アダックのスモーク
続きました。
「・・・これで聞いてた注文は終わり??」
「「そうです!」」
「おっ、じゃあこれお客さんとこにお願いね~」
「私行きます!」
「レミナちゃんお願いね~!」
「レミナちゃんありがとう~!」
今日もいつも通り慌ただしかったけど、なんとかこれまでに聞いていた注文は全部終わったみたいだ。
お客さんもだいぶ落ち着いてきたみたいだし、あとは飲み物の注文が入るくらいかな・・・。
あ、レミナちゃんがお客さんのところから帰ってきた。ターシャさんが終わった終わったと独り言ちている。
「はー今日も大変やったね、ちょっと休憩しよ、レミナちゃん、ちょっとお茶入れてくれる?」
「はーい!」
「あとリィちゃん、これリィちゃんの職場の皆さんのとこにもってって、アダックのスモーク」
「わ!これおいしいやつじゃないですか!!」
「今日作ったのよ、いつもリィちゃんがお世話になってるみたいだし、サービス」
「わ~おいしそうですね~!あ、ターシャさんお茶です」
「ありがとう~~!そうこれ端っことかならお取り置きしてあるから、ごはんの時食べていいからね~」
「「やった~」」
ターシャさん本当に、ありがたすぎる・・・!・・・っと皆さんのところに持っていかないと。
この店はよく市場に出回っている一般的なチキンとは異なり、香りに少しクセはあるもののこってりとした味が特徴で、市場にはあまり出回っていないアダックという肉の料理専門店でもある。
・・・ターシャさんの家庭料理的なアダックを使っていない料理もたくさんあるけど・・・。
普段なかなかお目にかかることのできないアダックを良心的な価格でおいしく食べられるとあってこのあたりでは有名なのも、この店が続いている理由だろう。
・・・アダックのスモーク、タレに漬け込んでからスモークしてて本当においしいんだよね・・・これが後で食べられるの?ごはんはいつもごちそうだけど、今日はもっとごちそうだなあ・・・。
「失礼します、アダックのスモークです。ターシャさんからサービスで・・・皆さんでどうぞ」
「わあ本当に!ありがとうございます!部隊長!めっちゃおいしそうですよこれ!!」
赤髪の青年が目をきらきらさせている。皆さん楽しそうに過ごせていてよかった。
「ロイ、はしゃぎすぎですよ。にしてもおいしそうですねえ」
青髪の青年が赤髪の青年を落ち着かせている。赤と青。まるでコンビみたいだ。
「はは、ありがとう。ロイもルイも良かったねえ。ほら、ミカエラも食べな」
ゼオバルドさんが2人に声を掛けつつミカエラさんにもアダックのスモークを勧めている。
・・・部下を大切にする良い部隊長さんなんだろうな・・・。
あと赤髪の方がロイさんで、青髪の方がルイさんか・・・本当にコンビみたい。
ミカエラさんは私とゼオバルドさんに軽く礼をして飲み物を飲んでいる。あんまり喋らないタイプなのか・・。・・・っとロイさんからすごい視線を感じる、なんでしょう。
「そういや学生で僕たちのところの広報部の事務なんて珍しいですよね、どうやってうちに?」
気になりますよね。うーーん・・・。
「・・・事務長のゴートンさんと私の父の地元が同じで、昔から交流があったんです。・・・それで以前実家に帰省した時、ゴートンさんが父に会いに家まで来て下さって・・・『こっちにいるならちょうど人手も足りないし来てくれないか』って言われて、そこからお世話になってます・・・。」
「あー事務はな・・・以前事務員がちょっとやらかして辞めさせられてたっけ・・・。それで君が入ったってことか・・・。」
ゼオバルドさんが納得したようにうなずいている。・・・ちょっと安心・・・。
「へえ~そうなんですね、じゃあ地元って・・・?」
・・・ロイさん・・・。
「・・・マレンディアナです・・・。」
「マレンディアナ・・・?」
「ロイ、ここからだと西の方にある海に面した地域のことですよ。かつては海と砂浜が美しくて人気の地域でしたねえ」
ルイさんがロイさんに説明している。ルイさん何でも知ってそうだな・・・。
「海と砂浜ねえ・・・そういや君の髪も綺麗な砂浜みたいにきらきらで良い色してるね、マレンディアナの子って感じだ」
「ロイ、マレンディアナのこと今知ったばかりでしょう。・・・あと簡単に女性の容姿に関する発言は控えて下さい、失礼ですよ。」
・・・確かに私の髪色はかつてのマレンディアナの砂浜のようにきれいだと母も褒めてくれたな・・・。父とまるでそっくりって。・・・・懐かしいな・・・。
「えっ!本当に!?ええごめんなさい・・・、えっと、お名前は・・・?」
「ロイ、流れるように女性に名前を聞かないでください。」
「まあまあ・・・今後も話す機会が多いだろう。名前を知っているにこしたことはない。ゴートンとも君のことについて話したいしな」
ルイさんがたしなめたのに・・・ゼオバルドさんもですか・・・。
「えっと・・・リィデアです・・・。」
「リィデアちゃん!名字は?」
ロイさん・・・。あとなんかミカエラさんからの圧がすごい。はやく厨房にもどりたい・・・。
「・・・マレイ、です。リィデア・マレイです。」
「そっかあ、リィデアちゃん、色々ごめんねえ、あとアダックのスモーク、ありがとう!」
「いえいえ!失礼します・・・。」
・・・疲れた・・・もう帰りたい・・・。
「先輩!ターシャさんがこのお菓子食べていいよって言ってました!どうぞ!」
「・・・レミナちゃんありがとう・・・いただくね。」
「掛け持ちで働くのって大変そうですね、お疲れ様です。」
「ありがとう・・・。」
レミナちゃんの優しさが染みる・・・。レミナちゃん・・・。
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リィデア・マレイ。
彼女の名前だという。
ミカエラはやはり今日ここに来て良かったと思っていた。
いつもはすぐに話しかけてくる同期2人、特にロイはうるさくてあまり関わりたくないが、今日に関しては少し感謝していた。
「ミカエラ?・・・ミカエラ~?」
「なんだ」
「ふ~ん、ミカエラにしては珍しいな。あの子が気になるの?」
「ロイ・・・訓練で吹っ飛ばしてやろうか。」
「ひ~ミカエラは本当に吹っ飛ばしてくるからな・・・。」
「・・・にしてもマレイ、といいましたか。」
「ルイ、何か気になるのか?」
「部隊長・・・いえ、そういう家もあるのだなあと思って。」
「・・・ルイ、何か知っているのか」
「やっぱりミカエラあの子が気になるんじゃん!!応援するよ~~?」
「ロイは黙れ」
「こらこら・・・お前たちはすぐ喧嘩するんだから・・・。いつまでも安心できないよほんと・・・ほら、おいしい料理を食べてお酒を飲んで、また明日からも頑張ろうじゃないか」
いつものようにゼオバルド部隊長になだめられながら、彼女の様子を伺う。彼女は仕事をしつつ、時に他の従業員や店主、そして客と談笑している。
・・・広報部でもいつも会話の中心にいるようだったしな・・・。にしても掛け持ちで働くとは・・・
などと考えているとまたロイにちょっかいをかけられてしまった。今日のロイへの感謝は全て撤回だ。
・・・にしても。
あとでルイと話さなければならないな・・・と思うミカエラであった。
アダック・・・食べたい。