表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
日本国ダンジョン省・特別管理課の定時男 ~Fランク公務員の俺、実は世界最強の「解析者」につき、災害級魔物も事務処理して帰ります~  作者: Ken


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/36

第34話:『行政代執行』完了、魔王城は施工中につき ~S級魔王をノーヘルで指導する部下と、世界より重いバッテリー15%~

 門番ゴーレムを粉砕した俺たちは、ついに魔王城の最上階へと到達した。

 バッテリー残量、34%。

 ケルヒャー改の異音、音程「ミ(E)」。危険域突入。


 重厚な扉を開けると、そこには目を覆いたくなるような光景が広がっていた。


「……うわっ、趣味悪っ!」


 ローズが顔をしかめて吐き捨てる。

 謁見の間と呼ばれるその空間は、床も壁も天井も、すべてが金ピカだった。

 成金のバスルームか、パチンコ店の新装開店か。

 目がチカチカするほどの極彩色と、無意味に回転するシャンデリア。


「……目が痛いな。これは色彩暴力だ」


 俺も同意し、ブルーライトカット眼鏡の位置を直した。


 その部屋の中央。

 見上げるほど巨大な黄金の玉座に、これまた規格外の巨躯が鎮座していた。

 全長3メートルは下らないだろう。

 全身を漆黒の重装甲で覆い、その上からジャラジャラと黄金の鎖や宝石を巻き付けた異形の巨人。

 この違法建築の主――魔王アーキテクトだ。


「ようこそ、余の美しき城へ。……震えよ、ひれ伏せよ」


 魔王が立ち上がり、プレッシャーを放つ。

 空間が歪み、重力が軋む。S級相当の魔力だ。

 普通ならここで絶望するところだが。


「……申請データ照合」


 俺は魔王を見もしなかった。

 スマホを取り出し、画面に表示されたこの城の「登記情報(の欠落)」を確認する。


「建築確認なし、構造計算書なし、景観条例違反、消防設備未設置……。

 よし、役満だ」


「き、貴様! 余の話を聞け!

 余はこのダンジョンの支配者、Sランク魔王だぞ!?」


 魔王が顔を赤くして叫ぶ。

 だが、俺はバインダーにチェックを入れながら冷たく返した。


「うるさい。今、『手続き』中だ」


 俺の態度に、魔王の堪忍袋の緒が切れた。


「おのれ人間風情が! 消し炭にしてくれる!」


 魔王の手元に、極大の暗黒魔力が収束する。

 だが、遅い。


「対話の余地なし。

 これより、ダンジョン法第98条に基づく『行政代執行』による強制措置を行う」


 俺はポケットから「錆びた鍵(デバッグ・キー)」を取り出し、スマホの充電端子に強引に突き刺した。


強制執行(エクスキュート)。……解体工事、開始」


 エンターキーを叩く。


 システムコール:『Generate Object: Construction_Site / Cover_Level: Max』


 ズゥゥゥン……!!


 地鳴りと共に、魔王城の周囲の空間から、無数の「鉄骨」が出現した。

 それは瞬く間に組み上がり、黄金の城を四方八方から包囲する「足場」を形成する。


「な、なんだこれは!? 余の城が囲まれていく!?」


 魔王が狼狽する間もなく、空から巨大な灰色の布がバサァァァ! と降りてきた。

 「工事用防音シート(メッシュ)」だ。

 黄金の輝きは薄汚いグレーのシートに覆い隠され、威厳など微塵もない「改修中の雑居ビル」のような姿に変貌した。


 さらに、空中には巨大なホログラム看板が出現し、回転を始める。


『解体工事のお知らせ』

『発注者:日本国ダンジョン省』

『工期:本日~即日完了』

『ご迷惑をおかけします』


「き、貴様らぁぁぁ!! 余の城になんてことを!!」


 魔王が絶叫する。

 だが、こちらの施工チーム(討伐隊)は止まらない。


「天王寺さん! 現場の安全確保だ!

 一般人(魔王)が工事区域に入らないよう誘導しろ!」


「了解! 安全第一!」


 アキラが前に出た。

 手元には、壊れたタブレットの代わりに、赤く発光させた警棒(誘導灯代わり)が握られている。


「はい、そこの魔王さん! 下がってください!

 今から重機入りますから! 危ないですよー!」


「は……?」


「あ、ヘルメット着用してますか!?

 工事現場へのノーヘル立ち入りは禁止です! 安全帯も着けてないじゃないですか!

 労基署に怒られますよ!」


「ろ、ろうき……? え、余は王だぞ……?」


 アキラのあまりに堂々とした「現場監督ムーブ」に、魔王が困惑して攻撃の手を止める。

 その隙を、俺たちが見逃すはずがない。


「ローズ! 洗浄開始だ!」


 俺が足場の一角を指差す。


「アイアイサー! 水源(仮設)確保!」


 ローズが蛍光スウェットを翻し、足場に設置された「工事用仮設水道」にホースを直結した。

 さらに、タンクに謎の液体ボトルをドボドボと注ぎ込む。

 ドンキで買わせた「業務用パイプフィニッシュ(濃縮原液)」だ。


「さあ、薄汚い『汚れ(魔王)』を落とすわよ!

 喰らいなさい! 『高圧・強アルカリ洗浄』!!」


 ブシュァァァァァ!!


 ノズルから放たれた白濁した激流が、アキラに誘導されて棒立ちになっていた魔王の顔面に直撃した。


「ぎゃあああ! 目が! 余の目がぁぁぁ!」


 魔王がのたうち回る。

 強アルカリ性の洗剤を含んだ高圧水流は、魔王が纏っていた「闇の衣」と「黄金メッキ」を、物理的かつ化学的に剥ぎ取っていく。


「やめろ! 貴様ら、神聖な城を汚すな!」

「はぁ? 汚れてんのはアンタよ!

 随分としつこい水垢ねぇ! 年末の大掃除だと思って諦めなさい!」


 ローズがトリガーを引き続ける。

 メッキが剥がれ落ちた魔王の正体が露見する。

 そこにあったのは、威厳ある王ではなく――錆びついた「ただのブリキの鎧」だった。


「……なんだ。中身はスカスカか」


 氷室が憐れむような目で呟く。

 虚飾で塗り固められた違法建築の末路だ。


「……許さぬ」


 ブリキの身体を晒された魔王が、わななき震え出した。

 恥辱で顔(仮面)が真っ赤に膨れ上がっていく。


「許さぬぞ公務員んんん!!

 よくも余に恥をかかせたな!

 こうなれば自爆してやる! この屈辱ごと、世界を吹き飛ばしてやる!!」


 ギュイイイイーン……!!


 魔王の中心核(コア)が、暴走を始める。

 崩壊エネルギーの凝縮。

 このままでは、新宿ダンジョンどころか、地上の新宿一帯が消し飛ぶ規模の爆発になる。


「……チッ。逆ギレか」


 俺は眉一つ動かさず、スマホを操作した。

 自爆は想定内だ。

 俺の「権限」を使えば、魔王というオブジェクトそのものを「完全削除《Delete》」できる。


「……『オブジェクト完全削除』コマンド、準備」


 俺は実行ボタンに指をかけた。

 だが。


 ピロン。


 画面に無慈悲な警告ウィンドウが表示された。


『警告:高負荷処理によりバッテリーを著しく消費します』

『予想消費量:15%』


 俺の指が、凍りついたように止まった。


「……な、んだと?」


 俺はステータスバーを凝視した。

 現在のバッテリー残量:34%。


 ここで15%を使えば、残りは19%。


 ヒナがインストールした監視アプリ『Whoo』は非情だ。

 バッテリー残量が20%を切った瞬間、リンクしているヒナのスマホに『パパのスマホ、充電ピンチ!』という通知が即座に送信される仕様になっている(らしい)。


 定時過ぎのこの時間に、バッテリーがレッドゾーンに突入する。

 それは何を意味するか?


 『パパ、また仕事サボって重いゲームしてたでしょ!』

 『約束破ったね!』


 という、動かぬ証拠エビデンスとしてヒナに受理されるのだ。

 俺が世界を救っていたとしても関係ない。ヒナの画面上では「急激なバッテリー消費=サボり」という冤罪が確定する。

 俺の家庭内信用スコアはストップ安だ。


(マズい……。削除自体は造作もないが、バッテリーが……!

 ヒナへの『通知』が……!)


 俺の額から、冷や汗が噴き出した。

 魔王の自爆による「世界の崩壊」か。

 バッテリー切れによる「家庭の崩壊」か。


 究極の二択。


「九条さん!? 魔王さんが膨らんでます! 限界です!」


 アキラが叫ぶ。魔王はもう爆発寸前だ。


「早く処理(トドメ)を!」

「待て! 今、『世界』をとるか『家庭』をとるか、高度な計算をしている!」


「なんでそこで迷うんですかぁぁぁ!!」


 アキラのツッコミが響く中、俺は決断を迫られていた。

 バッテリーを残しつつ、魔王を止める方法はないのか。

 ……ある。一つだけ。

 だがそれは、俺の「公務員としてのプライド」を捨てる禁断の一手だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ