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日本国ダンジョン省・特別管理課の定時男 ~Fランク公務員の俺、実は世界最強の「解析者」につき、災害級魔物も事務処理して帰ります~  作者: Ken


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第1話:残業はお断りです

現在時刻、16時55分。

気温24度、湿度50%。ダンジョン内環境、オールグリーン。


「……よし。異常なし、と」


俺、九条くじょうミナトは、コンクリート打ちっぱなしの壁に埋め込まれた「魔素マナ配管」をペン先でコツコツと叩き、チェックシートに『済』のハンコを押した。


場所は新宿ダンジョン、地下3階。

周囲には、蛍光色に輝くキノコや、スライムの死骸が散らばっている。


俺の格好は、ヨレヨレの吊るしスーツに、作業用のヘルメット。

左手には安物のバインダー。

どこからどう見ても、冴えない中年サラリーマンだ。


「うわ、出たよ。ダンジョン省の役人だ」


背後から、遠慮のない嘲笑が聞こえた。

振り返ると、金ピカの鎧に身を包んだ若い男女の集団が歩いてくる。

Aランク探索者パーティ『あかつきの剣』だ。最近、動画配信で人気らしい。


「ちーっす、お疲れ様でーす。税金泥棒さーん」

「おい辞めろよ、いじめるなって。Fランク公務員なんだからさw」


リーダー格の剣士が、わざとらしく俺の肩にぶつかって通り過ぎる。

俺は愛想笑いを浮かべて、頭を下げた。


「お仕事ご苦労さまです。……足元、滑りやすいのでご注意を」

「ハッ、言われなくてもわかってるっつーの。行こうぜ、こんなとこにいたら俺たちまで腐りそうだ」


彼らはゲラゲラと笑いながら、奥へと消えていく。


……ふう。

俺は小さく息を吐き、腕時計を見た。

16時58分。


「あと2分。……これなら定時ダッシュいけるな」


今日の夕食は、娘のリクエストでハンバーグだ。

駅前のスーパーで挽肉を買う時間を計算すれば、17時03分の急行に乗るのが最適解ベスト・ソリューションだ。


俺はバインダーを小脇に抱え、帰路につこうとした。


――その時だ。


『ギチチチチチチ……ッ!!』


空間が、ガラスのように悲鳴を上げた。

ダンジョンの壁が歪み、赤黒い亀裂が走る。

『暁の剣』の連中がいた通路の奥から、絶叫が響いた。


「な、なんだこれ!? 空間転移!?」

「うそでしょ!? ここ浅層だよ!?」

「いやあああ! 来ないでえええ!!」


亀裂から這い出てきたのは、ライオンの頭と蛇の尾を持つ巨大な獣――キメラだ。

だが、ただのキメラではない。

全身からバチバチと赤黒いノイズを撒き散らし、サイズも通常の3倍はある。


【警告:深度エラー発生。推定災害レベルS】


俺のスマホが緊急アラートを鳴らす。

逃げ遅れた『暁の剣』の剣士が、腰を抜かして震えていた。

キメラが大きく口を開け、灼熱のブレスを溜め込む。

死の光が、若者たちを焼き尽くそうとしていた。


「……チッ」


俺は舌打ちをした。

恐怖からではない。


再び、腕時計を見る。

16時59分30秒。


「おい、そこの不法侵入獣モンスター。……今すぐ消えろ」


俺はネクタイを緩め、眼鏡の位置を直す。

その瞬間、俺の視界(UI)が切り替わった。


――解析開始スキャン・スタート


世界が、緑色のワイヤーフレームに変換される。

キメラの肉体が、筋肉や骨格ではなく、「術式コード」の羅列として視覚化される。

膨大な情報の奔流が、俺の脳内を駆け巡る。


『対象:変異型キメラ・ロード』

『構成素材:炎属性40%、物理耐性30%……』

『構造欠陥:右前脚の魔力循環パスに、重大なバグ(脆弱性)あり』


「……検索終了サーチ・コンプリート


俺はため息交じりに呟いた。


「なんだ。ただの『魔力スタック・オーバーフロー』か。……コードが汚すぎる」


キメラがブレスを吐き出した。

コンクリートをも溶かす獄炎が、俺に向かって一直線に迫る。

Aランク探索者たちが「終わった」と目を覆う。


だが、俺には見えている。

その炎の発生源にある、たった1行の記述ミス(エラー)が。


申請却下アクセス・デナイト。」


俺は右手をかざし、空中に浮かんだ仮想キーボードの『Delete』キーを叩くような動作をした。


パチュン。


軽い音がして、迫りくる獄炎が、一瞬で「0と1」の光の粒になって霧散した。


「は……?」


腰を抜かした剣士が、口をポカンと開ける。

キメラもまた、何が起きたのか理解できず、動きを止めた。

その隙を、俺が見逃すはずがない。


「ダンジョン法第13条、及び労働基準法に基づき――」


俺は胸ポケットから、漆黒のカード(特命全権委任状)を取り出し、キメラにかざした。


「貴様の存在を、事務的に抹消する。」


――強制執行エクスキュート


俺が指をパチンと鳴らす。

瞬間、キメラの右前脚にある「バグ」の座標に、修正パッチが強制インストールされた。


その一点から、キメラの身体が幾何学的なポリゴン状に分解されていく。

断末魔の叫びすら上げられない。

巨大な怪物は、まるで最初からそこに存在しなかったかのように、ただのデータカスとなって空気に溶けた。


戦闘時間、わずか3秒。


静寂が戻ったダンジョンに、17時を告げるチャイムが遠くから聞こえてきた。


「……よし、定時」


俺はバインダーのホコリを払い、呆然としている『暁の剣』の連中に背を向けた。


「あ、君たち。そこの破損状況、あとで報告書出しといてね。様式第4号だから」


言い残して歩き出す俺の背後で、彼らの怯えた声が聞こえてくる。


「キ、キメラが……急に破裂した?」

「魔力暴走による自壊か……!? くそっ、ビビらせやがって!」


どうやら俺の「事務処理デリート」が速すぎて、彼らの動体視力では「怪物が勝手に自爆した」ようにしか見えなかったらしい。


好都合だ。

俺はスマホを取り出し、愛する娘にLINEを送った。


『今終わった。プリンも買っていくよ』


これが、日本国ダンジョン省・特別管理課。

世界最強の「解析者」である俺の、ありふれた日常業務ルーチンワークだ。

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