プロローグ
僅かでも、と 願っておりましたのに。
少女は、瞼を伏せ下唇を噛みながら心のなかでそっと落胆した。
国一番の格式高く広い教会に集まった聴衆がにわかにざわめく。その顔は皆困惑と落胆、そして侮蔑の色を浮かべていた。
「な……何かの間違いかもしれませんし、別の石をご用意しますので仕切り直しましょう!」
黒装束の神父が、焦った顔になんとか笑みをたたえてそう少女に提案した。そうだ、何かの間違いだとしか思えない。聴衆たちは神父の提案を聞き更にざわめきを大きくする。
神父の提案を聞いた少女は、自身の父……この国の王太子に目配せした。
父は、静かに首を振る。少女も同意見だった。
「神父さま。お気遣いありがとうございます。ですが、やり直しは不要ですわ。」
「セレスティア様、そう仰らずに……」
「いいえ、石の不具合でもわたくしの不手際でもありませんもの。」
そう言い放つと少女は聴衆を一瞥し、一つ、呼吸を置いた。
認めたくなかった。でも、この手の中の灰色の石を見れば、認めざるをえない。
これからの人生に覚悟を決めた未だ幼い少女を、創世神エルディア像が静かに見下ろしている。
少女は意を決して、神父と聴衆に、そして世界に向けて凛とした声で告白した。
「わたくし、魔力が少しもございませんの。」
エリステリア王国王女、セレスティア・マリアン・ルクスウェル
彼女が"灰色姫"と呼ばれる由縁である。