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あのね。  作者: 原田楓香
29/39

㉙クラスメート


 藤澤 琉生。

 

 彼は、私の推しだ。

 そして、同じ高校の生徒でもある。

 その上、クラスメートでもある!――――たった今、そのことが判明した。

 

 


 桜の花びらが舞っている中、私は高校の門をくぐった。

 下足室近くで先生たちから、新入生のクラス分け表のプリントを受け取る。

 真っ先にさがすのは、

 藤澤 琉生。

 彼の名前だ。

  

 プリントは両面あり、オモテ面の表の下の方から目を走らせる。……表面にはない。

 自分の名前をさがすのは、あとだ。

 ウラ面の一番端っこに載っているクラスの表の中に、私は彼の名前を発見した。

 妹尾想太の名前もある。中3のとき、学級委員で、話しやすくて親切だった佐藤の名前もある。


(うわあ……めっちゃええなあ。このクラスやったら、ええのになあ。神様神様、どうかお願いします……)

 勝手なことばかり祈る私に、神様も呆れているにちがいない。でも必死で祈る。

 そして、名前の表を下から上へ、目でたどっていく。

 出席番号3番。織田 空。

「あった……!」

 あった。あった。あった。あった。

 自分の名前が、同じクラスにあった!

 うわああ。嬉しすぎる。なんなら合格発表のときより、嬉しいかもしれない。



 中3の3学期、図書館のカウンターで過ごす時間がなくなって以降、琉生とはほとんど個人的に喋るチャンスもないままだった。琉生の周りには、いつも男子たちがいて、その中に割り込んで話しかける勇気はなかった。

 だから、せめて卒業式くらい、何かひと言、話せたら。いや、話したい。

 そう願っていたのに、卒業式の日、彼は仕事だとかで、あっという間に姿を消してしまった。


 うちは1組だから、最初に式場を退場した。

 そして、退場すると早々に彼は迎えの車に乗って帰って行ったのだ。

 式のあと、彼と一緒に写真を撮りたい、と意気込んでいた女子たちのショックは大きかった。

 せめて最後に1枚だけでいい。並んで写りたい。そう思っていた子たちは(私もだ)、みんなあまりに無念で、めちゃくちゃ泣いている子もたくさんいた。

 知らない人が見たら、卒業でこんなに泣くなんて、ずいぶん純粋な中学生たちよ、と思ったかもしれない。


 あとで思うと、もしかして、彼と写真を撮ろうとして、女子たちが大混乱になるのを避けたのか? そんな気もしないではない。なぜなら、保護者である、お母さんたちでさえ、「琉生くんは? どこ? どこ?」とスマホを掲げて、騒いでいたくらいだから。


 私は、カバンの底に、彼への手紙をはさんだ文庫本を入れていた。

 その本を渡せなかったどころか、『ありがとう』も『サヨナラ』も、何も言えなかった。

 いや、高校は同じだから、『サヨナラ』は言えなくてもいい。

 でも。

 せめて。

『ありがとう』

 そう言って、本は渡したかった。

 


『好きだ』とか、そんなことを告白しようなんて思っていない。というか……しないって決めてる。

 ただ。

 ただ、『ありがとう』

 そう言いたいのだ。


 この世に生まれてきてくれて。

 そうやって、私と同じ時代に存在していてくれて。

 ありがとう。

 そう伝えたいのだ。


 この世にいてくれて、ありがとう。

 そう思うだけで、胸がいっぱいになる。

 存在していてくれるだけで、幸せなのだ。

 


 そう自分に言い聞かせながら、高校の入学式の日を迎えた。



 藤澤 琉生。

 

 彼は、私の推しだ。

 そして、クラスメートでもある!



 彼と妹尾想太が、門を抜けて歩いてくる姿が見える。

 雪のように舞い落ちる薄い桜色の花びらが肩にとまったのか、そっとつまんでハンカチに挟む仕草が美しい。まるで、ドラマの1シーンみたいだ。

 その隣で、自分も花びらをつかまえようとしているのか、長い腕をあちこちに差し出している想太の姿が、ちょっと可愛い。

 そんな想太を見ていた琉生の視線が、ふとこちらを向いた。

 ドキッとしたけど、がんばって小さくほほ笑んで会釈する。

 いつもタイミングよくほほ笑めなくて後悔するので、今回会えたら絶対ちゃんとほほ笑もうと思って、ひそかに練習していた。

 

(あのね。同じクラスになったよ。よろしくね)

 その想いを込めて、ほほ笑む。うまくほほ笑めただろうか。

 琉生も、穏やかなほほ笑みを返してくれた。

 相変わらず、泣けそうなくらい美しい人だ。

 高校の制服もよく似合っている。

 

 先生たちから受け取ったクラス分け表をのぞきこんでいる2人に、7組やで、同じクラスやで、といいに行きたかったけど、彼らの後ろから歩いてくる女子たちが、明らかに2人を意識しているのに気づいて、やめた。

 うっかり波風を立ててはならぬ。

 教室で会えるから。

 また、同じ教室の中に、いられるから。

 

 それでも、

 ひゃっほう!!

 抑えきれない嬉しさで叫びそうになる。あかん。がまんがまん。

 下足室で靴を履き替えると、目の前の階段を駆け上がる。

 


 藤澤 琉生。

 

 彼は、私の推しだ。

 そして、クラスメートでもある!

 このフレーズを引き続き使える。

 やったあ~!

 やったあ~!!

 やったあ~!!!


 嬉しくて階段を一気に3階まで駆け上がって気がついた。

 ――――ところで、1年7組の教室って、どこ?


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