㉙クラスメート
藤澤 琉生。
彼は、私の推しだ。
そして、同じ高校の生徒でもある。
その上、クラスメートでもある!――――たった今、そのことが判明した。
桜の花びらが舞っている中、私は高校の門をくぐった。
下足室近くで先生たちから、新入生のクラス分け表のプリントを受け取る。
真っ先にさがすのは、
藤澤 琉生。
彼の名前だ。
プリントは両面あり、オモテ面の表の下の方から目を走らせる。……表面にはない。
自分の名前をさがすのは、あとだ。
ウラ面の一番端っこに載っているクラスの表の中に、私は彼の名前を発見した。
妹尾想太の名前もある。中3のとき、学級委員で、話しやすくて親切だった佐藤の名前もある。
(うわあ……めっちゃええなあ。このクラスやったら、ええのになあ。神様神様、どうかお願いします……)
勝手なことばかり祈る私に、神様も呆れているにちがいない。でも必死で祈る。
そして、名前の表を下から上へ、目でたどっていく。
出席番号3番。織田 空。
「あった……!」
あった。あった。あった。あった。
自分の名前が、同じクラスにあった!
うわああ。嬉しすぎる。なんなら合格発表のときより、嬉しいかもしれない。
中3の3学期、図書館のカウンターで過ごす時間がなくなって以降、琉生とはほとんど個人的に喋るチャンスもないままだった。琉生の周りには、いつも男子たちがいて、その中に割り込んで話しかける勇気はなかった。
だから、せめて卒業式くらい、何かひと言、話せたら。いや、話したい。
そう願っていたのに、卒業式の日、彼は仕事だとかで、あっという間に姿を消してしまった。
うちは1組だから、最初に式場を退場した。
そして、退場すると早々に彼は迎えの車に乗って帰って行ったのだ。
式のあと、彼と一緒に写真を撮りたい、と意気込んでいた女子たちのショックは大きかった。
せめて最後に1枚だけでいい。並んで写りたい。そう思っていた子たちは(私もだ)、みんなあまりに無念で、めちゃくちゃ泣いている子もたくさんいた。
知らない人が見たら、卒業でこんなに泣くなんて、ずいぶん純粋な中学生たちよ、と思ったかもしれない。
あとで思うと、もしかして、彼と写真を撮ろうとして、女子たちが大混乱になるのを避けたのか? そんな気もしないではない。なぜなら、保護者である、お母さんたちでさえ、「琉生くんは? どこ? どこ?」とスマホを掲げて、騒いでいたくらいだから。
私は、カバンの底に、彼への手紙をはさんだ文庫本を入れていた。
その本を渡せなかったどころか、『ありがとう』も『サヨナラ』も、何も言えなかった。
いや、高校は同じだから、『サヨナラ』は言えなくてもいい。
でも。
せめて。
『ありがとう』
そう言って、本は渡したかった。
『好きだ』とか、そんなことを告白しようなんて思っていない。というか……しないって決めてる。
ただ。
ただ、『ありがとう』
そう言いたいのだ。
この世に生まれてきてくれて。
そうやって、私と同じ時代に存在していてくれて。
ありがとう。
そう伝えたいのだ。
この世にいてくれて、ありがとう。
そう思うだけで、胸がいっぱいになる。
存在していてくれるだけで、幸せなのだ。
そう自分に言い聞かせながら、高校の入学式の日を迎えた。
藤澤 琉生。
彼は、私の推しだ。
そして、クラスメートでもある!
彼と妹尾想太が、門を抜けて歩いてくる姿が見える。
雪のように舞い落ちる薄い桜色の花びらが肩にとまったのか、そっとつまんでハンカチに挟む仕草が美しい。まるで、ドラマの1シーンみたいだ。
その隣で、自分も花びらをつかまえようとしているのか、長い腕をあちこちに差し出している想太の姿が、ちょっと可愛い。
そんな想太を見ていた琉生の視線が、ふとこちらを向いた。
ドキッとしたけど、がんばって小さくほほ笑んで会釈する。
いつもタイミングよくほほ笑めなくて後悔するので、今回会えたら絶対ちゃんとほほ笑もうと思って、ひそかに練習していた。
(あのね。同じクラスになったよ。よろしくね)
その想いを込めて、ほほ笑む。うまくほほ笑めただろうか。
琉生も、穏やかなほほ笑みを返してくれた。
相変わらず、泣けそうなくらい美しい人だ。
高校の制服もよく似合っている。
先生たちから受け取ったクラス分け表をのぞきこんでいる2人に、7組やで、同じクラスやで、といいに行きたかったけど、彼らの後ろから歩いてくる女子たちが、明らかに2人を意識しているのに気づいて、やめた。
うっかり波風を立ててはならぬ。
教室で会えるから。
また、同じ教室の中に、いられるから。
それでも、
ひゃっほう!!
抑えきれない嬉しさで叫びそうになる。あかん。がまんがまん。
下足室で靴を履き替えると、目の前の階段を駆け上がる。
藤澤 琉生。
彼は、私の推しだ。
そして、クラスメートでもある!
このフレーズを引き続き使える。
やったあ~!
やったあ~!!
やったあ~!!!
嬉しくて階段を一気に3階まで駆け上がって気がついた。
――――ところで、1年7組の教室って、どこ?




