表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
日本国ダンジョン省・特別管理課の定時男 ~Fランク公務員の俺、実は世界最強の「解析者」につき、災害級魔物も事務処理して帰ります~  作者: Ken


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/36

第30話:深層で「⚠️Time to BeReal.」が来たので ~死体を隠して「ろくろ」を回せ~

 グリッチ・ワールド(バグ空間)を斜め移動で進む俺たち。

 バッテリー残量、64%。

 緊張感が漂う中、不意にアキラの懐から軽快な通知音が鳴った。


 ピロン♪


「……あれ? 通知?」


 アキラが不思議そうにスマホを取り出す。


「おかしいですね。ここは地下50階層。

 ダンジョン省のアンテナも届かない、完全な圏外のはずじゃ……」


「……待て」


 先頭を歩いていた氷室が、眉をひそめて内ポケットを探った。

 取り出したのは、無骨な黒い箱。

 政府要人用の「衛星通信対応・モバイルWi-Fiルーター」だ。


「私のルーターのアクセスランプが、猛烈な勢いで点滅しているぞ。

 接続台数……3台?

 誰だ、勝手に私の極秘回線にタダ乗りしているのは!」


「俺と、天王寺さんと、ローズだ」


 俺は悪びれもせず、スマホ(Wi-Fiアイコン点灯中)を掲げた。


「パスワードが『himuro_leo_0123』じゃ、使ってくれと言っているようなもんだろ。

 テザリング感謝するぞ、歩くフリーWi-Fiスポット」


「き、貴様ぁ……!」


 氷室の顔が真っ赤になる。


「それは那須の別荘のパスワードと同じ……!

 いつの間に解析した!?」


「解析するまでもない。お前の誕生日だろ、1月23日。

 セキュリティ意識が低すぎるぞ、特捜部」


「ぐぬぬ……! あとで変えてやる……!」


 氷室が屈辱に震える中、俺たちは通信環境を確保したまま進軍を続けた。

 これが現代のダンジョン攻略だ。ネットがなければ死ぬ。


 ***


 その時だった。


「きゃっ!?」


 最後尾を歩いていたローズが、何もない平坦な床で、派手に足を引っかけた。


 ドッシャァァァン!!


 S級スパイとは思えない、見事な転倒。

 彼女が背負っていた洗浄機がガシャンと音を立て、抱えていたリュックの口が開き、中身が床一面にぶちまけられる。


「いっ……たぁ……!

 なによこれ!? 何もないじゃない!」


 ローズが涙目で床を叩く。

 俺は指示棒で、その「何もない床」をツンツンと突いた。


「……『転び石の(バグ)』だな」


 俺は解説した。


「床の衝突判定(コリジョン)が、ポリゴン一枚分だけめくれ上がっている。

 目視では見えないが、足裏には『岩』と同じ判定で引っかかる。

 ……この領域、思った以上にデータが腐ってやがるな」


「最悪よ! ポーションも変装道具も散乱しちゃったじゃない!」


 ローズが散らばった荷物を拾い集めようとした、その瞬間。


 ブブッ。ブブッ。


 俺のポケットで、スマホが短く、しかし強い警告のバイブレーションを放った。

 バッテリー低下の通知ではない。

 もっと恐ろしい、社会的死の宣告だ。


 俺は恐る恐る画面を見た。


『⚠️ Time to BeReal. ⚠️』

『あと2分で投稿してください』


「……ッ!!」


 俺の心臓が止まりかけた。

 BeReal.(ビーリアル)

 加工なしの「リアルな日常」を、通知が来た瞬間に撮影して投稿しなければならないSNS。

 ヒナに「パパもやってよ!生存確認になるから!」と強制インストールさせられたアプリだ。


「マズい……! このタイミングか……!」


 俺は頭を抱えた。

 このアプリは、内カメラと外カメラで同時に撮影する。

 つまり、「俺の顔」と「俺が見ている風景」が同時に全世界というかヒナに晒されるのだ。


「九条さん? どうしたんですか?」

「見ろ、この惨状を!」


 俺は周囲を指差した。

 薄暗いバグった空間。

 床に転がる金髪美女ローズ

 散乱する怪しげな薬瓶ポーションや武器。

 そして、仁王立ちするスーツの男(氷室)。


「どう見ても『事件現場』か『怪しい儀式の最中』だろ!

 こんな写真がヒナに届いてみろ!

 『パパ、地下で危ない人たちと何してるの?』って通報されるぞ!」


「た、確かに……! 誤解の塊ですね!」


「時間がない! あと1分30秒だ!」


 俺は叫んだ。


撮影(ミッション)を開始する!

 テーマは『清潔で安全な、深夜残業中のオフィス』だ!

 総員、配置につけ!」


 ***


 残り時間、60秒。


「天王寺さん! そのタブレットを開け!

 ExcelでもWordでもいい、とにかく『仕事してるっぽい画面』を出せ!」


「は、はい! えーと、始末書の下書きでいいですか!?」


 アキラが慌ててタブレットを起動し、床に座り込む。


「氷室! お前はそこの岩に座れ!

 そして手を前に出して、『ろくろ』を回せ!」


「は? ろくろ……? 陶芸か?」


「違う! IT企業の社長がインタビューでよくやる、あの『手で空中の何かを掴むようなポーズ』だ!

 それで『上司っぽさ』と『知的な会議風景』を演出するんだよ!」


「……くっ、なぜ私がそんな茶番を……」


 氷室は屈辱に顔を歪めながらも、岩に腰掛け、空中で手をこねくり回し始めた。

 意外と様になっているのが腹立つ。


「そしてローズ!

 お前は……邪魔だ! 死んだふりをして隠れてろ!」


「ひどい扱いね!?」


 ローズは蛍光スウェットを翻し、岩の陰にダイブした。


 残り、10秒。


 俺はスマホを構えた。

 アキラのタブレットの光を照明代わりにし、背景の「バグった壁」が映らない絶妙な角度(画角)を探る。


「いいか、みんな笑え!

 ブラック職場だけどやりがいを感じている、意識高い系の笑顔だ!」


「ひきつりますよそんなの!」

「黙ってろ! 撮るぞ!」


 3、2、1……。


 カシャッ。


 撮影完了。

 俺は震える手で、出来上がった写真を確認した。


 【投稿画像】

 ・手前:疲れつつも充実した顔で書類タブレットを見る俺とアキラ。

 ・奥:部下を温かく見守りながら、ろくろを回して熱弁を振るう上司(氷室)。

 ・背景:暗がりが「深夜のオフィス」のような雰囲気を醸し出している。


「……完璧だ」


 奇跡の一枚。

 どこからどう見ても、「プロジェクト佳境の熱いチーム」にしか見えない。

 岩の陰から、ローズの足(スウェットの裾)が少しだけ見切れているが……まあ、「脱ぎ捨てられた上着」に見えなくもない。


「投稿、完了」


 送信ボタンを押した瞬間、俺はその場に崩れ落ちた。

 S級モンスターとの戦闘よりも疲れた。


「……九条。一つ聞きたいのだが」


 ろくろのポーズを解いた氷室が、冷ややかな視線を送ってくる。


「貴様、娘に対して『見栄』を張りすぎではないか?」


「うるさい。

 娘にとっての父親は、いつだって『働いてるカッコいいパパ』でなきゃいかんのだ」


 俺はスマホを閉じた。

 バッテリー残量、58%。

 写真一枚撮るのに、魂とバッテリーを削りすぎた。


「行くぞ。

 ……魔王城はすぐそこだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ