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巨骸山脈  作者: 蔦本望
第一章 旅立ち
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3. 夢をたどる

玄関の扉が軋み、父さんと母さんが帰ってきた。

疲れ切った足取りで家に入ってきた母さんが僕の姿を見つけ、少し驚いた顔をした。

「まだ起きてたの?明日も学校でしょう?」

「待ってたんだ。少し話があって。」

僕の言葉に母さんの顔が曇る。

父さんは無言のまま、椅子に腰かけた。

僕は机の上に広げた書類を静かに差し出す。

母さんが目を伏せ、書類に目を通していく。

光を帯びた紙の上を、指が震えながらなぞる。

「……採掘場?」

母さんが、ゆっくりと顔を上げた。

その言葉に、父さんの眉が動く。


「ダメよ。」

母さんは震える声で強く言った。

「そんな危ないところで働くなんて......それに学校はどうするの?」

予想していた反応とはいえ、返す言葉が少し熱くなる。

「それじゃ、どうやって維持薬を手に入れるの?」

母さんが息をのむ。

「それは……」

母さんの視線が揺れる。

「それは……私か、父さんが、減らせば……」

「減らしたら、死んじゃうでしょ。もし二人が死んだら、ニールとメリルはどうなるの?」

母さんは答えなかった。


父さんが、書類をじっと見つめたままゆっくりと口を開く。

「シャルは、覚悟があるのか?」

ある、と即答したが間髪入れずに父さんが口を開く。

「本当に?」

父さんの視線が、まっすぐ僕を射抜く。

本当に、と力強く返事をしたが、父さんの手が書類の上に伸び、それをゆっくりと裏返した。

「ダメだ。」

父さんの声は、重かった。

「採掘場は危険だ。」

僕がそんなのわかっていると答えている途中で、父さんは低い声で強く、わかってない、と吐き捨てた。

「危険な仕事なんてものじゃない。この町から知り合いが何人も働きに出たが、誰も戻ってこない。政府は隠しているが、待遇がいいということは、そういうことだ。」

まくしたてるように話したあと、息を整えてから僕の目を見て優しく諭すように続けた。

「他の仕事を探しなさい。こんなものは仕事とは呼べない。」

僕は真っすぐ父さんの目を見た。

「僕の夢を知ってる?」

父さんは母さんを見た後に、首を横に振った。

「僕は、ずっと巨骸をこの目で見たいと思っていたんだ。」

「巨骸の存在を知ったときから不思議だった。僕たちの生活を作っているこの不思議な物質の正体を、なんで誰も知らないんだろうって。」

僕は小さく息を吸って、誰にも言ったことのない胸の内をさらけ出した。

「僕はこの世界を、知りたい。」


父さんは目を閉じたまま静かに口を開いた。

「調べるだけなら、他に道があるだろう。例えば、政府の仕事に就くとか......」

もちろんそれも考えたが、15歳の何も能力のない自分にできる仕事がないことは明らかだった。

「そういう仕事は僕じゃ無理だよ。色々と考えたけど、この仕事が一番僕の夢に近づけるんだ。」

「......死ぬかもしれないんだぞ。」

父さんは悲しそうな顔でつぶやく。

負けじと僕も言い返す。

「それでも、僕は知りたい。」


「もし、維持薬が無くならなかったら......」

母さんは泣きながら僕たちの会話を聞いていたが、震える声でささやいた。

「維持薬があっても、いずれは行ってたよ。少し早くなっただけ。いいきっかけだったと思ってる。」

僕の言葉に、母さんは声をあげて泣いた。


父さんが、深く息をついた。

静かに書類を裏返し、ペンを取りゆっくりと名前を書き込む。

「必ず、帰ってくることが条件だ。少なくとも1年に1回は顔を見せること。」

僕は父さんの言葉にうなずきながら、できないかもしれないなと思った。

「ごめんね......」

母さんは泣きながら、小さく嗚咽とともにつぶやいた。

なぜだか無性に悲しくなって、早く父さんのサインが終わらないかなと思いながら、僕は窓の外を見た。


両親との話し合いの後、ニールとメリルを起こさないようにそっと布団にもぐりこんだ。

許可がもらえるかひやひやしたが、両親もどこかで僕が働くしかない、ということを理解していたんだろうと思う。

さすがに採掘場は想定外だったと思うが、少しくらい僕のわがままを聞いてくれてもいいはずだ。

学校を辞めるのは少しもったいない気もするが、これもしょうがないことなんだと思う。

巨骸の研究者になりたいという本当の夢は、ずっと秘密にしておこうと心に誓った。

頭の中を色々な思いが駆け巡り、なかなか寝付くことができなかった。

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