㊵早く来て!
藤澤 琉生。
彼は、私の推しだ。
そして、クラスメートでもある。
アイドルの卵でもある彼は、めちゃくちゃカッコいい。
事務所のホームページ情報によると、
身長178センチ、血液型A型。
学業成績も優秀。外国語は英語が得意。その他にもいくつか外国語を勉強中。
特技は、ギター、ピアノ、ダンス、歌、手芸(羊毛フェルトのマスコットづくり)、乗馬、水泳、剣道、サッカーなどスポーツ全般。(出来ないことをさがした方が早そうな……)
趣味、読書。作詞作曲。外国語学習。
脚はめっちゃ長く、小顔でお肌すべすべの色白。サラサラの長めの前髪の下に、きれいな形のくっきりした眉が見え隠れする。瞳の大きい切れ長の涼しげな目元を優しくなごませて、形のいいくちびるの両端をそっと上げると、もう泣きそうなくらい素敵な笑顔になる。
そんな彼だから、道を歩けば、十人中十人の人が振り向き、なんなら、ハーメルンの笛吹きよろしく、あとをついていきたくなる人が続出。
ステージに立てば会場のお客さんの視線を一気に集め、歌えばその声で聴く人全てをうっとりと魅了する。ドラマに出れば何度も彼の出演シーン見たさに繰り返し視聴する人が続出するので、視聴率も人気ランキングも跳ね上がると言われる。
そう。褒め言葉は、いくらだって出てくる。(何と言っても彼は私の推しだ)
ありとあらゆる才能を全て持って生まれてきたかのような彼。
それが、藤澤琉生だ。
その琉生と同じく高い人気を誇るのが、妹尾想太だ。
これまた事務所のホームページ情報によると、
身長178センチ。血液型はO型。
学業成績も優秀。琉生と同じで外国語は英語が得意だけど、それ以外の外国語も勉強中。さらに、彼は数学が得意だ。
特技は、ピアノ、ギター、ダンス、歌、手芸(羊毛フェルトのマスコットづくり)、乗馬、水泳、剣道、サッカーなどスポーツ全般。(琉生とほとんど同じだが、羊毛フェルトは想太が琉生に教えたのがきっかけらしい)
趣味、作詞作曲。漫才やお笑いの動画を観ること。漫才のネタ帳を書くこと(いつか琉生とコンビで漫才をする日のために書いているとか)。
彼も脚がめっちゃ長く、小顔でお肌すべすべもちもちのほっぺだ。ドラマの役柄のせいで、琉生よりやや短めの髪型にしていることが多いが、少し伸びてくると、柔らかそうなふわふわの髪に少しウェーブがかかる。
彼もまた、きれいな形のくっきりした眉をしている。二重で薄茶の瞳は丸く大きく、カッコいいという以上に可愛い印象にもなる。いつも爽やかに口角が上がっていて、その笑顔に誰もが引込まれる。琉生曰く『想太マジック』の使い手だ。想太が笑いかけると、どんな人でも動物でも笑顔に変わる、とさえ言われている。
ほんまに……2人ともそろいすぎやん。ため息が出る。
でも、そんな奇跡のようなアイドルの卵が2人揃っているのが、うちのクラスだ。
当然、他のクラスの子たちからは、めちゃくちゃに羨ましがられている。
同じ教室で、同じ空気を吸えるだけで、どれほど幸せなことか、ずるい、と。
その気持ちは、よくわかる。わかりすぎるほどにわかる。
私自身が、日々実感しているからだ。
でも、クラスの中で、彼らはごく普通の高校生として過ごしている。クラスの子たちも、彼らを特別な目で見たり騒いだりはしない。だから、琉生も想太も居心地が良さそうに見える。
彼らは学校で過ごす時間が大好きで、ほんとに大切にしているのが伝わってくる。2人とも仕事と学業を両立するために一生懸命なのがわかる。だから、クラスメートとしても、彼らの学校生活を守りたいと思わずにいられないのだ。
はじめのうち、他のクラスの子の中には、わざわざうちのクラスまで彼らを見に来て、中には勝手に写真を撮ろうとする子たちもいた。でも、そんなとき、さりげなく彼らをカバーするようにクラスの誰かが動く。
あまりにもしつこい子には、佐藤くんをはじめとする男子たちが、様子を見て声をかける。
「写真を撮るな!」ではなく、「琉生と想太に普通に居心地のよい学校生活を送らせてあげようよ」と、話す。「もし変に注目されすぎて騒ぎになって、彼らが学校に来れなくなったら、それこそ元も子もないでしょう」と。
すると、ほとんどの子たちが納得してくれて、隠し撮りのようなことやサインをねだりに来るようなこともしなくなり、次第に、みんな琉生と想太が同じ教室内や校内にいることになじんでいったのだ。
藤澤 琉生。
彼は、私の推しだ。
そして、クラスメートでもある。
アイドルの卵でもある彼は、普段わりとおとなしい。
けっして無口なわけではない。穏やかに美しい光を放ちながら、そこに佇んでいるという感じだ。
なので、彼が大きい声で騒ぐことなどめったにない。
ところが、そんな琉生が今日、大声を出した。
「先生~! 早く! 早く来てください!!!」
琉生の声は、切羽詰まっている。
それより少し前に、一度、軽く先生を呼ぶ琉生の声はあったけど、二度目のそれは、悲痛な叫びのようだった。
何ごと?! みんなが振り向く。
今日の5・6限は、調理実習だ。4人ずつの班に分かれての作業だ。
メニューは、プリンとクッキー。
作りたいものアンケートの結果と、卵・牛乳アレルギーの生徒がクラスにいなかったため、この2つに決まった。
グループ分けは、くじ引きで決まり、琉生の班のメンバーは、想太・佐藤・菱川の4人だ。ただ、今日は菱川くんが早退したので、3人でドタバタがんばっているみたいだ。
私の班は、偶然、お菓子作りが好きなメンバーが集まったので、作業はめちゃくちゃ順調だ。私もプリンとクッキーはけっこう得意だ。
手際よく作業が進んでいく。
ときおり様子を伺うと、琉生たちは真剣な顔で作業している。
なんでもこなす彼らも、お菓子作りはちょっと不慣れなようだ。
やがて、プリンを型から外して用意の出来た班から、先生を呼んで仕上がり具合を採点してもらうことになった。
あちこちで先生を呼ぶ声がする。
メモボードを持った先生は、あちこちの班を巡っている。
そのときだ。
「先生~! 早く! 早く来てください!!!」
琉生の切羽詰まった声が響いた。
「ハイハイ、ちょっと待ってね」
先生が、あわてて琉生たちの班のテーブルに行き、彼らのプリンを見る。
「まあ、とってもきめ細やかに出来たわね~。はい、この班は、10点中9点ね」
と言って、先生がメモボードに点数を書き込んだ。
「先生、うちの班も見てください」
すぐに他の班に呼ばれて、先生は琉生たちのプリンに背を向けた。
その次の瞬間、ギリギリ形を保っていたプリンはみごとに真っ二つに裂けてしまった。
「ああああ……」
琉生たち3人の切なそうな声。
どうやら、彼らはプリンが裂ける前に先生に見てほしくて、必死だったようだ。
幸い、先生にはぎりぎり無事な姿を見てもらえたけれど、型から外した3個目も同じ結果になっていた。
裂けていくプリンをため息と共に、しょぼんと悲しそうに見守る3人。
そんな3人の様子が妙に可愛くて。申し訳ないけど、ついつい私も吹きだしてしまう。周りの班の子たちもクスクス笑いながら見ている。
「琉生くんがあんなに必死なの初めてみた~」「3人とも、かわいそうだけど可愛い~」
うちの班のプリンはきれいな形を保ったまま、ホイップとサクランボの飾り付けまで完璧で、10点満点をもらった。
気になって、琉生たちの様子をそっと見てみる。
もう一つのメニュー、クッキーはなんとか上手くいっているみたいだ。3人が笑顔になっている。
琉生はうっとり幸せそうに、自分たちのクッキーを見下ろしている。
(よかったね)
そう思ってみていると、琉生と目が合った。
ドキッとしたけど、私は、わざと自慢そうに、自分たちのプリンを指さして笑ってみせた。
すると、琉生も、お返しのように、自分たちのクッキーを指さして自信たっぷりの笑顔を見せる。
その琉生の笑顔が、なんだか可愛くて愛おしくて、私も、うんうんとうなずきながら、笑い返す。
胸の中いっぱいに思いがわき上がる。
(大好きだよ。琉生)
そっと心の中で、つぶやく。




