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あのね。  作者: 原田楓香
28/39

㉘いいよね?


 藤澤 琉生。

 

 彼は、私の推しだ。

 そして、クラスメートでもある。

 しかも、同じ図書委員という任務?を背負い、私の隣で週に1~2回図書館のカウンターにいた。

 

 時はうつろうものだ。なんて、誰かが言ってたような。

 そうなんだ。

 素敵な時間も、いつかは終わる。

 ずっと続くものなんて、ない。いいことも。わるいことも。

 だから、放課後の図書館での時間が終わってしまうこともしかたのないことなんだ。


 そして――――難問に思えた謎も、冷静に考えたら、案外あっさり解けるものだ。



 リビングのソファで、テレビを見ながら、

「そんなん、簡単やん」

 弟はあっさり言った。

「え? なんで?」

「その人物は、まず『ありがとう』って言うたんやろ?」

「うん」

「で、そのあと、お守りをくれて、『君の夢が叶うように、という願いも込めて』って言うたんやろ?」

「うん」

 私は、琉生と自分の話ではなく、少し言葉を変えて、小説の話だということにして、“も”の分析と考察を、小学生の弟にも投げてみたのだ。“も”に込められた気持ちは、一体何だ?と。


「だったらさ、めっちゃ簡単やって。ありがとうって気持ちと、夢が叶ったらいいね、という気持ちの2つを込めたってことやろ」

 あっさり言われて目が覚める。

 そうか。

 言われてみれば、そうだ。


 もしかして、“も”に込めた、何か隠された、他の思いがあるかもしれない。な~んて……

 深読みしすぎか。期待しすぎか。

 

「そっか~、そうなのか~」

「姉ちゃん、いつもごちゃごちゃ深読みしすぎやねん。もっと単純に考えたらええんちゃう?」

「う」

 小学生に諭されてどうする、私。



 でも、とにかく、“も”の謎は解けた。

 弟の意見では、

『ありがとう』に加えて、『夢が叶うように』という願いも込めた、2つの気持ち。


 ほんとは、もしかしたら、『ありがとう』と『小説の完成を祈る』、以外の何かがあるかも、って。

 私はただ、そう思いたかっただけなのかもしれない。


 爽やかに振り返らず帰って行った琉生は、きっと、私が、深読みして、“も”を分析・考察していたなんて、夢にも思わないだろう。

 

 ああ。恥ずかしい。

 どんだけ自意識過剰なんだか。

 あああ。

 

 でも。

 たまに、少しぐらい深読みしても、許してほしい。

 誰だって、なにかしらの願望を持つことはあるよね?

 でもね。ちゃんと決めたから。

 

 そう。

 私は決めたんだ。

 大好きって思う気持ちを、本人にぶつけるんじゃなくて、応援することに思い切り注ごうって。


 この先、アイドルとして、どんどん輝いていく彼を心から応援する。

 そう決めた。

 これが、私の、“好き”なんだ。


 彼の笑顔を守りたい。

 私が足を引っ張るようなことは、絶対、しない。

 アイドルである彼を、へんな噂や誤解で困らせたり、しない。(まあ、そんなことは起きないと思うけど)

 

 だから。

 こうして、1人で勝手に好きだって思うくらいは、いいよね?

 気づかれないように、いっぱい見つめるぐらいは――――いいよね?





 藤澤 琉生。

 

 彼は、私の推しだ。

 そして、クラスメートでもある。

 これまで、同じ図書委員という任務?を背負い、私の隣で図書館のカウンターにいた。

 

 彼は、将来有望なアイドルの卵だ。

 今日の卵は、テレビ画面の中にいる。

 私は、リビングで、それを見ている。

  

『挑戦者たち』という小説の映画化が発表されたのだ。

 双子の兄弟が生まれた直後の事故により、数奇な運命を辿り、一人はアメリカで育ち、もう一人は日本で育つのだが、やがて、アメリカでお互いを兄弟だとは知らずに出会い、友情と信頼を深め合っていく。やがて二人は力を合わせてある夢に挑戦しようとする――――というお話だ。


 原作者の三上 柊さんが、琉生と想太が子どもの頃に出演したドラマを観たことがきっかけで(私が初めて琉生を見て衝撃を受けたドラマだ)、書いた小説なのだそうだ。そして、琉生と想太が、主人公たちの少年期から青年期までを演じるのだという。

 キリッとしたスーツ姿で、他の出演者や原作者や脚本家、監督たちとステージに立った琉生と想太は、ただひたすらカッコよかった。スーツがこんなに似合う中学生はそうそういないぞ、と思う。

 たぶん、全国各地の彼らのファンも同じことを思っているに違いない。

 ほとんど180cmに近い長身の二人が並んで立つとひときわ目立って、自然と目がそちらに吸い寄せられていく。


「お二人とも、役柄上、英語力が必須ですよね? 勉強はどうされているんですか」

 司会者に話を振られて、琉生と想太が応えている。

「まだまだですけど、でも、なんとかがんばっています」

「ちょうど受験生なので、受験勉強を兼ねて勉強していました」

 二人とも、今日は緊張しているのか、言葉がかたい。


 そうか。

 あんなに一生懸英語を勉強していたのは、このお仕事のせいだったのか。


 いつだったか、琉生に、

「ねえ。最近、英語、すごく勉強してる? 英語力、めっちゃ伸びてる感じやよね。いや、前から得意やったと思うけど」

 私が訊くと、

「うん。けっこうやってるかな。もともと好きっていうのもあるけど……」

 あのとき、『けど』という語尾が耳に残った。どうやら英語を猛勉強する理由が、『好き』以外にも、ありそうだと感じたっけ。

 

 秘かにがんばってたんやね。

 そう思うと、いっそう愛しさがつのる。

 

「まあ。えらい子ぉらやね。受験勉強しながら、お仕事もがんばって……」

 隣で、母がつぶやく。

 これは、風向きが怪しくなる一歩手前だ。

(あんたはのんきにテレビを見てるのにね)と言われる前に、私は大急ぎで、ソファから立ち上がって自室へ戻る。


 机の上に並べた本のマスコットとブックカバーに手を合わせてから、問題集を開く。

 今テレビで見たばかりの、琉生の笑顔が目に浮かぶ。

 大好きな笑顔。


 がんばろう。

 彼の志望校と自分の志望校が同じだと知ってから、モチベーションも上がりまくっている。

 

 よし。がんばれる。


 同じ制服を着て、満開の桜の下に立つ日のために。

 


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