32. 視線
第八採掘区に戻ってきてからは、僕たちはサントから得た情報を整理しながら、兄さんが最後に消えた場所の特定を急いでいた。
そんな中、早速一つ残念な情報があった。
サントが連絡を取ってくれたマニスだが、すでに亡くなっているそうだ。
病死だったようで、当時の研究所はすでに処分されてしまっているらしい。
何とも歯がゆいが、何人か弟子がいるようで、当時の資料が残っていないか弟子をあたってくれるとのことだ。
まさかそこまでしてくれるとは思っていなかったので、嬉しい誤算だった。
今日も朝からテオの研究室で、候補の白脈を探していく。
まず、サントが第八採掘区にいたときの情報と現在の情報とを比較して、当時から今までの間に深層への道が新たに見つかったものを除外していく。
新発見の道を調査団が通るときに、行方不明者を見逃すはずがないからだ。
そして、サントの「ハットたちは深い白脈の横道を探していた」という情報から、残った白脈の当時の深さを調べて、深い順に並べていく。
そうしているうちに、三つの白脈が候補として上がってきた。
監督官に候補の白脈の調査許可を取りに行く。
当時もこの制度があったなら、と思わずにはいられない。
テオが手続きをしている間、近くで待っていると視線を感じる。
どうやら監督官に見られているようだ。
こちらが目線を合わせるとどこかへ行ってしまった。
何かまずいことをしただろうか。
「少しいいですか。」
手続きの終了後、僕たちはすぐに白脈に向かおうと歩き出したが、若い女性の監督官に止められてしまった。
スラっとした体にきちっと制服をまとわせ、短くきれいにまとめられた髪が厳しさを感じさせた。
「なんでしょうか?」
「これから行かれる白脈は注意事項がありますので、近くまで同行します。」
そう言ってから僕たちの前を歩き始める。
何とも強引だが、僕たちは付いて行かざるを得なかった。
白脈の中に入ってからしばらく進むが、一向に止まる気配がない。
「あの、どこに問題があるんですか?」
さすがにおかしいと思い始めたのか、テオが声をかける。
「もう少しですよ。」
そっけなく監督官は応えるが、僕たちの緊張感は高まっていた。
もしかしたらどこからか僕たちの企てが漏れたのかもしれない、という恐怖が拭えなくなっていた。
「ここで休憩しましょう。」
少し広い空間に出てから、監督官が提案する。
僕たちは言われた通りに腰を下ろし、持ってきた飲み物を飲む。
それにしてもこの監督官はすごい体力だ。
僕とテオは肩で息をしているが、彼女は汗一つかかずに涼しい顔をしている。
僕たちが息を整えるのを待ってから、彼女はいきなり話を始めた。
「単刀直入に聞きますが、ニールさん。あなたは、何をしにこの採掘区に来たんですか?」
いきなり名指しで呼ばれて口に含んだ飲み物が飛び出そうになる。
「な、なにって......研究のためですけど......」
「そうですか。本当は、違う目的があるんじゃないですか?」
心臓の音が大きくなる。
平常心だ、と自分に言い聞かせる。
「いえ、それ以外にないですけど。」
「......あなたの名前は、ニール・ウォーですね?私は、あなたと同じ名字の人を知っています。」
まずい。
反射的にテオの顔を見てしまう。
テオは、なんでこっちを見るんだという苦々しい顔をしながら声を絞り出す。
「それが、どうしたんですか?彼は、ただ僕の研究を見に来ただけだと思いますよ。それに、名字が同じだからどうしたんですか?」
「私が知っているその人の名前は、シャル・ウォーと言います。ご存じではないですか?」
あまりの展開に頭が追いつかない。
この監督官は何なんだ。
何も返すことができずに黙っていると、監督官が言葉を続ける。
「.....あなたのことを少し調べさせていただきました。あなたは名字だけでなく、シャル・ウォーと登録情報が同じですね。つまり、あなたはシャル・ウォーの弟なのではないですか?そして、この採掘区に兄を探しにきた。ここで行方不明になった、兄を。」
世界の音が遠くなる。
こんな形で終わってしまうとは思わなかった。
過去の様々な思い出が、走馬灯のように頭を駆け巡る。
体から力が抜けていく。
僕は何も答えられないまま、時間だけが過ぎていった。




