第35話:目的外使用による急速充電 ~S級魔王を「大容量バッテリー」と「節電アプリ」にリサイクルしました~
魔王(中身はブリキ)が、赤熱化して膨れ上がる。
自爆までのカウントダウン、残り30秒。
俺のスマホのバッテリー残量、34%。
ここでトドメの『完全削除(Delete)』コマンドを使えば、演算負荷で15%を持っていかれ、残りは19%。
省電力モード突入と同時に、バックグラウンド通信が遮断される。
それはすなわち、ヒナへの「帰るコール」を送信できなくなること――家庭内信用の失墜を意味していた。
「九条さん! 早く! 迷ってる場合ですか!
世界が飛びますよ!」
アキラの悲鳴が鼓膜を打つ。
俺は額の冷や汗を手の甲で拭い、覚悟を決めた。
「……世界も、家庭も守る」
俺は真顔で宣言した。
「だが、そのためには『公務員のプライド』を一時的に捨てる必要がある」
「まさか、貴様……汚職でも受け取る気か?」
氷室が疑いの目を向ける。
だが、俺の狙いはそんなセコいものではない。もっと実利的な犯罪だ。
「違う。
『押収物件の私的流用(目的外使用)』だ」
俺はアキラとローズに指示を飛ばした。
「天王寺、ローズ! ヤツの『核』を露出させろ!
接触端子を作る!」
「「了解!」」
二人の動きは早かった。
アキラが赤く発光する警棒を振り抜き、膨張する魔王の動きを一瞬止める。
その隙に、ローズがケルヒャー改の残弾全てを叩き込む。
「これで最後よ! ハゲろブリキ野郎!」
ドバァァァッ!!
高圧の空気弾が胸部装甲を完全に吹き飛ばす。
剥き出しになったのは、赤黒く脈打つ高エネルギー体――魔王の心臓だ。
「今だ!」
俺はスマホの充電ポートに刺さっていた「錆びた鍵」を一旦引き抜いた。
そして、鍵の「持ち手部分(金属片)」を、スマホの繊細なUSB-Cポートにあてがう。
規格が違う? 知ったことか。
「ポートが壊れても構わん……!」
ガリッ、バキッ!
俺は無理やり鍵をポートにねじ込んだ。
嫌な金属音が響き、端子が悲鳴を上げる。
だが、このデバッグ・キーは、システムに強制介入するバグアイテムだ。
物理的な接触さえあれば、システム側が勝手に都合よく解釈してくれる。
『外部デバイス接続:認識』
『デバイス名:外部電源装置』
「よし、認識した」
俺はスマホに刺さった鍵の先端を、魔王の露出した核に向けた。
「お前のエネルギー、有効活用させてもらうぞ」
俺は鍵を、核の中心にブスリと突き刺した。
「接続確認。……『急速充電モード』、起動」
***
「ぐ、があああ!? な、何だ!?」
魔王が絶叫する。
「余の力が……吸われるぅぅぅ!?
爆発できない! エネルギーが逆流していくぅぅぅ!」
俺のスマホ画面に、『⚡Charging...⚡』の文字が激しく点滅する。
魔王が自爆用に溜め込んでいた膨大な魔力エネルギーが、デバッグ・キーという媒体を通じて純粋な電気エネルギーに変換され、俺のスマホのリチウムイオン電池へと吸い込まれていく。
「馬鹿な……! 魔法エネルギーを電力に変換しただと!?」
氷室が目を見開く。
「物理法則ごとハックしているのか!?」
「簡単な理屈だ、氷室」
俺は急速に増えていく%を見つめながら答えた。
「S級魔石のエネルギー密度は、リチウムイオン電池の数億倍。
自爆して無駄に熱として捨てるくらいなら、俺のスマホを充電しろ。
これが現代のSDGsだ」
「SDGsの使い方が間違っているぞ!」
ツッコミを無視して、俺は吸い続ける。
魔王の体積がみるみる縮んでいく。
反比例して、バッテリー残量が回復していく。
34%……50%……80%……。
そして。
ピロリン♪
『充電完了《Full Charge》』
画面に輝く「100%」の文字。
「よし。満タンだ。」
俺は鍵を引き抜いた。
魔王はエネルギーを吸い尽くされ、シオシオに萎んだミイラのようになって膝をついていた。
「き、貴様……。
余は……王だぞ……。魔界の王を……電源タップ扱いするな……」
涙ながらに抗議する魔王。
俺はアツアツになったスマホを操作しながら、冷徹にそのコアを値踏みした。
「……ふむ。魔力効率は悪くない。
それに、この『|自己修復演算プログラム《魔王の思考ルーチン》』……。
無駄なバックグラウンド通信を殺して、バッテリーを最適化する管理AIに使えそうだな」
俺はニヤリと笑った。
「役に立ったぞ。
礼代わりに、『再就職先』を用意してやる」
「は……? 再就職……?」
俺は実行ボタンに指をかけた。
本来ならここで『完全削除《Delete》』を押すところだが、俺は別のコマンドを選択した。
――コマンド:『抽出 & 移行《Migrate》』。
――対象:『メイン・プロセス(魂)』のみ。
「な、何を……!? 貴様、余の魂をどこへやる気だ!?」
「黙ってろ。
お前のその巨体は『違法建築』だから撤去するが、中身の『AI』はもったいないから没収する。
……俺のスマホの中で、一生タダ働きしてもらうぞ」
「は……はぁぁぁ!?
ふざけるな! 余は魔王だぞ! スマホのアプリになど……!!」
「拒否権はない。
……インストール開始」
ッターン!!
俺が画面をタップした瞬間、魔王の身体が激しくノイズに包まれた。
『GYAAAAAAA……!?
吸い込まれる……! 余の意識が……狭い箱の中にぃぃぃ……!!』
シュンッ!
魔王の意識(赤い光)が、デバッグ・キーを通じて俺のスマホへと吸い込まれていく。
同時に、魂を抜かれた抜け殻である「巨体」と「城」に対して、予約していた『削除《Delete》』が実行された。
「さらばだ。違法建築」
ズズズズズ……!
魔王の肉体が、足元から順にポリゴン化していく。
黄金の玉座も、悪趣味なシャンデリアも、全てが「0と1」の光の粒となって分解され、虚空へと霧散していく。
それと共に、周囲を覆っていた「工事用シート」と「鉄骨の足場」も、その役目を終えて静かに消失した。
***
数秒後。
俺たちが立っていたのは、何もない平坦な岩盤の上だった。
天井を見上げれば、バグっていた空は消え、ダンジョン本来の天井(岩肌)が見えている。
「……終わった」
アキラがへたり込む。
「本当に……事務処理で終わっちゃった……」
魔王城跡地は、綺麗な「更地」になっていた。
文字通りの原状回復完了だ。
その時。
俺の手元のスマホから、聞き覚えのある尊大な声が――しかし、安っぽいスピーカー音質で響いた。
『……お、おのれ人間……!
ここは何だ!? 狭い! 暗い!
それに、なんだこの「タスクキル」という不快な命令は……!?』
画面を見ると、ホーム画面の端っこに、デフォルメされた「魔王の顔アイコン」のアプリが鎮座していた。
アプリ名:『魔王バッテリーセーバー(広告なし)』
「うるさいな。バックグラウンドで大人しくしてろ。
バッテリーを1%でも無駄にしたらアンインストール(消去)するぞ」
『ヒィッ!? あ、悪魔め……!』
俺は満足げに通知をオフにした。
これでバッテリー持ちも改善されるだろう。SDGs(持続可能な魔王利用)だ。
全てが終わった。
その時。
ピロン♪
軽快な通知音が、静寂に響いた。
LINEの着信だ。相手はヒナ。
『パパ、お疲れ様!
今日、帰りにプリン買って帰るって言ってたよね?
まだー? お腹空いたよー』
俺は画面を見て、顔面蒼白になった。
バッテリー残量は99%。通信は正常。
だが――「帰宅時間」がクリティカルに遅延している。
「……いかん! 『プリン確保』のミッションが未達だ!」
俺は血相を変えて、仲間たちを振り返った。
ボロボロのスーツを着た氷室、へたり込むアキラ、スウェット姿で息を切らすローズ。
全員、満身創痍だ。
「業務終了だ! 解散!」
俺はバインダーを小脇に抱え、脱兎のごとく駆け出した。
「えっ!? ちょっと九条さん!? 置き去りですか!?」
アキラが叫ぶが、止まるわけにはいかない。
俺は走りながら、懐から財布を取り出し――クシャクシャになった千円札を数枚、彼らに向かってばら撒いた。
「俺は急用(プリン購入)がある!
お前らはその金でコンビニ行って、好きなもん食って帰れ!」
「はぁ!? 千円札投げつけて終わり!?」
ローズが舞い散るお札をキャッチしながら絶叫する。
俺は振り返らず、さらに怒号を飛ばした。
「足りなかったら自腹で立て替えておけ!
明日、領収書を持ってくれば『消耗品費』で全額決裁してやる!!」
「やっぱり経費かよ!!」
アキラのツッコミが、新宿の夜空に響き渡る。
だが、俺はもう聞いていなかった。
俺の視界には、駅前のコンビニの「プリン棚」と、その先にある「娘の笑顔」しか映っていない。
――身体強化・リミッター解除。
「待ってろヒナァァァァァ!!」
Fランク公務員の足が、アスファルトを蹴り砕いて加速する。
S級魔王を倒した直後とは思えない速度で、俺は定時後の新宿を疾走した。
俺たちの長い一日は、こうして幕を閉じた。
「魔王、スマホアプリ(無料・広告なし)になる」
驚異のバッテリー管理アプリ『魔王バッテリーセーバー』爆誕です。 世界を救った動機が「娘への連絡(充電確保)」であり、魔王の処分方法が「再就職」であること。これぞ九条ミナト。
読者の皆様、ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます! もし、この「斜め上の決着」や「九条のドケチ無双」を楽しんでいただけましたら、応援の☆を入れていただけると作者が泣いて喜びます! (皆様の☆が、九条のスマホ……ではなく、作者の執筆バッテリーを急速充電します! 何卒!)
さて、魔王は片付きましたが、まだ事後処理が残っています。
次回、第2章エピローグ。お楽しみに!




