五、石豚の怨念
五、石豚の怨念
模罹田と度囲は、水で苦労する事となった。
何と、在庫である飲料水の瓶が、全て、蒸発して、無くなっていたからだ。
「模罹田上等兵、王冠に、隙間が出来ています!」と、度囲が、容易く、瓶の王冠を外した。
「おいおい。不良品を管理させられていたのか?」と、模罹田は、怪訝な顔をした。軍直属の倉庫なので、全品、不良品なのは、考えにくいからだ。
「そうですね。軍が、不良品を寄越すなんて、考えられませんね」と、度囲も、同調した。そして、「まさか、石豚の呪いとか…」と、口にした。
「ははは! まだ、そんな寝惚けた事を言うもんじゃない! 雨水で、何とか賄うしかないだろうな」と、模罹田は、あっけらかんと言った。石豚の怨み言を認めたくないからだ。
「そうですね。少々、弱気になっちゃいました。本部から救援が来るまで頑張りましょう!」と、度囲が、意気込んだ。
「そうだな。救援が来たら、俺達の勝ちだ! 石豚の呪いなんぞに、負けてられるか!」と、模罹田も、頷いた。水を確保するくらい、容易だと考えているからだ。
しかし、不思議な事に、倉庫の周辺に、一粒も雨は降らなかった。それに、本部は、敗戦のゴタゴタで、解体されて救援どころではなかった。終戦から数週間後、敵国の燃爆調査団に発見されるまで、ドブ川の水を啜っていた。
その頃には、模罹田達の頭の中に、石豚の呪いは無くなっているのだった。