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日本国ダンジョン省・特別管理課の定時男 ~Fランク公務員の俺、実は世界最強の「解析者」につき、災害級魔物も事務処理して帰ります~  作者: Ken


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第10話:露天風呂が爆発寸前ですが、エリートの眼鏡が曇っている間に「配管工事」で解決しました

深夜2時。

俺はスリッパを手に持ち、裸足で客室を抜け出した。

課長はいびきをかいて爆睡中。氷室は……アイマスクをして微動だにしない。


俺は廊下を忍び足で進む。

背後から、微かな衣擦れの音が聞こえる。


(……足音が硬い。氷室か)


やはり寝たふりをしていたか。

俺が深夜に抜け出したことで、「黒幕との密会」でも疑って尾行してきたのだろう。


(やれやれ。俺はただ配管の様子を見に行くだけなんだが)


だが、ここで追い返せば余計に怪しまれる。

まあいい。ついて来させよう。

現場に行けば、密会などではなく、ただの「設備トラブル」だと分かるはずだ。

そうすれば、俺への疑いも少しは晴れるだろう。


俺は露天風呂の入り口まで来ると、躊躇なく脱衣所へ入った。


***


「……なんだ、これは」


露天風呂に足を踏み入れた瞬間、強烈な硫黄の臭気が鼻を突いた。

自慢の岩風呂は、地獄の釜と化していた。


ボコッ! ボコォッ!!


湯船の脇にある「点検口(石の蓋)」が弾け飛び、そこから赤黒い泥が噴水のように吹き上がっている。


「……やっぱりか」


俺は舌打ちをした。

昼間、発電所の視察をした時に感じた「不自然な振動」。あれは地脈マグマの活性化サインだった。

本来なら、自動安全弁が開いて圧力を逃がすはずだが……。


「……点検不足だな。安全弁が『スケール(湯の花)』で固着してやがる」


これは敵の攻撃でも何でもない。

単なる「整備不良」と「自然現象」の不幸な衝突だ。

この施設、見かけは立派だが、裏方のメンテナンスはボロボロだ。


「おいおい、このままだと圧力が限界を超えて、旅館ごと吹き飛ぶぞ……」


「……動くな! 九条ミナト!」


その時、背後から鋭い声が響いた。

氷室レオだ。浴衣姿だが、顔には銀縁メガネ、手には警察手帳を構えている。


「深夜にこっそり抜け出して、何をする気……なっ!?」


氷室が露天風呂の惨状を見て息を呑む。

赤黒く噴き上げる泥柱。振動する地面。


「マ、マグマ・スライムの出現か!? 貴様、何をした!」

「ち、違いますよ! 俺が見に来たら急に……!」


俺が言い訳しようとした瞬間――


フワッ。


「……む?」


熱気と蒸気で、氷室の眼鏡が真っ白に曇った。

冬場の露天風呂、しかも高温の泥蒸気だ。どんなコーティングも無意味だ。


「ええい、視界が……! だが気配は分かる! そこか!」


氷室は眼鏡を拭うこともせず、泥の噴出源に向かって手をかざした。


「『氷結牢アイス・プリズン』!」


彼の手から冷気が放たれる。

だが、相手が悪かった。

噴出しているのは、高圧の熱泥だ。氷室の氷魔法は、泥に触れる前に瞬時に蒸発し、凄まじい体積の「濃霧ホワイトアウト」を生み出しただけだった。


シュウウウウウウッ!!


「ぐわっ!? なんだこの蒸気は……!?」


視界ゼロ。さらに高温サウナ状態。

エリート捜査官は、自分の魔法で自分を追い込んでいた。


「うわぁぁぁ! なんですかこれぇぇぇ!」


俺はここぞとばかりに「パニックになった一般人」の演技をして、手探りで氷室に突っ込んだ。


「く、九条!? 落ち着け、私が……ぶげっ!?」


俺は悲鳴を上げながら、氷室の背中に全体重を乗せてタックルした。

狙いは、露天の隅にある「水風呂(サウナ用)」だ。


バッシャァァーン!!


「ブハッ!? つ、冷た……!?」


氷室が水風呂に沈む。これで彼は熱泥による火傷から守られ、同時に頭も冷えるだろう。

邪魔者は排除した。ここからはプロの仕事だ。


俺は手ぬぐいを口に巻き、煮えたぎる泥の海へダイブした。


***


(熱っ……! 視界ゼロ!)


だが、俺の脳内にはこの風呂の「配管図面」が展開されている。

俺は手探りで点検口の中に手を突っ込む。

泥の噴出源である「主弁メインバルブ」には、剥がれ落ちた巨大なスケールの塊が噛み込み、閉じなくなっていた。


『対処法:異物の粉砕、およびバルブの強制閉鎖』


「……舐めるなよ」


俺は浴衣の袖から、愛用のボールペン(ミスリル合金製)を取り出した。

これを噛み込んだ異物に突き立て、ハンマーのように叩く。


ガンッ! ガンッ!


硬化したスケールが砕ける感触。

詰まりが取れた瞬間、俺はペンをバルブのハンドルに差し込み、テコの原理で回す。


――リミッター解除:筋繊維稼働率120%。


「メンテをサボったツケを……客に払わせるんじゃねぇッ!!」


ギギギ……ガキンッ!!


硬い手応えと共に、バルブが完全に閉じた。

供給を絶たれた泥の勢いが止まる。

噴出した泥は、空気に触れて急速に酸化し、ただの「茶色い濁り湯」へと沈殿していく。


俺は泥だらけの顔で水面に顔を出した。


「ぷはっ! ……し、死ぬかと思った……」


霧が晴れていく。

水風呂から這い上がってきた氷室が、ずぶ濡れのまま呆然と立ち尽くしていた。


「……消えた? あの怪物が?」


彼は泥が止まった理由が分からない。

自分の放った氷魔法が、時間差で効いたのか?

それとも、この無能(九条)が何かしたのか?


「いやー、怖かったですねぇ監査官!

急に泥が噴き出して……俺、パニックになって突き飛ばしちゃいましたよ! すみません!」


俺はヘラヘラと頭を下げる。

氷室は眼鏡を外し、疑わしげな目で俺を睨んだ。


「……貴様、あの状況でなぜ無傷なんだ?」

「泥遊びは得意なんですよ。……それより、早く部屋に戻りましょう。風邪ひきますよ?」


俺たちは泥と水でぐしょ濡れのまま、部屋に戻った。

課長は、一度も起きることなく、幸せそうな寝息を立てていた。


「……信じられん」


氷室は濡れた髪を拭きながら、小さく呟いた。


「このタイミングで温泉が噴き出すなど……偶然にしては出来すぎている。

やはり、私の目を欺くための『工作』か……?」


考えすぎだ。ただの設備のボロさとメンテ不足だ。


「黒幕は……私の想像以上に近くにいるのかもしれん」


(惜しい。目の前にいるよ)


俺は心の中でツッコミを入れながら、布団に潜り込んだ。

カニは食いっぱぐれたが、温泉まんじゅうと平和な夜は守り抜いた。

明日は筋肉痛確定だが、まあ、よしとしておこう。

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