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あのね。  作者: 原田楓香
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㊲おそろい


 藤澤 琉生。

 

 彼は、私の推しだ。

 そして、クラスメートでもある。

 アイドルの卵でもある彼は、大の読書家だ。


 昨日、私は、彼に初めてのプレゼントをした。

 読書家の彼にはぴったりの――――しおりだ。

 プレゼントと呼ぶにはあまりにもささやかだけど、しおりなら、彼が確実に使ってくれそうな気がして。

 いつも手元で、普通に使ってもらえるものをあげたいと思っていたから。

 

 

 そして、今朝――――。

 登校してきた琉生の手の中には、1冊の本。そして、その本から少し顔をのぞかせているのは……。

 私が昨日渡したしおりだ。おお。使ってくれている。嬉しい。

 表はきれいな青色、裏が銀色で、上の方にあけた小さな穴(穴開けパンチであけた)には、細い銀色で縁取られた青色のリボンが通してある。われながら、いいセンスだ。かっこいい。秘かに自画自賛する。


「おはよう。織田さん」

 琉生が、入り口のそばの席にいる私に声をかける。穏やかで優雅なほほ笑みが、頬に浮かんでいる。そして、今日も、眩しいくらいに髪もツヤツヤだ。

 彼の声で自分の名前が聞こえてきて、一瞬ぼ~っとしつつも急いで、

「お、おはよう!」

 精一杯がんばって、私も笑顔を添える。

 幸い教室には、まだ誰も登校していない。つかの間の、2人だけの時間だ。やった! 早起きして来た甲斐があった。

 いつもとは限らないが、琉生はけっこう、早い時間に登校してくる。満員電車が苦手だと、前に話していた。それを聞いて以来、私も、可能な限り早めに登校することにしたのだ。

 今日もラッキーだ。

 よかった。神様! どちらの神様にお礼を言ったらいいのかわかりませんが、とにかく今日も朝から、感謝です!(どうも最近、神様にお礼を言う場面が増えている気がする……)


 調子に乗って、心の中で追加を祈る。

(神様。つきましては、もう一つお願いが。

 今からしばらくの間、この教室に誰も来ませんように。どうか、どうか、2人だけの時間を。今しばらく。なんなら、みんなが遅刻してくれますように……)

 ヨコシマなことを考える。そんな私の祈りには気づかず、

「これ」

 琉生がニコニコ笑顔で、本を掲げ、しおりを指さす。

「ほんとありがとう。さっそく、めっちゃ使ってるよ」

「よかった……・気に入ってもらえたみたいで」

「気に入るなんてもんじゃないよ。見るたびにテンション上がって、すごい元気が出る」

 琉生の瞳がキラキラしている。ほんとにそう思ってくれてるのが伝わってくる。


 それにしても、しおりを見てテンションが上がるって、さすが読書家の琉生だ。

「憧れの圭さんのメンバーカラーのだし。それに、僕は銀テ、キャッチしたことまだ一度もないんだ。だから、めちゃくちゃ嬉しいよ」

 そうか。そうなのか。あれほど何度もステージに立っているのに。

「だって、ステージに立ってる間は、まさか銀テ飛んできても、拾えないもん」

「ふふふ。そりゃそうだよね~」

 2人で笑う。琉生は、時々、ぽろっと面白いことを言う。

 私の頭の中に、ダンスそっちのけで、銀テを拾ってる、琉生が浮かんで、笑いがこみ上げる。可愛い。


 ちょっとニヤニヤしていると、

「ねえ。織田さんも、圭さん推しなの?」

 琉生がまじめな顔をして訊いてくる。

「え? あ、う、うん。推しって言うか、素敵だよね」

「そう。ほんと素敵だよね……」

 琉生がうっとりした顔になる。

「美しさも可愛さも、カッコよさも全部、兼ね備えてて。ドラマでは、シリアスもコメディも何でもこなせて」

 琉生につられて、私もついつい力説してしまう。半分は従姉のマユちゃんの受け売りだ。

「そうそう」

 琉生がうなずく。

「そうか~。織田さんも、圭さん推しだったんだ~」

 琉生は、なんだか1人で納得している。

 いや。確かに、妹尾 圭、好きやけど。

 ちがうよ? 私のイチオシはね。

 今、目の前にいる、琉生くん、アナタなんだよ。これまでも、この先も、ずっと、アナタ1人だよ。

 と思うが、もちろん、口にはしない。


「ごめんね。推しの貴重な銀テ、僕分けてもらって。ちゃんと自分の分はあるの?」

「うん。もちろん。しおり、自分用も作って、家で使ってる」

 “家で”という言葉を念のために添える。学校に持ってきて、匂わせ、みたいなことはしないよ、と暗に伝えたつもりだ。

「そっか。じゃあ……おそろいだね」

 琉生がにっこり笑った。……その破壊力。

『おそろいだね』

 琉生の声が、何度も心の中でこだまする。うあああ……

 私が心の中で、うめいていると、そろそろ登校してきた子たちの、にぎやかなざわめきが近づいてきた。

 どうやら、みんな遅刻する気はないらしい。



 藤澤 琉生。

 

 彼は、私の推しだ。

 そして、クラスメートでもある。

 アイドルの卵でもある彼は、大の読書家だ。



「お。それ、HSTのライブの銀テ!」

 妹尾 想太が声を上げる。

 琉生のしおりを指さしている。

「いいなあ。それどないしたん?」

「知り合いからもらった」

 琉生が応える。

「しかも、妹尾 圭のメンカラ(メンバーカラー)の銀テやん。なるほどなあ。巻いてなおしとくだけじゃなくて、しおりにすればいいんや」

「そうそう」

「よし。決めた。オレも、今日家に帰ったら、銀テでしおり作る」

「え? おまえ、銀テ持ってるの?」

「ううん。オレのじゃない。正月のライブで、母ちゃんが初めてゲットしたのがある。貴重な一本やからって、そのまんま、巻いておいてるのがあるねん」

「そうか」

「よし。母ちゃんに、しおり作ろうって提案しよう。しおりならきっと賛成してくれるやろ」

 想太の母親は、学校図書館司書をしていて、大の本好きなのだ、と聞いたことがある。想太の父、圭との出会いも、本屋さんで、本を選んであげたのがきっかけだったという話は有名だ。



 翌日以降――――

 うちのクラスでは、いたるところで、ライブの銀テしおりを使っている人が続出していた。

 みんな、琉生と想太の会話を聞いていたらしい。

 案外、家に使い道のないまま、それでも、せっかくの記念だからと、銀テを巻いたまま置いてある子も多かったようだ。しおりなら、かさばらずにいつも持ち歩けるし、有効活用できるのがいい、と。

 お正月のHSTのドームライブの銀テをしおりにした子もけっこういた。中には、8人のメンバー分、全色持っている子もいて、彼女は、思い切って大量に作ったから、いる人あげるよ~っとクラスみんなに声をかけたので、今となっては、琉生とお揃いの色の銀テしおりを使っている子は、何人もいる。


 なんだかあっという間に、秘かな『おそろい』ではなくなってしまった。

 同じように端っこに穴を開けて細いリボンをつけている子もたくさんいる。


 う~ん。2人だけの、秘かな“おそろい”のはずやってんけどな。

 ちょっと残念な気もする。

 今は、クラスの子たちみんなが誰かとおそろいのを使っているのだ。もう秘密でも何でもない。

 そこで、私は、家でだけ使うつもりだったしおりを、学校でも使うことにした。クラス中が、みんないろんなライブの銀テしおりを使っているので、私が持っていても全く目立たないのだ。だから、いいよね?

 

 

 なんとなくガッカリした一方で、1つ嬉しいこともある。

 琉生が、時々、その細く長い指に挟んだしおりを見せて、さりげなく私に笑いかけてくれるのだ。

 それは、私たちの“おそろい”はまだちゃんと続いているよと伝えてくれているような、そんな気がして。

 


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