表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
日本国ダンジョン省・特別管理課の定時男 ~Fランク公務員の俺、実は世界最強の「解析者」につき、災害級魔物も事務処理して帰ります~  作者: Ken


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/36

第17話:英雄の扱いは酷いが、75%OFFの焼肉が美味いので全て許すことにした

 翌日の昼休み。

 ダンジョン省・特別管理課のオフィスは、お通夜のような静けさと、爆発寸前の緊張感に包まれていた。


「……九条くん」


 総務課長が、携帯を握りしめたまま、幽霊でも見たかのような顔で俺を見ている。

 いつもは内線で済ますか4階に呼び出されるのだが、珍しくわざわざ地下までお越しだった。

 彼の手は小刻みに震え、顔面は蒼白だ。


「は、はい」

「今……財務省の主計局長から直電があった」


 課長の声が裏返った。

 主計局長。国の財布を握るトップだ。地方出先機関の課長にとっては、雲の上の存在どころか、雷神そのものである。


「『貴様の部下は、ウチの地下金庫をゴミ捨て場か何かと勘違いしているのか』と……!

『心臓が止まるかと思った。二度とやるな』と、もの凄い剣幕で怒鳴られたんだが……!」


 課長がバン!と机を叩いた。


「君は一体、何をしたんだ!?

 昨日の有給中に、財務省へ行って粗相でもしたのか!?」


「まさか。行ってませんよ」


 俺は涼しい顔で、嘘をついた。

 確かに俺自身は行っていない。行ったのはドラゴンだ。


「ただ、知人の伝手で、ちょっとした『お土産(100億円相当)』を贈っただけなんですが……。

 どうやら、サイズが少し大きすぎたみたいですね」


「お、お土産だと……?

 バカ者!相手は財務省だぞ!下手な物を贈ったら贈収賄で……いや、怒られたってことは嫌がらせか!?

 あああ、私の査定が……年金が……!!」


 課長は頭を抱え、ブツブツと胃薬を探し始めた。

 ドラゴンの詳細を知らされていないのは明白だ。

 財務省としても、「地下金庫にS級モンスターが出現した」なんて失態、恥ずかしくて部外者には言えないのだろう。


「……はぁ。とりあえず、始末書だ。

『業務外における他省庁への迷惑行為』について、原稿用紙50枚で提出したまえ!」


「50枚……」


「当然、反省の意を示すために『手書き』だぞ!万年筆を使え!」


「て、手書きぃ!?」


 俺は思わず叫んだ。

 このデジタルトランスフォーメーションの時代に、原稿用紙50枚を手書きだと?

 ドラゴンを倒すより遥かに重労働だ。これが公務員という名の地獄か。


 課長は涙目で叫び、逃げるように部屋を出て行った。


 ***


「……ふふっ。課長、何も知らされてないんですね」


 課長の足音が遠ざかると、天王寺アキラが忍び笑いを漏らした。

 彼女の手元のタブレットには、今朝のニュース映像が流れている。


『速報です。宗教法人・星の導き教団に、国税局と警察の合同捜査が入りました。

 代表の聖女エルラ容疑者を、脱税およびダンジョン法違反の疑いで逮捕……』


 画面の中、毛布を被せられて連行されるエルラの姿があった。

 彼女はカメラに向かって、「電卓が来る……数字が襲ってくる……!」と意味不明なうわ言を叫んでいる。

 どうやら、昨夜の「税務調査(物理)」がよほどトラウマになったらしい。


「それと、裏ルートからの情報ですけど」


 アキラが声を潜める。


「教団のバックにいた大物議員、失脚したそうです。

 財務省が『テロリストの支援者』として徹底的に資金源を洗ったらしく……今頃、東京湾に沈められているか、検察に売り飛ばされているかですね」


「毒を以て毒を制す、か。

 さすが財務省、仕事が早いな」


 俺はラムネを口に放り込んだ。

 俺が送りつけた「お土産」が、いい起爆剤になったようだ。


「あ、それからもう一つ。

 例の『黒い石(混濁魔石)』を横流ししていた、省内管理課の汚職グループも一網打尽にされました。

 今回の騒ぎで在庫管理のズレが発覚して、芋づる式に逮捕だそうです」


「そいつは朗報だ。ゴミを金に変える錬金術師どもめ、檻の中で反省会だな

 ……で、『お土産ドラゴン』はどうなったんだ?」


「ええ、それも聞きました。

 財務省の地下金庫、やっぱり『対ダンジョン災害用シェルター』だったみたいで、物理的な被害はゼロだったそうです。

 ただ、中にいた官僚たちは、目の前にS級モンスターが現れてパニックになり……全員、当分はカウンセリング通いだとか」


「ざまあみろ」


「ドラゴン自体は、即座に特殊部隊が突入して解体したそうです。

 素材として売却され、推定100億円がそのまま『国庫』に入ったみたいですよ。

 ……九条さんへの報奨金は、当然ゼロ。『迷惑料と相殺』ですって」


「ケッ。心が狭い連中だ」


 俺は悪態をついたが、本心では満足していた。

 100億円をドブに捨ててでも、奴らの鼻を明かしてやりたかったのだ。

 それに、俺の本当の報酬は、金ではない。


 俺はデスクの引き出しから、一枚のチラシを取り出した。

 昨日の潜入時に捨てたはずの、あのチラシ。

 ……の、最新版だ。


『祝!ディスカウントスーパー・オーケー〇〇店、来月、今度こそ本当にオープン!』


「……美しい」


 俺はうっとりと紙面を撫でた。


「よく復活したな。教団に土地を奪われたはずなのに」


 アキラが呆れたように言う。


「九条さんが裏で手を回したんでしょ?

『国税局による教団資産の即時差し押さえ』と、『優先交渉権を使ったスーパー側への格安売却』……。

 あんなウルトラC、普通の公務員には思いつきませんよ」


「人聞きが悪いな。俺はただ、困っているスーパーの社長に『今が買い戻すチャンスですよ』と匿名電話を入れただけだ」


「それに、あの土地の『霊脈』はどうしたんですか?

 穴が開いたままだと、魔素中毒でまた問題になりますよ?」


「ああ、それなら工事しておいた」


 俺は事もなげに言った。


「霊脈の噴出点に、俺の手製バルブ(安全弁)を取り付けて塞いだ。

 ついでに、そこから漏れ出る冷気を、スーパーの業務用冷蔵庫の動力源として直結させておいたよ」


「えっ、大丈夫なんですかそれ?食品衛生法的に……」


「抜かりはない。完全密閉型の二重配管ダブル・ジャケットにしてあるから、食品への魔素混入はゼロだ。

 冷媒コストが浮く分、カツ重の値段も維持されるはずだ」


「……職権乱用も極まれりですね。

 スーパーの冷蔵庫をダンジョン直結にするなんて」


 アキラはため息をついたが、その表情はどこか晴れやかだった。


「でも、まあ……。

 おかげでヒナちゃんの笑顔は守られたわけですね」


「ああ。それが全てだ」


 俺はチラシを丁寧に折りたたみ、胸ポケットにしまった。

 カツ重299円。

 それは単なる弁当ではない。俺と娘の、明日への希望なのだ。


 ***


 その夜。九条家。


「パパ、乾杯!」

「おう、乾杯!」


 リビングの食卓で、俺とヒナはグラス(麦茶)を合わせた。

 ホットプレートの上では、霜降りの牛肉がジューッ!と食欲をそそる音を立てている。


 今日の主役はカツ重ではない。

 スーパー復活の前祝いとして、俺が帰り道に執念で確保した戦利品だ。


『国産黒毛和牛カルビ』

 そのパックには、黄色い『半額』シールの上に、さらに赤い『レジにて半額』シールが重ねて貼られていた。

 奇跡の75%OFF。


「ん~っ!美味しい~!」


 ヒナが肉を頬張り、満面の笑みを浮かべる。

 俺はその肉を見つめ、購入時の光景を思い出した。


(……あの店員の兄ちゃん、俺の顔を見て『またあの疲れたスーツの人が来た』って顔をしてたな。

 そして、売れ残った肉にそっと追加のシールを貼ってくれた……。

 あれは、社会の底辺で戦う同志への『慈悲エール』だったに違いない)


 ありがとう、名も知らぬバイトリーダー。

 あんたの優しさのおかげで、俺たち親子は今、王侯貴族のような夕食を楽しめている。


「よかったねパパ!スーパーができたら、今度こそ『普通の缶コーヒー』を箱買いできるね!」

「ああ。……長かった」


 俺は肉を噛み締めながら、涙ぐんだ。

 茶色い水(薄めたコーヒー)とも、これでおさらばだ。

 教団との戦い、ドラゴンとの対峙、そして手書きの始末書地獄……。

 全ての苦労が、この一口の肉汁となって報われていく。


「幸せだなぁ……」


 俺たちが平和を噛み締めていた、その時だった。


 ピンポーン。


 玄関のチャイムが鳴った。

 モニターを見ると、小奇麗な格好をした男が立っている。手には新聞か、宗教のパンフレットのようなものが見える。


『あのー、夜分に恐れ入ります。

 あなたの『幸せ』について、少しお話ししませんか?』


「……チッ」


 俺は箸を置き、無言で立ち上がった。

 せっかくの祝杯を邪魔された怒りが、ふつふつと湧き上がる。


「パパ?居留守でいいんじゃない?」

「いや、肉が焦げる前に片付ける」


 俺はドスドスと玄関へ向かい、ドアを勢いよく開けた。


「こんばんは!私、こういう者でして……」


 勧誘員が満面の笑みで近づいてくる。

 俺は、昨夜ドラゴンを睨みつけた時と同じ――いや、それ以上の「S級の殺気(解析眼)」を瞳に宿し、冷たく見下ろした。


「……幸せなら、今、肉を食ってる」


「ひっ……!?」


 男の笑顔が凍りつく。

 俺の背後から漂う、尋常ではないプレッシャーと、焼肉の匂い。


「間に合ってるんだよ。

 神も、新聞も、壺もな。

 ……帰れ」


 俺は静かに、しかし絶対的な拒絶を込めて、ドアを閉めた。


 バタン。


「……ふぅ」


 俺は瞬時に「パパの顔」に戻り、リビングへ戻った。


「誰だった?」

「ん?道に迷った人みたいだったよ」


 俺は席につき、焦げかけた肉をひっくり返した。


「さあヒナ、食べよう。明日も学校だろ?パパも仕事だ」

「うん!」


 平和な食卓に、笑い声が戻る。

 世界がどうなろうと、財務省がどうなろうと。

 この「定時後の幸せ」だけは、誰にも邪魔させない。


 Fランク公務員の戦いは、明日も続く。

 ……まずは、カツ重発売日に向けて、有給の申請をしなければ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ