん)



「お前、身長伸びたな。」


「そう?」


前かがみで顔を覗き込んでくる妹にそう言う。

妹の苺の身長は俺と同じくらいである。


その身長差は6cm弱。ちなみに、俺の方が大きい。

本当だよ。


昔は、まだ17センチくらい下だった気がするが、苺も成長したんだろうなぁ。


それに比べて俺は。


べ、別に悔しくないんだから!


大丈夫だ。俺は少し成長期が遅いだけなんだ。

ところで、妹の苺の髪は赤い。何故か。これには少し事情があって。

まあ、それはまた次の機会の話。


「――お前、寒くないのかよ、その格好。」


「全然、寒くないけど。」


季節は春。もうすぐ四月になるとは言え、まだ暖かくなるには早い時期。


妹の苺は、パーカーに短パン。それにニーソックスと、この季節には以外と薄着な格好だった。


「そんなの言ったら、お兄だって寒くないの?」


「俺は慣れてるからな。」


苺が俺の服装を見て言う。ちなみに俺の格好はダウンにジーパン。



「それにしても、桜木町は変わったな。四年前とはうって違うぞ。」


俺は周りのビル街を見渡して言った。

周りには、頭を上に全力で上げないと一番上が見えない。そんなビルがいくつもあった。

俺がこの街を出た時は、間違いなくこんなビル達は無かった。いや、少なからずはあったんだが、こんな六本木ヒルズみたいなビルは少なくとも無かった。


それに、街の光景もかなり変わっていた。

所々に、ブティックなど様々な店が軒を貫いている。

つか、テレビで見た事がある有名店もあるぞスゲー。

まるで、新宿や池袋の様に店があり。人の数も凄まじく、軽くスクランブルなんだが。



「え。あ、そうか。お兄は知らないか。」


「何が。」


「街の名前変わったんだよ。」


街の名前が変わった。つまり、もう桜木町じゃないって事か?

マジか。

いつ?


「今は、桜坂町って言うの。桜並木の立ち並ぶ坂に面した街。って意味らしいよ。」


「桜坂町?」


「うん。ちょうど数ヵ月前からかな。ちょっとした街起こし的なのがあってね」


街の名前が変わった。そんな事、全然知らなかった。つか、誰も教えてくれなかった。

この街を離れた後、しょっちゅう「アイツ」や苺とは連絡を取り合っていたハズだが。

もしかして、俺はぶられてる?

いやぁ、そんなまさか。

うそだよね。


「ついに、名前まで変わっちまったか。」


「まぁ、お兄帰ってきたの四年ぶりだから。」


四年という月日でこれほど変わるのか。

行き慣れた駄菓子屋が一ヶ月後コンビニになってるくらいの驚きようだぞ。

とは言え、近代新都市だからなぁ。


「――アイツは元気か?」


俺は苺にアイツの現状を聞く。

ちなみに、アイツ。とは。優香という女なのだが、まぁ、その内、現れるだろうから省略。


「優姉?元気に決まってるじゃん。今日、本家でお兄が帰ってくるの待ってるハズだよ。」


ちなみに苺は優香を優姉と呼ぶ。


「げ、優香の奴、本家にいるのかよ。会いたくねー!」


「また、そんな事言う。優姉、お兄に会えるって今朝、凄い笑顔だったんだから。」


「どんな笑顔?」


「うーん、ちょっと黒い感じ?」


「嫌な予感しかしない!!」


優香の笑顔はロクな事考えていない時の表情だ。


「ちなみに、和志くんも来てるよ。」


「あー、それは本人からメール来たから知ってる。」


それは知ってる。

昨日夜中、「那奈夜本家にて待つ」。という何だか一騎討ち的なメールが送られて来たから良く覚えてる。



和志とは、まぁ俺の悪友と言うか。

那奈夜家に養子に入ってから出来た友達みたいなもんだ。



「お兄。」


「はい?」


「確かこの辺に迎えが来てるハズだから。」


「迎えが?」


「うん。那奈夜家の車が来てるはず」


歩いている俺たち。

いつの間にか、都市部の中の公園。

桜木公園に着いていた。あぁ、ここは名前変わって無いのね。


この公園は四年前もあった。

だからよく覚えているハズなんだが、あれ可笑しいな。ある程度ジョギング出来るくらいの大きさの公園だったハズなのに。


案内を見てみる。


気のせいか、大阪城公園の二倍くらいの広さの面積が案内で伺える気が。

つか、動物園とかあったっけ。博物館って何?

記念開館って何の。

あれ、名前だけ当時のままで俺の知ってる公園の面影が。


無い!


怖い。この街!


「お兄、こっち、こっち。」


と、苺が手招きをする。

あぁ、そうか迎えが来てるのね。

確かに、この公園。待ち合わせするには打ってつけかもな。迷わない限りは。


俺は、苺の指さす先。迎えに来た車に視線を、っていうか、視線の先にリムジンがあるんだけど、アレは何。まさか、


うおぃ、執事!?


「お待ちしておりました、一和様、苺様。」


やっぱり、うちの執事か。


「………」


「どうしたのお兄。乗らないの」


座席に乗り、手招きしてくる苺。

つか、迎えにリムジンで来るなや。

確かに那奈夜家は代々の古き良き名家で、桜坂町の大手財閥ってのは知ってるけど。

なんつーか、迎えにリムジンはダメだろ。


ほら、周りを行き交う人々の視線が痛い。


俺は軽くため息をついてリムジンに乗った。






桜木町。もとい、桜坂町は主に都市部と住宅地に別れている。


海に面した方に都市部があり、山に面した方に大型住宅地が。

という風になってる。上からみたらサンドイッチみたいに。


そして、住宅地の一括。高級住宅地の中に那奈夜家はある。


那奈夜家とは。


桜坂町に君臨する代表的ないくつかの財閥の一つであり、その資産は凄まじく、那奈夜家が動くと株が変動すると言われている。

何とも馬鹿げた、スゲー名家。


ちなみに、俺そこの養子。


俺の名前は黒崎一和。分かる様に那奈夜家の名を名乗っていない。

苺も那奈夜苺では無く、黒崎苺だ。

これにも、非常にややこしいというか、ドラマめいた事情があるんだが、それはまたのち。



「――相変わらずでけーな那奈夜本家。」


と言うわけで、現在俺がいるのは那奈夜本家前。

那奈夜本家の大きさは、まさに豪邸。つか異常。


総合的な面積は東京ドーム四個分。ちなみに大抵の面積が庭と呼ばれるものであり、つか庭広すぎだろ。


とりあえずリムジンから降りて入口にいるんだが、入口から家まで歩いて数百m以上って馬鹿げてるよね。


しかも、竹林や池があり、敷地内に幾つも存在している為、車は入れない仕組みになってる。

先ほどのリムジンは、恐らく裏手にある巨大な駐車場に止まっているハズだろう。

駐車場もデカイ。沢山の来客が那奈夜家を訪れるため、駐車場もでかくしないといけなかった為だろう。


那奈夜家は和風の家だ。それは建物、家の作りから分かる。

地面の砂は京都の砂。そして、竹林などは奈良の有名所から。

筍が掘れそうだな。


っていうか、庭でけーんだよ!

昔はよく迷子になったものだ。

富士樹林か!



「――行くか。」


足を進めて敷地内に。

竹林の中を歩き、


ある程度歩いた位置で。

モサモサモサ。何だか、何かが草でも食べている。そんな音が頭上から。


って、

頭上にパンダが。


「えー!!!?」


「どうしたのお兄。」


「苺!パンダ、パンダが!」


「何言ってるの、パンダなんているはずないじゃん。」


「でも、確かに。」

俺は頭上を見て。


あれ?いない。


「変なお兄。」

トコトコと前を歩く苺。

気のせいなのだろうか。いや、確かに。え?

なに、この庭。恐い。





「遠いわ!」


誰にツッコミを入れる訳でも無く、俺は吠えた。

入口から歩いて、10分以上。

現在やっと、那奈夜家玄関の前。


このツッコミ。本家に来るたび、毎回発します。

つか、この家は四年たっても変わらない。いや、あのパンダはよく分からないが。

俺がいた四年前はあんなのいなかったハズだけど。

つか、パンダって家で飼える動物じゃないよね、動物園にいるだけでも結構問題なのに。

あれ、どこから来たの?


でも、新都市だからな。

分からない問題は新都市のせいにしとこう。

じゃないと、俺の常識が崩壊してまう。



「とりあえず、」


戸を握る。ちなみに、戸の大きさもぱない。

「ただいまー!」

そう言って扉を。



「おかえりなさいませ一和様!!」


「どわぁ!」


開けた瞬間。

視線に映る数十人の人間。

そして、数十人のおかえりなさいの言葉。思わずびびってしまった。


扉を開けて、玄関。何故か、玄関には数十人の人間達が。

全員、使用人だ。


恐らく、俺が今日帰ると聞いて待機してたんだろう。

改めて、名家の凄さを見た気がする。


「何事!?」


俺は、眉を寄せて使用人達を見渡した。


「いやー、久しぶりですな坊っちゃん。」


「元気してた?」


「いやー、大きくなったねー」


「四年ぶりかしら」



次々と、使用人達が俺に寄ってくる。


こっちくんな。

こっちくんな。


苺はその光景をくすくすと笑っていた。


いや、助けてくれよ。






「――人気者だね〜、お兄も。」


「やかましい。久しぶりに帰ってこれか!」


とりあえず、俺と苺は渡り廊下を歩いていた。

持っていた荷物は、使用人達に持っていかれてしまった。

多分、昔。俺が使ってた部屋に持っていかれたんだろう。


「お兄が帰ってくるの久しぶりだからね。みんなも会いたかったんじゃない?お兄、皆に好かれてるから」


「まぁ、良く本家には来てたからな俺は」



俺と苺はこの本家には住んでいない。

俺は、四年前街を出たが、それまでは俺と苺と家政婦でとあるマンションに住んでいた。

何故かというと、やはり名家の養子というのは色んな事情があり、那奈夜家に属する親戚間からはよく思われないものだ。

俺なんか親戚から影でゴミと呼ばれていた。

那奈夜家は来客が多かったりするため、どうしてもそういう目を浴びてしまう。


そういう事を気遣ってか、那奈夜の爺さんが俺と苺に新しい姓をくれ、新しい住み所を準備してくれた。


これが、俺と苺が黒崎と言う名字を名乗っている訳だ。


故に、普段。苺はあまり本家には顔を出さない。たまには出すんだが、それは来客があまりいない時とかに限ってしまう。


逆に、俺はというと。良く顔を出していた。

優香。那奈夜家の一人娘に何かあるたびに呼ばれていた(無理矢理)からだ。

何で事あるごとに呼び出され、毎回あの庭を歩き、ツッコミを幾度となく入れねばならんのだ。


という訳で、顔を出して使用人達と触れ合っているうちに、何故か仲が良くなってしまった。


「でも、気分は悪くないでしょ?」


「当たり前だ。」


苺と話をしつつ、渡り廊下を歩き。


「苺。俺、じいさ……いや、当主に挨拶してくるから。お前は?」


「私は。ちょっと優姉の部屋行ってくる。」


「そうか」


そう言って、苺と別れる。


当主の部屋は、本家の一番奥にある。


何ともラスボス的な感じがしないでもないが、挨拶くらいしておかないと。


入口到着。

コンコンと、ノック。障子だけど。


「一和です。」


そう言葉を放つ。


「入りなさい」


「はい」


障子を開けて、礼をして部屋に入る。

当主の部屋。畳がひいてある十数畳の部屋に小さな机が一つ、そして机の上には習字の道具達。


机には、一人の老人が正座で座っていた。

白髪を後ろに回し整え、老人だか若々しいハリのした顔を見せる。何とも貫禄がある。さらに、着ている和服がその貫禄をさらに引き立てる。


那奈夜章造。


その人である。







「座りなさい。」


「はい。」


そう声をかけられ、向かい合う形で、用意されていた座布団に腰を下ろす。


正座で、手を前にやり頭を下げる。


「黒崎一和。ただいま帰りました。」


「うむ。」



「……」

「……」


そして、二人共黙り込み。

数秒がたち、


「久しぶりだな、爺さん!」


「は、お前の顔なんぞ見たくなかったわい!」


同時に吠えた。






「――全く、年上。しかもこの那奈夜章造に対してその生意気。変わってないのぅ、一和。」


「年上だろうと貫禄には飲まれず、覇気を記せ。そう教えたの爺さんだろ?」


「ワシじゃないわい。優香じゃろうて。あのワンパク娘が。」


「爺さんソックリだと思うけどな」


「全く減らず口を、こんな若造に育てた奴の顔が見たいわい。」


「あんたらだけどな!」


当主。那奈夜章造。


代々那奈夜家の名を引き継ぎ、那奈夜財閥ともされる大財閥を作り上げた人物。


今はもう、白髪になってすっかりボケた爺さんみたいになっているが、その手腕衰える事なく、未だに政界、財界に名を轟かせている。


その姿、「那奈夜家の剛腕」と呼ばれ、政界、財界で彼の名前を知らないモノはいないらしい。


まるで、伝説のポ○モン扱いだ。いや幻か?


この爺さん、昔は様々な財閥を潰してきてとてつもなく恐れられていた訳だが。


今では。

すっかり、陽気な爺さんと化してしまい。養子の俺とも気楽に話す仲だ。



「久しぶりじゃが。まぁ、元気で良かったわい一和。」


「爺さんこそ、もう死んだんじゃないかと心配で。」


「アホ!まだ現役じゃい!見ろ、この腕を」


「骨と皮しかねぇじゃねぇか!!」


そんな事を話つつ、俺は座布団に腰を下ろした。


「四年たっても変わらないな爺さんも。まぁ、元気そうで良かったよ。」


むしろ、もうかなりの歳だろうに。いきなり心筋梗塞とかで死にそうなイメージが強い。


「して、一和。何でこっちに帰ってきたんじゃ。まだ、高校生活は一年しかたってない、まさに佳境じゃったろうに。」


え?


「あれ?爺さんや。」


「何をじゃ。」


「俺、優香から当主から帰ってこい。って伝言聞いて帰ってきたんだけど。」


そう、一ヶ月後前にきた。突然の優香からの知らせ。

それは、帰ってこい。と言う連絡だった。

しかも、手順が異常に早く、こっちの確か、盟桜学園とかいう学校に編入届けを勝手に出されていて、一人で暮らしてたマンションとかにも勝手にいつの間にか話をつけられて退去させられ、通っていた学校はまさかの自主退学、かなり無理矢理にこっちに呼ばれた訳だが。


つか、来ざる得ない事情を作られたんだが。


俺は、てっきり何かあったのかと。


というか、野望か!

的な。



「わしゃ、何も聞いてないぞ。」


「――なん、だと」


「どうせ、優香の奴の思惑じゃろうて。あの娘、ワシの名前を使って裏で色々してたらしいが、まさか一和を呼び出す為とはな。」


「俺、何で帰ってきたの?」


「知らんわい。それこそ、あのワンパク娘に聞かんばかりはな。」


そんな馬鹿な!



「優香なら部屋におるぞ。顔出して見たらどうじゃ。」


「いや、出す気だったけど。てっきり、爺さんに呼ばれたんだと思ってたんだが。」


はぁ、とため息をついて座布団から立つ。

何が起こっているのか意味不明だ。


俺は障子を開けて爺さんの部屋を出た。








全く意味不明だ。


頭を悩ませながら、廊下を歩く。

此方に帰ってくるハメになって、此方の高校に通う事が決定されて。てっきり、爺さんが何かやむを得ない事情で、俺を呼び出した。とばかり、思ってた。

が。


まさか、あのワンパク幼馴染みが考えた、何らかの思惑だったとはな。


全く、アイツは何考えてんだ。

まぁ、今から。部屋に行くんだから直接聞いてやんぜ。

アイツは何を考えているか全く分からない人間、というジャンルがあるなら、間違いなくそこに入る奴だから。

何を考えているか分かるハズがない。


俺の幼馴染み。

つか、ここに養子に来てからの付き合いである、那奈夜家の一人娘。

那奈夜 優香。一応、戸籍上では、姉ということになるはずなのだが、俺と優香の関係上、そのような関係に落ち着くわけがなく、まわりには幼なじみという関係で通っている。



運動神経抜群、才色兼備。

その美貌は、有名モデルにすらヒケをとらないくらい。

スタイルもよく巨乳。まさに、女の中の女。と言わざる得ない、まさに女の鏡。たる、俺の幼馴染み。


なんだが。

いかんせん、性格が悪い。そりゃもう凄く。悪いつか、ワガママ。ワンパク。


奴とゴジラを並べたならば、明らかにヤバいのは前者だ。


ゴジラは暴れたら、まだ建築物破壊で済むだろうが、優香が暴れたら、いくつもの会社が潰れたりと、この世の終わりがくると言わざるえないほどの人災が起きるに違いない。


しかも、被害は俺にもふりかかる。

何とも厄介な幼馴染みだろうか。誰かあいつを、永遠に封印してくれと頼みたいくらいだぜ。



その幼馴染みの部屋に向かう。


優香の部屋は、本家ではなく一定距離を置いた離れの二階にある。

ちなみに、その離れの一階には俺と苺の部屋もある。まー、今じゃあんまり使ってないけどな。


本家から繋がれた渡り廊下を歩いて離れに移動。

階段を上がり、到着。

ちなみに、何故か優香の部屋だけ洋室であり、ドアは、障子ではなくノブになっている。

これは一重に、優香が畳嫌いというだけの事。


「優香ー、いるかー」

そう言いつつ、ドアを叩く。


……。

反応が無い。霊圧の反応さえ無い。


いない、のか?


「優香ー、」

俺は、とりあえず。とドアノブを回し。


た瞬間。

「のわぁ―――、」


ドアが勢い良く引っ張られた。

え、。硬直状態のまま、そのまま部屋の中へと引っ張り込まれ。


待ち受けていたのは。

優香。

そのまま、優香の腕が。俺の襟と袖を掴み。

足を払い、俺の身体は制御を失い、空中を回転し、背中から床に。

バシンッッッッ!!


「――ぎゃぁぁぁぁあ!!」


叩きつけられた。








「、って、何すんじゃーッ!!」


立ち上がり吠える。

地面が畳じゃなく、木の板であったせいか、威力倍増。俺だから助かったが、普通の人間だったら痛みで悶えているに違いない。


「あら、一和じゃない。」


「あら。じゃねぇーーッ!」


吠える俺に、優香はケロッ、と何事も無い様な顔を見せた。


黒髪を腰まで垂らし、引き締まったウエストとスタイルを見せつけんばかりに、俺の眼中に立つ幼馴染み。


「アンタ、何してんの?」


「それ俺の台詞なんだけど!」


「何って、背負い投げ。」


「いやいや、何で俺、投げられたんだよ!?」


「人を投げるのに理由が要るの?」


「要るよ!!」



反省の色も無く、それが何?と言わんばかりに此方を見る。


とりあえず、俺は。ため息をついて、地面に座った。

この女、反省なんかしやがらないからいくら怒鳴っても一緒だ。まぁ痛みが無いのがせめてもの救いか。



とりあえず、落ち着け俺よ。

この天真爛漫はいつもの事だ。

自身を落ち着かせるんだ。


とりあえず、落ち着くか。


久しぶりの優香の部屋、四年ぶりで結構見た目は変わっていた。

というか、


「何ともファンキーな部屋だねぇ。」


周りを見渡して、そうぼやく。


優香の部屋は彼女に似合わず、女の子らしい。沢山のぬいぐるみと整理された置物、ゲーセンでとったり、ディズニーにいったりしたのか、いかにもな可愛らしいモノが所々に飾られている。



それに明るい色のカーテンやマット。


彼女を知る人間にとっては、コワモテなお兄さんの部屋が実は、キティーちゃんだらけの可愛らしい部屋だった。

くらいの違和感を感じる。


俺のダチの、和志なんか。優香の部屋はきっと、トレーニングルームばりに男らし過ぎるモノが置いてあるんだろう。と思ってたらしい。


「へー、ぬいぐるみとか置いてあるんだな。似合わねー、――って、グハッ!」


俺の頭に、辞書が突き刺さる。


「似合わ―――、何って?」


「いやぁ、可愛らしい部屋ですなぁ。ぬいぐみとか優香さんにはとてもお似合いですな!!HAHAHA!!」


「分かればよろしい。」


恐い幼馴染みだな、おい!。


ところで話は戻るが、


「俺は何故に背負い投げを?」


「またその話?っていうか。ビックリしたのは私よ?てっきり、爺さんがやってきたと思ったんだけどね。」


「何でだよ。」


「爺さんから、ついさっき。お前の部屋に奇襲をかけるわい。って連絡があってねぇ。」


まさか。


「上等じゃん。とばかりに、いきまいてたんだけど。まさか、入ってきたのが一和とはねぇ。」


「………」


俺、そんな理由で投げられたの?


つか、あの爺さん。俺が優香の部屋に行く、って爺さんの部屋から出た瞬間、分かってて電話しやがったな。

あとで覚えとけよじじい。後で、奴の大事にしている掛け軸コレクションを抱き枕カバーにすり替えてやる。


「まぁ、事故だから。事故なら仕方ないわね。故意は無いんだから。そういうわけで、まぁ、気に病まないことね一和。」


「病むわ!!」


「病むの!?」


「何故お前が驚く!?むしろ、病まない理由が無いわ!」


「なにそれ、、怖い。」


「お前の方が怖いわ!」


というか、気づいたんだが。


「あれ、苺は?」


苺がいない。

先に優香の部屋に行くとか言ってたのに。


「あぁ、苺?和志を呼びにさっき、出てったわよ。」


なるほど。

そいえば、和志が来てるんだったな。


そんな事を考えてたら、部屋のドアがノックされ音を立てた。


「入っていいわよ。」


「お邪魔……、あ、お兄。」

よっ。

と声を上げて入ってきたのは苺。


そんな苺を出迎え、た瞬間。


「一和じゃねぇか!」


苺の背後にいた、その背後の人物が、俺に勢い良く飛び交って来た。







「久しぶりだなぁ、一和。四年ぶり。だっけ?」


「あってるよ。」


適当に地面に鎮座し、向かいに座る男と会話する。

かるく茶色がかった髪。細い身体、

そしてイケメンと言える容姿をした人物。頭に巻いたバンダナを巻いた印象的な少年。

優香の幼馴染みであり、俺から見れば昔からの親友である存在。

戸塚和志とつかかずし


四年前とちっとも変わっていない親友。

いちおう、桜木町、いや今は桜坂町か。その桜坂町を離れても連絡を取り合ってたくらいの仲だ。



「それにしても、変わってないな一和は。」


「お前ほどじゃねぇよ。」


「お兄全然変わってないよねー。駅で迷子になってたんだから。」


「うわ、ださー。だけど、そこに一和らしさがあるな、いかにも。」


え、迷子になるのが俺らしさなのか?

俺って一体。


「うっせー、四年ぶりだからしょうがないだろ!」


JRの罠だ!


「四年ぶりでも、標識とかあるのに迷子になるなんてね。さすが、一和!素敵!」


「おい、優香よ。お前、バカにしてるだろ。」


「えぇ、馬鹿にしてるわよ。」


「まさかの肯定!?」


それにしても、優香の奴に何か聞かないといけない事があったような気が。


「一和。それにしても、何でこんな時期に帰ってきたんだ?高校上がるまで戻ってこない予定じゃなかったのか。」


和志が言う。


「それだ、それ!」


あやうく、聞き忘れる所だったわ!


「おい、優香よ!」


俺は優香を見る。優香はというと、苺が和志を呼んでくるついでにとってきたお菓子と飲み物をムシャムシャと食べていた。


「何で、俺に、いきなり帰投命令なんて出しやがった!俺、高校一年を終えたばかりで、今まさに学園生活が始まる良いところだったのに、此方に無理矢理帰ってこさせられた訳だが、どういう事だよ!!」


「バリバリバリバリ。ムシャムシャ。」


「借りてたアパートは契約が切られてるし、こっちの高校に通う事が勝手に決められてるし、高校は自主退学になってるしワケわかんねぇよ!」


「バリバリバリバリ。ムシャムシャ。」


「えぇい!食うの止めんかぁー!」


「一和!」


「どうした、和志!」


何事だ!


「このお菓子、結構美味しいぜ!」


「知るかぁぁぁあ!!!!」



俺の叫び声が虚しく、優香の部屋から木霊する。


帰郷1日目のことであった。







「で、優香よ。なぜ、俺をこの街に召喚した。その理由は何だ?」


お菓子を囲みつつ、四人で座る。

ちなみにここは優香の部屋。


ずっと、気になっていた。


なぜ、突然この街に俺は強制送還されたのか。

恐らく、何らかのやむを得ない事情があるんだろう。もしかしたら、家に、那奈夜に関係の何か事情があるのかもしれない。と色んな事を考えた。

ついに、その理由がほどかれる!

はず。


「それ私も気になってた。お兄って、高校卒業するまではあっち、確か、高草町だっけ?そこに一人暮らしするって予定じゃなかった?」


「そうだよな、俺もその話聞いてたから、一和に合えるのは高校卒業してと思ってたのに。」


「俺自身、その予定だったんだけどな。」


それに体のこともあるしな。


俺は、中学から高校卒業まで高草町と呼ばれる町で過ごすはずだった。

それにはとある事情があって、仕方の無い事だったはずだ。

だからこそ、俺は何も言わず、あっちで過ごしていたのに。突然の帰京命令とは何かあったと考えざるえない。


暇だから呼んだとかだったら、まじ止めてくれよ。何の為に、俺は帰ってきたのか。になってしまう。


優香が、俺を真剣に捉えて、その口を開いた。


「一和を呼び戻した理由は、」



理由は?




「暇だから!」





「ちきしょうめッッツ!!!」


俺は叫び、地面に頭を思いきりぶつけた!







「嘘よ。」


「嘘かよ!」


額を真っ赤に張らせた俺が叫ぶ。

もういい、我慢の限界だ。この幼なじみめ。

確かに俺は、一和くんって我慢強いよね、とか優しいよね、ツッコミとボケどちらかというと中間だよね、と言われるほどに温厚かつ草食系な今まさに、現代に根付いている男の子だが。

さすがの俺でも、限界というモノがある。

わかりますか?

私だって怒るんですよ、大佐殿。


「おい!優香!」


俺が叫ぶ。

と、


「おい、一和。」


和志が俺に声をかける。

俺を制するつもりなんだろう。が、止めるな和志よ、確かにお前は優香の幼なじみ、俺の親友というダブルポジションで落ち着かせたい気持ちは分かる。


だけどな、止まらねぇよ。

俺っちは、我慢の限界なんだ。

だから、


「こっちの菓子もうめぇぞ」


「だから、知るかぁぁぁぁあ!!」


「まぁ、お兄落ち着いて。」


「うわーん、苺ー」


「よしよし。」



苺の胸に抱きつく。慰めてくれるのは妹しかいないらしい。



「まぁ、余興は止めて。」


俺はケロッ、と立ち直り、苺の胸から離れる。


「で、俺をここに呼んだ本当の理由は?」


優香にもう一度問いかける。


「まぁ、本当はそれなりの理由があるんだけどね。」


「それなりの理由?」


それなりの理由。やっぱり、なんかしらの理由があったか。

俺を呼んだ=俺を呼ばざる得なかった。

という事だからな。


「実は、とある計画が、、、」


とある計画、だと!?


「――やっぱり言えない!」


「言えよぉぉぉぉッッッ!!」


「だって、まだ第一フェイズにも近づいて、あ、ごめんこれ機密事項だわ。」


「待て!第一フェイズって何だ!?」


「ごめんなさい、一和。やっぱり言えない!上はこの事実を貴方に話すわけにはいかないと言っているわ!」


「上って何だ!?」


「大丈夫。いずれ貴方にも話す時が来るわ。それまで貴方は生きて、心配しないで、貴方は私が守るもの。」


「綺麗に纏めるな!!!」


ハァ、ハァ。


「流石、一和ね!最高のツッコミよ!」


もうやだ、この幼なじみ。


「うえーん、和志ー。」


「さぁ来い、俺の胸で泣きな。」


なんて男らしい男なの。


シクシク泣く演技を見せる俺を後目に、苺が言う。


「優姉、そろそろ理由ちゃんと話してあげようよ。なんかお兄が哀れで。」


「誰が、哀れか!」


なんとも兄に対する罵倒が目立つ妹だね。


「そうね、本当の理由は。」


ごくり。


「今は言えない。」


ずさー(俺の心境)


「お前なぁ。ここまで粘ってそれかよ。」


「だって、言えないんだからしょうがないでしょ。」


真面目な顔をした優香がそう話す。


「言えないって、あれか?俺と苺と和志には聞かせられない事情がある。みたいな感じか?」


「まぁ、実質的にそうね。というより、今は言えない的な。」


「今は言えない?」


どういう事だろうか。

とはいえ、優香は基本、ギャグやネタで話を誤魔化す所があるが、根底を覆す事は無い。

本質的な会話の中では、嘘をつかない。

今は言えない事情があると言ったが、つまりは本当に、今は言えないんだろう。

だからこそ、追求は出来ない。


「じゃあ、今は聞かない。けど、いつかは話してくれるんだろう?」


「そうね。アンタには近い内に話すかもね。一万年と二千年後に。」


そんな先!?全然近くない!!俺、転生しちゃうよ!?


「はぁ。」


俺は小さくため息をつく。

そして、次の言葉を吐く。


「分かったよ、じゃあこの話は終わり。」


そうやって話を終わらせる。

『聞いて欲しく無い事は話さない、聞かれたくない事は聞き出さない。』

俺と優香の約束事。

俺が、俺になった時に交わした、昔の約束。黒崎・那奈夜ポーツマス条約第一条。



「なぁ、一和。お前、これからどうするんだ?」

和志が言う。


「ん?どうするって何が?」


「住まい的な意味で。」


「あー。それは、」


そう言えば、今のところの事は考えてたけど、これからの事は考えていない。

例えば、住む所。

俺と苺は基本、本家には住まない。

親戚の目があるから、など、養子なのでやむを得ない事情が幾つかあって。

いやー、本当に名家の養子って厄介な立場だよね。


「お兄、また私と二人暮らしする?」


「結局、それしかないよな。」


苺と二人暮らし。

この街から離れるまでは、苺と二人暮らししてるわけだから、そういう展開になるだろう。だが、その頃、俺はまだ小学生。そして苺も小学生。

つまり互いにガキだから上手く生活できてた訳で。

今は、互いに男と女に成長してるわけだから、状況が明らかに違い、互いに気まずい所があるだろう。果たして上手く生活できるだろうか。


これが、血の繋がった妹ならば意識など一切しないという自信があるが。

いかんせん、苺は義理だ。

義理の妹ですよ。


意識しない方が無理あるよな。

しかも、相応の年齢。これでいいのだろうか。


「まぁ、しかし。」


優香が言葉を紡ぐ。


「一和の荷物は、既に苺宅、つまり黒崎宅にあらかじめ送ってあるから、結局は二人暮らしだけどね。」


「既に決定事項かよ!」


っていうか、引越し屋に送って貰った、タンスや机などを含めた俺の荷物、何処に行ったのかな。とか思ってたけど、既に自宅に!?


「まぁ、家賃や食費、電気代とかは今までどおり1ヶ月ごとに、振り込んどくから。」


「なんていうか、ごめんね優姉。迷惑かけてるみたいで。」


「気にしない、気にしない。アンタ達は、那奈夜家の養子、私の家族なんだから。違う?」


「違わない。」


「それに、あんたは私の妹でしょ。妹の為に、姉がどうにかする。そういうもんじゃない?」


「ごめんね、優姉。」


「困った事があったら私に言うのよ、苺。一和がセクハラとか、覗きとかしたら言いなさい、私が鉄拳制裁かますから。」


「うん。ありがとう。」


キラキラキラ。





その光景を遠巻きに見る、俺と和志。


「何か、入りにくい雰囲気しないか和志。」


「なんてーか、百合?」


「いや、いちおう姉妹だけど。姉妹でも百合って言うのか?」


「わかんね。」


「なぁ。もしもさ、」


「もしも?」


「べ、別に、アンタ達の為にやってるんじゃないんだからね!とかここで、優香が言ったら嬉しいか、一和。」


「何故、それを俺に聞く和志よ。」


「いや、何となく。」


「そうか。」


「………。」


「………。」


「なぁ、一和。」


「何だ?」


「いや、何でもない。」


「そうか……」


「……」


「……」


何とも気まずい雰囲気から。

痛まれない俺と和志だった。






結局、お茶会もどきは終わり。


和志は帰宅。

あいつの家は、那奈夜家の隣。とはいえ、随分距離が離れているのは言うまでもない。


現在は夕方の、時刻8時。


俺がこっちについたのが3時近くだから、もう五時間もたったのか。

なんかすごく時間がたつのが早いね。と思わなくもない。



そして、俺は今。


「風呂に入っている!!」


誰も居ない風呂場で叫ぶ。


異常に広いお風呂。

言うまでもなく那奈夜のお風呂は天然の温泉を使った露天風呂だ。毎朝、名産の温泉を運んで、循環させ張り巡らせた天然露天風呂。

しかも、外に風呂場がある。

その広さといったら男湯だけで、温泉か!と叫びたくなるくらい。

まぁ、俺は慣れてるからあれだけど。


那奈夜の敷地内には、使用人達の住まいというか、そういう家もあり、使用人達もこの露天風呂を使ってたりする。

しかも、使用人達にはそれぞれ部屋が割りあてられたりと、金持ちなのに随分サービスがいいのも那奈夜家の特徴。


自分たちだけが贅沢するのではなく、家にかかわる全ての人に楽をしてほしい、と昔爺さんが決めてからそうなった。

ちなみに、夕飯とか飯の時間も何時からと決まっていて、使用人達全員で料理を食べるのも、ある意味習わしだ。


何とも、これを考えると自分がとんでもない家の養子なんだって実感するよな本当。


と、そんな事を考えていると。



「一和か。」


那奈夜の爺さんが現れた。

滅多に風呂場に現れない存在の登場に、内心焦る俺。


「爺さん、珍しいな。露天風呂に顔を出すなんて。」


なぜそういうかと言うと、爺さんが風呂場に顔を出すと、使用人達が風呂に入っていた場合、畏まってしまいせっかくの安らぎを邪魔してしまうから。

そんな理由で、爺さんは自分専用の風呂場を作り、そっちに入っている。

だからこそ、こっち入る場合でも、使用人達がいない深夜くらいにしか入らないはずだが。


「たまには良いじゃろ。誰も文句は言わんわい。」


「むしろ、爺さんに文句を言う存在がいるのか?」


爺さんは言ってしまえば、この家で一番偉い人間だ。そんな爺さんに文句だなんて。


「おるわい、ワシの息子に、優香。」


「あー。」

なるほどね。


「あと、一和。お前じゃ。」


「てへ」


「可愛くないわい!!」


なんとも絶好調なツッコミ。

この歳で、絶好調って本当に恐ろしいじいさんだね本当。


「で、優香から理由は聞けたか?この桜坂町に戻された理由が。」


「いいや、聞けなかった。というか、今は言えないって言われた。」


「そうじゃろうな。とは思ってたわい。」


「と言うと?」


「優香は、儂の知らない所で、儂の名前を使い、お前さんを無理矢理、こっちに戻らせた。つまりは、儂にも言えない事情のはず。そんな理由をあの子が、お前さんには話さんじゃろうて。」


なるほどね。


「まぁ、でも一和や。あの子はあの子で、無意味な事はしない。元々、優しい子じゃ。きっと、何らかのそうしなければいけない、あの子なりの事情があったんじゃろう。那奈夜家は大きく育ち過ぎた、色んな縛りや事情がそこには発生する。ともなれば、どんな事情がどこで絡まるか分からん、多分その内気付くじゃろう、あの子がお前さんを呼び戻したという事がどういう事なのか、とな。あの子の事を叱らんでやってくれまいか、一和や。」


「いや、別に怒ってたりはしてないよ爺さん。」


そう怒ってたりはしない。

優香は確かに天真爛漫でワガママ、手におえないトンデモ幼なじみだけど。


あいつが、優しい人間だってのは俺が良く知ってる。

本当は誰よりも優しくて、天真爛漫なフリをずっと続けている事も。


怒ったりはしないよ。


だって、優香の行動はいつも誰かの為。

そして、きっと正しいから。


それは、俺が、この那奈夜にやって来た時からの印象。

空っぽで欠陥だらけの少年が、初めて会った女の子に抱いた最初の感情。


「とはいえ、暫く厄介になるぜ。爺さん。過労にならないよう気をつけろよ。」


「ふん、優香だけでも手一杯だと言うに、お前さんまで戻ってきて、これから忙しくなるわい。」



そんな事を爺さんと話し合い、今日の1日は終わりに近づく。

帰京して1日目、まだ分からない事ばかり、というかおれが通う高校についてとか全く聞かされてないが、それはおいおい語られるだろう。

つか、語られないと俺が困る。


こうして、俺を取り巻く存在達による1日が終わる。


「というか、優香の両親、婆さんを全く今日1日見なかった気がするんだが、気のせいか、爺さん?」


「ふん、今頃グアムで旅行しとるじゃろうて。」


「なんじゃそりゃ。」


何とも金持ちって奴は……。








読んでくれた人、かんしゃ!

執筆速度、一時間で一万くらいかくので、普段忙しい身ですが、あげられる時を見つけたら随時更新しますので、よろしくお願いします!

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