㊶夢かも
藤澤 琉生。
彼は、私の推しだ。
そして、クラスメートでもある。
そして、なんとなんと。
同じ部活の仲間でもある!(やった! 1行増えた)
ある日、部活に行ったら、何の前触れもなく、そこに琉生がいた!
少し遅れて部室に行った私は、扉を開けて、一瞬かたまってしまった。
一体何の奇跡が起こったのか?
すぐ目の前に、琉生が立っている!
そして、ごく自然に、同じ1年の松尾くんと一緒に、テーブルに紙皿を並べて、お団子をのせる準備をしている。
松尾くんの言うには、お団子を買いに行った顧問の倉内先生が、「新入部員連れてきたよ~」と琉生を連れて帰ってきたのだという。
みんなでお団子を食べながら、本の話をして――そして今。
彼は、残ったお団子争奪戦ジャンケンに参加している。争奪ジャンケンに加わったのは、顧問を含めて全員だ。
熾烈な戦いを勝ち抜いた彼は、最後の決戦で大田部長との勝負になった。
琉生は腕を交差して、手の平同士を合わせて手を組み、そのすき間をのぞいてうなずいている。
何を出すか決まったようだ。
大田部長が、「いざ、勝負!」と声をかけ、2人は力一杯、「ジャンケンホイ!」と叫んで、手を出した。
「やったあ~!!」
琉生が、めでたく、残ったお団子をゲットした。大喜びで、恭しくお団子を受け取り、彼は、勢いよくお団子にかぶりつく。もぐもぐ動くほっぺが、白くて柔らかそうで、なんだか、彼のほっぺまで美味しそうに見える。
こんな可愛らしい琉生を見るのは初めてだ。
あまりにも嬉しそうで幸せそう。なんだか見ているこちらまで幸せな気分になってくる。
よほどお団子が好きなのか。
なんなら、次から私のお団子、串に刺さってるうちの1コくらいなら分けてあげようか。
なんてことを考えていると、城田先輩が言った。
「琉生くん、お団子好き?」
「ふぁい」
お団子を頬張りながら、ニコニコ笑って琉生が大きくうなずく。
「そっかぁ。じゃあ、ニックネーム決まり! お団子lover琉生、ね」
「え~……」
琉生がちょっと恥ずかしそうに笑って、
「このお団子、めちゃくちゃ美味しかったから……」
言い訳のようにつぶやく。
「わかるわかる」
みんなうなずく。
「じゃあ、僕だけじゃなくて、みんなお団子loverじゃないですか」
琉生が言うと、
「うん。でも、一番美味しそうに食べてたのは、琉生くん、君だからね」
三田先輩が言った、
「ほんとほんと。そんなに美味しそうに食べてもらったら、お団子も本望だよね」
満田先輩が笑う。
「今度、僕の団子、1コだけ分けてあげるよ」
大田部長が言うと、
「あ。同じこと思ってた! 1本全部は無理だけど、丸いの1個分くらいなら、分けてあげるよ」
平澤先輩も笑いながら言った。
琉生の嬉しそうな顔を見ながら、どうやら、みんな同じことを思っていたらしく、うんうんうなずいている。
「みんなから、1コずつもらったら、それだけで2本分くらいになりそうやね」
私が言うと、琉生が両方のほっぺに手を当てて、
「おおお」
と声を上げ、目をキラキラさせて嬉しそうに笑った。
「ほら。やっぱりお団子loverだ」
城田先輩が言って、みんな笑った。
藤澤 琉生。
彼は、私の推しだ。
そして、クラスメートでもある。
さらに、なんと同じ部活の仲間でもある!(やった! 1行増えた)
部活が終わって、帰り道は、文芸部のみんなで同じ電車に乗った。
みんなで普通におしゃべりしながら電車に乗っていると、琉生も普通の高校生の1人に見える。誰も彼をアイドルの『藤澤琉生』だと気づいていない。
扉の近くの吊革につかまって、琉生がくつろいだ顔で立っている。
こんな顔も珍しい。
今日は、琉生のいろんな顔を見た。嬉しいなあ、そう思って、ぼんやりしていたので、途中の駅で降りる人たちに巻き込まれて、私も一緒に押し出されてしまいそうになった。
おっと。踏みとどまろうとして、逆にバランスを崩してしまう。
そのとき、私を支えるように、さっと長い腕が私を抱きとめた。
琉生だった。
「大丈夫?」
「だ、大丈夫。……ありがと」
これは、夢?
まるでドラマの1シーンのような。
一瞬で離れていった、彼の腕。
でも、かたく引き締まった筋肉質の腕の感触が、私の背中に残っている。
これは、もしかしたら、ほんとに、夢かもしれない。
私は、自分のほっぺたをぎゅううっとつまんでみた。
イタイ……気がするような、しないような。




