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巨骸山脈  作者: 蔦本望
第一章 旅立ち
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5. 検査と審査

ゲートを通過し案内の通り進んでいくと、目印の青い扉が見えた。

案内板に「医務室」と書いてあるのを確認し、扉を開けて中に入ると、真っ白な部屋に青白い光が反射し、驚くほど明るかった。

受付で案内をされたように、入口横のブースにいる職員にカードを見せてから身体検査票を手渡す。

医務室の中はいくつかの部屋に分かれているようで、七番の部屋に案内された。

七番の部屋の前まで来ると、同じように身体検査を受ける人たちが待合席に腰かけており、名前を呼ばれた人が順番に診察室に吸い込まれていく。


座って待っていると名前を呼ばれたので、立ち上がり促されるまま部屋に入る。

診察室の中では医師らしき人が偉そうに椅子に座っていた。

「名前は?」

「シャル・ウォーです。」

「……労働適性検査ですね。間違いないですか?」

はい、と返事をすると医師は、靴を脱いで下着になってから、僕の背丈の倍近くある大きな箱に入るよう指示した。

扉を開けて箱の中に足を踏み入れると、底が柔らかくて驚いた。

ほどよい弾力と温かさが心地よく、ほかの壁も触ってみると柔らかい。

おそらく同じ素材なのだろう。

扉が閉められてから、ピーっという音がなったあと、箱の中の壁が体に密着してきた。

予想外の動きに驚いていると、一瞬で体が箱の中の壁に包まれてしまった。

これじゃ息ができない、と思ってもがこうとしたら、すぐに壁は離れていった。

予想外の出来事に呆然としながら、箱の扉が開いたので外に出ると、助手が僕の顔を見て笑っていた。

よほどひどい顔をしていたんだと思う。

「はじめてだった?びっくりするでしょう?これは巨骸の素材が使われているんですよ!」

自慢するかのように、自信満々で教えてくれた。

あそこの椅子で待っててください、と言われたので、重い足取りで服を着てから椅子に腰かけた。


医師は箱の外にある計測器を見ながら、ぶつぶつと専門用語をつぶやきながら、診断結果を記入していた。

「……濃度……プロト……形成率……」

僕にはほとんどわからなかったが、一生懸命に記入をしていた医師の手がピタッと止まり、計測器とにらめっこを始めた。

何か問題があったのだろうか。

ひやひやしながら待っていると、ようやく記入が終わったのか、医師が診断机の前に座ってから書類を整理したあと、こちらに向き直った。

「何か体調に問題はありますか?」

「特にはないです。」

「……本当に?どこか調子悪いところはないのかね?」

僕が、ないです、と答えると、僕の体の上から下までぎょろっと眼球が動き、何かをメモしたあと、他愛のない質問をされた。

生まれた場所、家族構成、性格、食べているもの、運動経験、過去の病歴、恋愛遍歴などなど、本当に関係があるのかわからないものまで次々と質問された。

少し考えてから書類に書きこんだあと、何かを納得したように医師はうなずきこちらに向き直った。

「これで終了です。」

ありがとうございます、と言って僕が席を立つと、医師も立ち上がって計測器の方に歩いて行った。

部屋を出るときに助手の人に次の面接場所について尋ねると、とても丁寧に教えてくれた。


医務室を出て教えてもらった通りに進むと、目印の緑の扉の前にたどり着いた。

表面には「面談室」と記されているが、扉に色が付いているのは間違いを防止するためなのだろうと思う。

部屋の前にはいくつか椅子が置かれており、何人か座っていたので、扉から一番遠い椅子に座って順番を待った。

部屋から1人出ていくと、面接官らしき人が次の人を呼びに来る。

それが何回か繰り返され、すぐに自分の番になった。

カードを見せてから面接受験票を手渡し中に入ると、部屋は狭く圧迫感があった。

中央には鉄製の机が置かれ、その向かいに初老の男が座っている。

鋭い目つきのその男の隣に、面接受験票を手渡した案内役の面接官が座り、面接が始まった。

初老の面接官は手渡された僕の書類に目を通しながら、ゆっくりと口を開いた。

「過酷な仕事だが、それは理解していますか?」

僕は面接官の目を見ながら、強く短く答えた。

「はい、理解しています」


その後もいくつか質問は続いたが、面接は基本的な意思表示を確認するだけのものだった。

同意書に書いてある内容とほとんど同じだったが、危険な仕事だからこそこういうものが必要なんだろうと思う。

最後に何か質問は?と聞かれたので、休みの日に自由に出かけられるかどうかを確認したが、守秘義務があるため難しいとのことだった。

採掘区域から外に出るには申請が必要らしい。

予想はしていたものの、自由がなくなるのは寂しい気持ちになった。


最後に、結果は3日以内に郵送する、と伝えられて面接は終了した。

どんなことを聞かれるのか不安だったが、無事に終わって気が緩んだのか、出口に向かって歩き出したものの少し迷ってしまった。

警備員にカードを回収されながら出入口のゲートを通過して採掘局の外に出たとき、背中にどっと疲れがのしかかった。

面接も疲れたが、やはりここ数日気が張っていたんだと思う。

大きく息を吐いて体を伸ばしてから、重い足取りで学校に向かって歩き出した。

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