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日本国ダンジョン省・特別管理課の定時男 ~Fランク公務員の俺、実は世界最強の「解析者」につき、災害級魔物も事務処理して帰ります~  作者: Ken


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第16話:S級ドラゴン(時価100億)が出たので、ブラックカードで「差し押さえ」してみた

 

「……ぜ、税務調査……?」


 聖女エルラの美しい顔が、ピクリと引きつった。

 会場の信者たちも、予想外の単語にざわめき始める。

 神聖な祈りの場において、最も俗物的で、かつ逃れられない言葉。それが「税金」だ。


「バカなことを。ここは神に仕える聖域です!」


 エルラは気を取り直し、毅然と叫んだ。


「宗教活動による収益は非課税です!

 信者様からのお布施は、神への感謝の証。国にとやかく言われる筋合いはありません!」


「その通りだ!」とサクラたちが野次を飛ばす。

 だが、俺は左手の電卓をカチャカチャと叩きながら、冷徹に言い返した。


「お札や御守り、あるいは純粋な寄付なら非課税だ。だがな」


 俺は足元に転がっていた「星の欠片(500円)」を靴先で蹴った。


「原価数円の産業廃棄物を500円で売り、既製品の壺を300万円で売りつける。

 原価との乖離が著しい物品販売は、信仰の対価とは認められない。

 それは宗教活動じゃない。ただの『物品販売業(収益事業)』だ」


「なっ……!?」


「在庫管理表はあるか?売上台帳は?

 ……ないだろうな。これだけの規模で無申告なら、悪質な隠蔽・仮装(脱税)とみなされる。

 時効は7年。重加算税を含めれば、追徴税額は……」


 俺は電卓の画面を彼女に見せつけた。


「推定、8億4千万円だ」


「は、はちおく……!?」


 エルラの顔色が青を通り越して土色になる。

 具体的な数字の暴力。

 神秘のヴェールが剥がされ、現実的な負債が彼女にのしかかる。


「くっ……!この、異端者がぁぁぁ!!」


 エルラが絶叫した。

 論理で勝てないと悟った彼女は、なりふり構わず「奥の手」を切った。


「愛しなさい!敬いなさい!私に全てを捧げなさい!!」


 ドワァッ!!


 彼女の全身から、濃密なピンク色の光が噴出した。

 固有スキル『魅了チャーム』。

 それも、全魔力を注ぎ込んだ最大出力だ。


「うっ……!?」


 警備員を押さえ込んでいたアキラが、膝をつく。

 逃げ出そうとしていた信者たちも、恍惚とした表情で立ち止まり、再びエルラに向かって手を合わせ始めた。


「ああ、聖女様……」

「愛してます、一生ついていきます……!」


 会場全体が、狂気的な「好意」の渦に飲み込まれていく。

 だが。


「……ふあ」


 俺はあくびを噛み殺し、眼鏡の位置を直した。


「な、なぜ……!?」


 エルラが目を見開く。

 彼女の全力を込めた「愛の波動」を浴びてなお、目の前のおっさん(俺)は、退屈そうに電卓をいじっている。


「なぜ私の愛が届かないの!?貴方は男でしょう!?」

「愛?……違うな」


 俺は解析眼コード・ビューで、彼女から放たれるピンク色の波動を見つめた。


「俺の目には、お前から『好意を持て』という不正パケット(スパムメール)が、毎秒数万件飛んできているようにしか見えない」


「す、スパムですって……!?」


「俺の脳内ファイアウォールはな、そういう『件名:愛しています』みたいな迷惑メールを、自動でゴミ箱に捨てる設定になってるんだよ」


 俺は一歩踏み出す。


「38歳のおっさんを舐めるな。

 俺が人生で受け取ってきた『愛想笑い』と『お世辞』のデータ量を甘く見るなよ」


「ひっ……!」


 エルラが後ずさる。

 彼女の最大の武器である「神秘性」と「カリスマ」が、俺の前では無効化された。

 それは彼女にとって、死刑宣告にも等しい屈辱だった。


「……殺す」


 エルラの表情が豹変した。

 慈愛に満ちた聖女の仮面が剥がれ落ち、下卑た本性が露わになる。


「死ね!クソメガネ!死んで『肥料』になりなさいッ!!」


 彼女はステージの床に描かれた魔法陣に、両手を叩きつけた。


「あの方にお前を喰わせてやる!

 繋がれ、聖地サンクチュアリ!我らが総本山より、守護神をここへ招来せよ!!」


 ズゴゴゴゴゴゴ……ッ!!


 地鳴りが響く。

 元ボウリング場の床に、巨大な「空間のゲート」が開いた。

 彼女は、数キロ離れた霊脈の噴出点とこの場所を強制接続し、そこに巣食う怪物を呼び寄せた。

 それは常人では決して為しえない、腐っても聖女が故に可能な大技だった。


「出でよ、我が神!この不敬なゴミを焼き尽くせぇぇぇ!!」


 穴から眩い黄金の光が噴出する。


「な、何だあれは!?」


 避難誘導をしていたアキラが空を見上げる。

 ゲートから這い出してきた高濃度魔素の塊が、天井を突き破るほどの巨体を形成していく。


 現れたのは、全身が黄金の結晶で構成された、巨大な「ドラゴン」だった。


『グオオオオオオオオオッ!!』


 咆哮だけで窓ガラスが割れ、パイプ椅子が吹き飛ぶ。

 教団が「神」と崇めていたものの正体。

 それは、霊脈から釣り上げられた「災害指定S級・結晶竜クリスタル・ドラゴン」だった。


「ヒャハハハハ!見たか!これが神の力よ!

 さあ、ひれ伏せ!命乞いをしろ!」


 エルラが狂ったように笑う。

 建物が崩壊を始め、瓦礫が降り注ぐ。

 アキラが「キャアッ!」と悲鳴を上げながら、信者たちを庇って走る。


 絶体絶命のパニック。

 だが、俺は逃げなかった。


 巨大な竜を見上げ、冷静に電卓を叩く。


「……ふむ。構成素材は高純度魔素結晶か」


 カチャカチャッターン。


「サイズと純度から計算して……」


 俺は電卓のキーを高速で叩き――そして、舌打ちした。


「……チッ。桁が足りねぇ」


 液晶画面には『Eエラー』の文字。

 所詮は100均の電卓だ。8桁までしか計算できない。


「まあいい、概算だ。市場価格、推定100億円」


 俺の目が、¥(円)マークに輝く。


「未納分の税金と、俺の精神的苦痛(カツ重消失)の慰謝料……。

 お釣りが来るな」


 俺は懐に手を入れた。

 指先に触れる、冷ややかな金属の感触。

特命全権委任状ブラックカード」。


「な、何をブツブツ言っている!神の怒りに震えろ!」


 エルラが叫ぶ。

 ドラゴンが大きく口を開け、全てを消滅させるブレスの輝きを溜め込む。


 俺はゆっくりと、漆黒のカードを抜き放った。


「震えるのはお前だ、脱税者」


 俺はカードを掲げ、高らかに宣言した。


「その『神様』……いや、『高額動産』。

 国家権限に基づき、差し押さえ(徴収)させてもらう」


 ――強制執行エクスキュート


 俺がカードを振り下ろすと同時に、空間に巨大な「システムウィンドウ」が出現した。


『対象:S級・結晶竜』

『処理:国庫納付(AssetSeizure)』

『転送先:財務省・地下第3金庫室』


「は……?」


 エルラの思考が停止する。

 ドラゴンの身体が、足元から急速に「データ(光の粒子)」へと変換されていく。


『ギャアアアアアアッ!?』


 断末魔の叫び。

 ブレスを吐く間もなく、100億円の価値を持つ巨大な竜は、ただの「数字の羅列」となって空間に吸い込まれていく。


「ど、どこへ!?私の神がどこへ!?」


「安心しろ。財務省の金庫だ」


 俺はニヤリと笑った。


「あそこの地下金庫は、ダンジョン災害を想定した『対核シェルター級』の強度で作られている。

 中にいる官僚どもが死ぬことはない。……まあ、腰を抜かして業務が麻痺するくらいはするだろうがな」


 俺は空になった空間を見上げた。


「以前、奴らから高級和牛セットの返礼をもらったことがあってな。

 今回のは、その時の礼代わり……まあ、『土産(嫌がらせ)』だ」


 シュンッ。


 最後の光が消え、会場には静寂だけが残った。

 神も、奇跡も、ドラゴンも。

 すべては「事務処理」され、綺麗さっぱり消滅した。


 残されたのは、腰を抜かして失禁している「元・聖女」と、呆然と口を開けている信者たちだけ。


 俺は電卓を懐にしまい、エルラを見下ろした。


「さあ、聖女様。

 神様(資産)は没収した。

 次は、お前自身の罪を……リボ払いで償ってもらおうか」


 背後で、サイレンの音が近づいてくる。

 俺たちの勝利だ。

 299円のカツ重は戻ってこないかもしれないが、少なくとも、この街の平和とヒナの笑顔は守られた。

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