第28話:悪徳業者には行政指導(物理)を ~2000V直結・高圧空気砲で「店舗兼在庫」を没収しました~
ゾンビの大群を「お掃除」した後、俺たちはさらに深層へと進んだ。
バッテリー残量、75%。
ケルヒャー改の異音、音程「シ(B)」継続中。
「……おい、あれを見ろ」
氷室が足を止め、前方を指差した。
薄暗いダンジョンの通路の先に、不釣り合いな「暖色の明かり」が灯っている。
近づいてみると、そこには古びた屋台がポツンと置かれていた。
看板には『ダンジョン行商・ボッタクリ屋(※翻訳魔法により表示)』と書かれている。
「ケケケッ……。なんだ、人間か。
貧相な装備だな。ここが地獄の底だと分かって来たのか? 下等生物ども」
店主と思しきローブ姿の骸骨が、値踏みするように俺たちを見て、骨の指を鳴らした。
棚には、ヘドロのような色の液体や、血の付いた剣が乱雑に並んでいる。
「……ダンジョン内で行商だと? そんな馬鹿な」
氷室が警戒する。
通常、モンスターは人間を襲う。商売などしない。
「おい、そこのお前。喉が乾いただろ?」
骸骨は薄汚い瓶を取り出し、カウンターに叩きつけた。
「この『下水を薄めた水』を売ってやるよ。一本100万円だ」
「ひゃ、100万!? ふざけないで!」
アキラが抗議するが、骸骨は下卑た笑い声を上げた。
「嫌なら買うな。どうせお前らはここで野垂れ死ぬんだ。
死んだ後で、その装備を剥ぎ取って売るのも悪くねぇしなァ! ギャハハハ!」
「……ッ、この外道が!」
ローズが睨みつけると、骸骨の眼窩に赤い光が灯った。
「おっ、威勢がいいメスだねぇ。
金がねぇなら、その女を置いてけよ。アンデッドの慰み者として高く売れそうだ……!」
「ふざけんな! ぶっ殺してやる!」
ローズが激昂する。今にも飛び掛かりそうな勢いだ。
だが、俺は片手でそれを制し、冷静に屋台の裏側――壁から伸びている「怪しいケーブル」に目をつけた。
(……ほう。この店、電気を使ってるな?)
屋台の裸電球が、魔素を動力源にして光っている。
そのケーブルは、ダンジョンの壁(地脈)に直接突き刺さっていた。
「……ローズ。洗浄機のタンク、水は残ってるか?」
「え? もう空っぽよ。さっきの掃除で使い切ったわ」
「そうか。だが、圧縮空気だけでも武器にはなる」
俺は屋台に歩み寄った。
「おい店主。この店、営業許可証はあるのか?」
「へ? 許可証?」
骸骨が首を傾げる(物理的にゴキッと鳴る)。
「ダンジョン法第32条。『ダンジョン内における営利活動には、省の認可が必要である』。
……無許可営業だな?」
俺はバインダーを開き、ボールペンを構えた。
「よって、直ちに営業停止処分とする。
および、違法に設置された電気設備を、保安のために接収する」
「な、なんだとぉ!? 俺のシマで何勝手なことを……!」
骸骨が杖を振り上げる。
だが、俺は素早く屋台の裏へ回り込み、壁に刺さっていたケーブルを引き抜いた。
バチバチッ!!
紫色の火花が散る。
「ローズ! こいつだ! 洗浄機のプラグを貸せ!」
「えっ!? ちょっと、何する気!?」
俺はローズの背中から伸びる電源コードをひったくり、壁の穴――地脈の噴出孔に、強引にねじ込んだ。
「繋げ! 直結だ!!」
ドガァァァン!!
接続した瞬間、洗浄機が悲鳴を上げた。
キュイイイイイイイイイイーン!!
駆動音が、一気に「シ(B)」から「超高音のモスキート音」へと跳ね上がる。
ローズの背中で、モーターが爆発寸前の回転数を叩き出す。
「きゃあああ!? 熱い! 振動がすごい!!
ちょっと九条! これ何ボルト流れてんの!?」
「推定2000Vだ!!」
俺は叫んだ。
「地脈の生エネルギーだ! 普通の家電なら0.1秒で蒸発する!
だが……お前のその洗浄機は、さっき車内で俺が『魔改造(絶縁被膜コーティング)』しておいた!!
コイルが焼き切れるまで、あと3分は持つ!!」
「3分!? ウルトラマンかよ!!」
「撃て! 空気砲だ!!」
ローズは半狂乱になりながら、ノズルを骸骨に向けた。
トリガーを引く。
ズドォォォォォォン!!
水など入っていない。
ただの圧縮空気だ。
だが、2000Vでオーバードライブしたコンプレッサーが生み出す空気弾は、もはや「大砲」だった。
「ギャアアアアアアッ!?」
骸骨店主が、屋台ごと吹き飛んだ。
屋台は木っ端微塵に砕け散り、衝撃波が壁に巨大なクレーターを穿つ。
「……ふぅ。一丁上がり」
俺はコンセントを引き抜いた。
洗浄機のファンが、ヒュルルル……と力なく停止する。
ローズが涙目で背中を見る。黒い煙がモクモクと上がっていた。
「……あ、熱い……背中が……」
「よく耐えたな。褒めてやる」
俺は瓦礫の山から、奇跡的に無事だった(あるいはゲーム的なドロップ判定で残った)ポーションの瓶を数本拾い上げた。
「お、頑丈な瓶だな。違法商品の没収だ。
……これで回復アイテムも確保できたな」
アキラが引きつった顔でつぶやく。
「……九条さん。これ、完全に強盗ですよ」
「人聞きが悪い。『行政指導』だ」
「……まあ、相手はモンスター(害獣)だ。人権はない」
氷室が眼鏡を直し、自分に言い聞かせるように呟いた。
「害獣駆除のついでに、遺留品を回収しただけだ……。
法的には……ギリギリ、セーフ……か?」
「アウトよ! 完全に目が泳いでるわよ氷室!」
俺たちは(若干一名を除き)晴れやかな顔でアイテムを懐に入れ、さらに奥へと進んだ。
バッテリー残量、70%。
魔王城の門まで、もう少し。




