三、川面に立つ男
三、川面に立つ男
美根我は、夜が明けぬうちに、学校を出発した。浄水場の様子を見る為である。幾つものアンモニア臭を放つ黒い物が横たわる道を果敢に進んだ。そして、薄明るくなった頃、ようやく、浄水場の建屋に辿り着いた。しかし、入口には、焼け爛れた夥しい数の遺体が、将棋倒しのように、奥へ向かって倒れ込んでおり、進む事を断念するしかなかった。次に、河原へ向かった。程無くして、川面を見つめるぽっちゃり体型の若者を視認した。その直後、土手を駆け下りて、傍まで歩を進めた。そして、数歩手前で、歩を止めるなり、「あのう。命を粗末にしちゃあいけませんよ〜」と、声を掛けた。駄目元でも、お節介をしたくなる性分だからだ。
「止めないで下さい! 僕に、居場所なんて無いんですから!」と、ぽっちゃり体型の若者が、怒鳴った。その刹那、跡形も無く消えた。
「え?」と、美根我は、目を瞬かせた。まるで、狐に抓まれた気分だからだ。そして、「今のは、いったい…」と、小首を傾いだ。ぽっちゃり体型の若者が、居なくなった事に、理解が追い付いて居ないからだ。そして、水道水は、口にするべきではないという結論に達するのだった。