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あのね。  作者: 原田楓香
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㉒百目鬼と千手観音


 藤澤 琉生。

 

 彼は、私の推しだ。

 そして、クラスメートでもある。

 しかも、同じ図書委員という任務?を背負って、時々図書館のカウンターで私の隣りにいる(こともある)。が、今は冬休み中なので、図書館にはいない。


 そんな彼は、アイドルの卵だ。

 彼は、今、ライブ会場にいる。

 そして、私も同じ会場にいる!


 

 私は、今困っている。すごく困っている。

 見たいものが多すぎる。

 目が足りない。ステージ上の、HSTのメンバーを追うだけでも大変なのに、そこに、琉生が加わったから。


 とはいえ、関係者席にいる琉生にそれほどライトが当たるわけではない。だから、がんばってもそれほどよく見えるわけではない。ただ、ステージを楽しんでいる琉生の姿も見てみたい気がするのだ。

 一方、ステージでは、パワフルにカッコよく、HSTが会場中を駆け巡り、華やかに歌い踊る。


 あああ。見逃せない。どっちも見たい……。

 目が10コくらいあったなら、一つずつに担当を決めて、ライブのすべてをくまなく見たいくらいだ。

 もしも、自分が妖怪『百目鬼』だったなら……いいかも。100コの目で、いろいろ全部見られる。


 ……いや、待て。

 客席に百目鬼がいたら、みんなライブどころじゃなくなるし、そもそも入り口で、止められるかも?

 客席から、百目鬼にうちわやペンライトを振られても妹尾 圭だって困るかもしれない。


 私は、手元のうちわとペンライトに目をやる。妹尾 圭の笑顔と、ブルーの光。

 隣のマユちゃんは、とうに妹尾 圭をひたすら追うことに集中している。

 そうだ。迷っている時間はない。一刻も早く、心を決めねば。

 とりあえず、妖怪百目鬼ではない私に出来るのは、何かに1つ視線を集中させることだ。


 そこで、思いついた。

 琉生なら誰の姿を追うのか。

 琉生と同じ人に集中してライブを見よう。

 そうしたら、一緒に見てる気持ちを味わえるじゃないか。


 心は決まった。

 琉生は、ずっと昔から、妹尾 圭に憧れてアイドルを志し、今の事務所に入ったと聞いている。

 よし。

 私も、妹尾 圭をひたすら目で追うことを決める。



「なあ。マユちゃん、やっぱ、私、今日は妹尾 圭、集中して見ることにする」

 小さい声で隣りにささやくと、

「そんなん、当たり前やん。せやから、うちわもペンライトも圭くんのを渡してるやろ。今日は、力一杯、圭くん応援するでー」

 力強く言ったマユちゃんは、公式ペンライトの他に、ネットで買ったサイリウムのペンライトも両手に握りしめ、その他にうちわと望遠鏡とを駆使して、忙しそうだ。(もしかしたら、彼女は、千手観音になりたいと思ってるかもしれない)

 妹尾 圭のファンなのだ。

「一個でも多く、圭くんのために青い光を灯したいねん」

 そう言うマユちゃんは、目の前に誰が来ようとも、推しが遥か遠くにいようとも、ひたすら推しだけに視線を注いでいて、ブレない。


 よし。

 私も、今日は、ひたすら圭くんを応援しよう。

 きっと、憧れと夢を胸いっぱいに詰め込んで一心に妹尾 圭を見つめているであろう、琉生に心重ねて。





 藤澤 琉生。

 

 彼は、私の推しだ。

 そして、クラスメートでもある。

 しかも、同じ図書委員という任務?を背負って、時々図書館のカウンターで私の隣りにいる(こともある)。が、今は冬休み中なので、図書館にはいない。


 そんな彼は、アイドルの卵だ。

 彼は、今、観客としてライブ会場にいる。

 そして、私も観客として同じ会場にいる。



 HSTのメンバーたちがドームをパワフルに駆け巡る。途中、妹尾 圭がバックステージ側へ移動したとき、手を振ってほほ笑み、ウインクした顔が、大型モニターに映った。

 そのカッコよさに「きゃあ~っ」と悲鳴のような歓声が上がる。と同時に、大型モニターに一瞬、琉生と想太の顔が映った。再び歓声が上がる。

 おそらく、さっきのウインクは、琉生と想太へのファンサービスだったのかもしれない。

 一瞬映った琉生の顔はすごく幸せそうだった。


 よかったね。

 大好きな人に、憧れの人に、ファンサしてもらえて。

 私まで胸がいっぱいになる。

 

 誰かを好きになるって、ときに切ないけど、幸せだ。

 

 一対一の恋も、たぶんすごく幸せなんだと思う。

 でも。

 一方通行でも、片思いの恋でも―――けっこう悪くない。

 自分で好きなだけ好きでいられる。

 自分の存在を知ってもらえない恋でも――――それだって、恋だ。

 

 私は、自分の胸の中にある、『好き』を大切にしようと思った。

 花が咲く、とか。

 実を結ぶ、とか。

 そんなことがなくても。

 ――――かまわない。


 ただ『好き』でいる。

 ただ好きでいよう、そう思った。



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