寝言
ミカエラの家
「・・・ここが私の家だ」
「お邪魔します・・・」
ミカエラさんの家だ・・・。ミカエラさんがしばらくいた方がなんていうけど、ずっとお世話になる訳にもいかないし・・・。
それにしても。
・・・生活感、あんまりないな・・・
部屋は必要最低限の調度品で整えられており、ミカエラさんの性格がよく表されている。
「荷物は適当にその辺に置いてくれて構わない。・・・とりあえずシャワーでも浴びて体を温めてきなさい。その間にご飯を用意する」
「そんな、悪いです」
「いいからその青白い顔を何とかしてきなさい。」
ミカエラさんに言われてはたと自分の頬を触る。
・・・冷たい・・・。
「は・・・・」
「とりあえず、これ。私の着替えでよければ使ってくれ。ほら、さっさ風呂行く」
「はい・・・」
ミカエラさんに追い立てられるように浴室に行き、シャワーを浴びる。
考えるのは、先程の彼らのことと、これまでにされてきた嫌がらせのこと。
最初は簡単な容姿批判からだった。
生まれ持ったホワイトベージュの髪色に、ウルトラマリンブルーの瞳がちぐはぐだと言われたんだっけ。
その後は、学校の課題で必要なデータを書き換えられそうになったり、取られそうになったり・・・。
・・・疲れたな。
ミカエラさんにお借りした服に着替え、食卓に向かう。
見れば温かくて美味しそうなご飯が並んでいた。
「ちょうど良かった。ご飯にしよう。」
「ありがとうございます。すごく、美味しそうです」
「口に合うといいが。」
・・・おいしい・・・
スープもサラダも、メインのチキンも本当においしい。
「おいしいです。ミカエラさん、ありがとうございます。」
「良かった。ほら、もっと食べなさい。」
―――――――――――――――――――――――――
「・・・良かった・・・。」
ソファで眠る彼女を見ながら、ミカエラは独り言ちる。
退勤し、いつものようにロイやルイと帰路についていた。
そこでたまたま、仕事を終え騎衛隊本部から出ていく彼女の姿を見つけた。
自分が彼女の姿を見つけたことに気づいたのか、2人から冷やかしが飛んでくる。これまたここ最近当たり前になりつつある。
・・・明日の訓練も覚えておけよ・・・。と声に出そうとした時。
彼女の姿を見つけて後を追う2人の男の姿を認めたのだった。
ただの勘違いならそれでいい。そう思いながら彼女を追った。
自分の勘は、当たっていた。
彼女を自分の近くに引っ張り、彼女が自分の顔を見た時の顔。
驚きと不安と安心と、色んな感情がないまぜになって目が泳ぐのを見て、いてもたってもいられなくなってしまった。
それから。
本拠地に向けて手を引いている間も、本拠地にいる間も、そして家に着いてからも、気丈に振る舞うもののうっすら震えている彼女を、どうにかしなければと考えていた。
・・・今はしっかり眠れているようだ。
きっと彼女のことだから、自分がソファに寝るからベッドを使ってくれと言う提案は呑まないだろうと感じ、ソファで寝てもらったが、やはり少し窮屈ではないだろうか。
明日、色々と話すことができたら。
そう思って彼女の傍から離れようとしたその時。
「・・・ごめんなさい・・・っ。」
「・・・リィデア・・・?」
「・・・私が・・・こ・・な・・・から・・・・・・だめ・・なんだ・・・」
うなされているらしい。
彼女は夢の中でも苦しまなければならないのか。
「リィデア、大丈夫だ」
つい、彼女の手を取り、自分の両手で包むようにして温める。・・・また冷たくなっている。
「・・・ん・・・。」
落ち着いたらしい。
夢の中くらいは、あたたかなもの、健やかなものであってほしい。
「・・・私はここにいるからな・・・」
そう言って、もう一度、彼女の手をしっかりと自分の両手で包み込んだのだった。
歯が抜ける夢と、段差で足を踏み外す夢を見るのが個人的には怖いです。