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あのね。  作者: 原田楓香
27/39

㉗同じ字数の言葉


 藤澤 琉生。

 

 彼は、私の推しだ。

 そして、クラスメートでもある。

 しかも、同じ図書委員という任務?を背負い、私の隣で図書館のカウンターにいた。

 今日は、その最後の日だった。だった。だった。だった……

 ついに、 過去形になってしまった語尾に、エコーがかかる。



 やがて、下校の音楽が流れ、私たちは閉館準備を始める。

 名残惜しそうに、女子たちが琉生に小さく手を振って帰って行く。常連さんたちは、いつも通り、淡々と帰る用意をして、琉生と私2人に、「さよなら」と声をかけて立ち去っていく。


 戸締まり消灯を確認して、琉生と私は、図書館のドアを閉める。

 カチャリというカギの音が、私にもう最後だと念を押す。

 職員室にカギを返して、私たちは下靴に履き替えたあと、並んで校門に向かって歩き出す。

 

 なんだか足が前に進まない。

 いつもは長い足ですいすいと移動する琉生も、私の足にあわせてくれているのか、ゆっくりした足取りで、隣りを歩く。


 下足室から校門まで、ほんの100メートルほど。

 たったの100メートル。

 小学生が走っても、12秒~14秒くらいしかかからない。


(もっと遠くていいのに。もっともっと遠くていいのに)


 なんなら0をもう1コ足してもいい。

 このままずっと、並んで歩けるなら、私は夜通し歩いたっていい。


(大好き、琉生)

 心の中から湧き上がってくる想いを胸の中に必死で押しとどめ、自分の心に問いかける。

 この気持ちは伝えへんって、決めたやろ?

 ……それなら、今の自分にできることは何?


 校門の前で立ち止まる。

「今日は、本当にありがとう!」

 今できる精一杯の笑顔を琉生に向け、元気よく言う。

 周りに誰の姿もない。ちょっとホッとする。

 ありがとうって言う間くらい、琉生をじっと見つめても、いいよね?


 涼しげな目元を和ませて、滲むようにほほ笑んで琉生が言う。

「こっちこそ、一緒に図書委員できて、すごく楽しかったから。ありがとう」

「うん。私も。すごく楽しかった! ありがとう」

「じゃあ。また」

「じゃあ。また」

 クラスでは、まだまだ卒業までは何度も顔を合わせる。でも、放課後一緒に図書館で過ごす、こんな時間は、おそらく、もう二度とない。


 校門を出て、にこやかに手を振り合って、右と左に分かれて歩き出す。

 数歩進んでから、私はそっと振り返る。


 見つめる先にいる琉生は、振り返らずにそのまま歩いて行く。

 長い足でどんどん遠ざかっていく。


 振り返ってほしい気もする。

 いや、ほんとは、振り返ってほしい。

 

(1回だけ、振り返って。私だけに向ける笑顔を見せて)

 つい願ってしまう。


 けれど、数メートル先の角を曲がって、彼の姿は見えなくなった。

 本当は、まだまだ、いっぱい話したかった。

 ありがとう、以外の言葉も伝えたかった。


 でも――――と思い直す。

 胸いっぱいの溢れそうな想いは、決して伝えまい。

 伝えないこの想いをエネルギーに変えて、私は彼を全力で推そう。

 アイドルとして輝くライトを浴びて、いっそう広い世界に飛び出していく彼を、私はひたすら推そう。




 藤澤 琉生。

 

 彼は、私の推しだ。

 そして、クラスメートでもある。

 しかも、同じ図書委員という任務?を背負い、私の隣で図書館のカウンターにいた。

 今日は、その最後の日だった。 



 彼とは反対方向に歩きながら、私は再び考える。

(長い長いファンタジー書いてるって、言ってたでしょ。それが無事完成するように、という願いも込めて)


 やっぱり気になる。

“も”って何?

 

 私の長編小説が無事完成するようにという願い、以外に

 彼は、どんな想いを込めたん?

 

 私は、ポケットの中の小さな箱を、そっと手のひらで包んで問いかける。

(なあ、キミの作者は、私に何を伝えようとしてたん?)

 もちろん答えはナゾのままだ。


 でも、確かなことがある。

 この先、間違いなく琉生は、目標のデビューを果たすだろう。今以上に、どんどん活躍の場を広げていくことになる。そして、私がそんな彼の隣りにいることや並んで歩くことは、もうきっと――――ない。

 

 

 歩きながら、私は涙の粒が頬を転がり落ちるのに気づき、急いでそれを拭った。


 ほんとは、ありがとう以外の、同じ字数の言葉、

「大好きだよ」って……言いたかった。


 そう思った瞬間、涙がぽろぽろこぼれて止められなくなった。


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