31. 分かれ道
眠い目をこすりながら、ベッドから体を起こすと、テオはまだぐっすりと眠り込んでいた。
出かける準備を進めていたが、まったく起きる気配がないので、仕方なく体をゆする。
何やら言葉にならない文句を言ってから、ベッドからこぼれるように体を放り出す。
何ともめちゃくちゃだが、テオの思わぬ弱点を知って、少し嬉しくなる。
とりあえず最低限の身なりを整えて宿を出ると、外はすでに喧騒に包まれていた。
「とりあえず、サントと俺たちだけになる瞬間を作らないとな。」
まだ寝ぼけたような顔で、自分に言い聞かせるようにテオが話し始める。
「そうですね。そこが最低条件ですし......」
「飯でも食べてから行くか、頭が働かないしな。あそこでいいか......」
テオはあくびをしながら、適当なお店に入っていった。
研究所の前に着くと、さすがに緊張感が高まっていた。
昨日と同じようにベルを鳴らす。
朝の研究所は静まり返っていて、自分の心臓の音がよく聞こえた。
サントの部屋に着くと、昨日と同じようににこやかな顔で、僕たちを歓迎してくれた。
「おはよう。今日は何をしたいんだい?」
「おはようございます。今日は、第八採掘区での過去の研究内容についてお聞きしたいと思っています。いまの自分の研究に活かせるものがあるのではと思ってまして......」
「昔の内容になるけど、いいのかね?最先端の研究もあるが......」
「もちろんです。第八採掘区を知ることが、自分の研究への近道だと考えているので。」
「たしかにそうかもしれないね。よし、それじゃ早速話そうか。こっちに座りなさい。」
僕とテオは内心ホッとしていた。
昨日立てた作戦の通りに物事が進んだからだ。
テオの研究内容は巨骸の構造論のため、第八採掘区での経験を聞きたいというのは至極自然の流れだろうと、僕たちは考えたのだ。
とりあえず、最初の関門は乗り越えた。
ここからどのように切り込んで行くかが勝負だと、テオと目を見合わせてから、僕は席に着いた。
何気ない採掘所での研究内容を順序立てて聞きながら、例の話が出るのをじっと待つ。
「そして次は、君たちも知っていると思うが、第三層の採掘だね。」
来た。
「実は第三層自体は僕が見つけたわけじゃなくてね。ハットという研究員が見つけたものなんだ。ただ、ハットは新米だから、なかなか使える物も人も少なくてね。そこで、私とマニスという研究員にサポートの声がかかったのだよ。」
「共同研究の申し出があったんですね。」
「その通り。みなで協力して第三層を採掘しようという取り組みが始まったわけだ。正直、かなり難航したよ。なかなかうまくいかなくてね。今思えば、誰も採掘したことがなかったのだから当然だが、当時は悔しくてね。非常にストレスだったのを覚えているよ。」
サントが楽しそうに笑う。
「そんなとき、採掘につながる新たな発想を出したのが、ハットの下に付いていた作業員のシャル君だった。非常に面白いアプローチでね、私は気に入ったんだが、マニスは反発したから、私とハットとシャルの三人で進めていたんだよ。そして、その取り組みがうまくいって採掘に成功したわけだ。シャル君が採掘に成功したときは、思わず泣いてしまったよ。」
兄さんが世界で最初に採掘した、という事実に心を揺すぶられる。
自分は何もしていないのに、不思議と明日から態度が大きくなりそうだ。
「それから、すぐだったな、二人が消えたのは。」
一瞬で空想の世界から現実に引き戻される。
「ハットさんはどんなことを研究されていたんですか?」
「あまり大きな声じゃ言えないが、深層の解明だよ。世界の真実を知るんだと、息まいていた。だから、いつも深層を目指して、深く潜っていてね。そんな中、行方不明になってしまったわけだ。」
なるほど、つまり兄さんは深層の調査の最中に行方不明になったということか。
「深層につながる道は限られているのではないですか?」
「その通り。だから、私は深層につながるすべての白脈を調べたんだが......残念ながら見つからなくてね。ハットの研究室の資料も調べてから探しに行っているから、そんなにずれているわけではないと思うのだが......」
「つまり、何かしらの陰謀があるのではないか、ということですか?」
テオが思い切って突っ込む。
「......少なくとも私はそう思っているよ。あれだけ探して見つからないなど、考えられないからね。」
テオと目を合わせて頷きあう。
勝負は、ここだ。
「まず、最初に謝らせてください。実は、サントさんに秘密にしていたことがあります。僕たちは、実はシャルのことを知っているんです。」
サントが怪訝な顔でテオを見る。
「もしかしたらお気づきかもしれませんが、ニールはシャルの実の弟なんです。僕たちは、シャルの行方を知りたくて、あなたに話を伺いに来ました。」
サントは黙ってテオを見ている。
「もし良ければ、シャルの行方を探すお手伝いをしていただけないでしょうか?危険があるのは百も承知ですが、お願いできないでしょうか。」
「......もし私が、真実を知っていて、それをあえて隠している、という可能性は考えないのかな?」
「危険を侵さなければ、真実にはたどり着けません。」
テオがサントの目を力強く見返す。
「ふふふ......そうか......ニール君を見たときから、私の心は決まっていたのかもしれないね。ぜひ、協力させてほしい。私もあの件は非常に心残りだったんだ。」
僕たちは目を見合わせてから、心から深くお辞儀をした。
「ありがとうございます!」
「道理で似てるわけだ。謎が解けたよ。」
サントは楽しそうに僕の肩をポンと叩く。
その後、秘密を守る約束を交わしてから部屋を後にする。
連絡が取れないマニスに対しては、サントからも連絡を取ってくれるとのことだ。
早速ありがたさを感じる。
僕たちは跳ねながら宿へと向かった。




