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0. 光と影
この世界は、巨骸でできている。
僕たちが暮らす町の道も、家の壁も、夜を照らす灯りも、すべてが遠い彼方に横たわる巨骸から削り取られ、形を変えたものだ。
向こうに見える富裕街では、壁も道も服も、汚れたり壊れたりしないらしい。
人が通れば床が柔らかく沈み、壁はまるで生き物のように形を変えるのだと、街で誰かが話していた。
この町からは見えないどこか遠くに、そびえ、眠るように横たわる巨骸が、僕たちの暮らしを形づくっている。
見上げれば空を覆い、近づけば軋み、触れれば脈打つ。
もしそれが本当なら、いつかこの目で見てみたいと思う。
僕たちに恵みをもたらし、僕たちの身体を蝕む、神のような悪魔に。