受付嬢、リィ
リィちゃん頑張れ
「・・朝・・・・今何時・・・、え、もうこんな時間・・・」
いつも通りぎりぎりの時間に起床し、慌ててシャワーを浴びて服を着替える。
「時間ない・・・昨日ターシャさんにチキンもらってて良かった・・・野菜もあるし今日のお昼はこれでしのごう・・・」
とりあえずで業務に支障のない程度に髪の毛をまとめ、これまた業務に支障のない申し訳程度の化粧を施し、飲み物と今日のお昼ご飯を包んで鞄に入れる。
「忘れ物は・・・・ないってことにする。とりあえず職場にいくのが大事、いってきます。」
誰もいない家にそれとなく挨拶しながらバタバタと外に出る。
―――――――――――――――――――――――――
「おはようございます!」
「リィデアちゃんおはよう、今日もよろしくね~」
職場につくと事務員のレティさんが声を掛けてくれた。彼女は勤務当初から、たかが学生アルバイトでしかない私にも気さくに話しかけてくれる。レティさんと一緒なら今日の勤務も問題なく乗り切れそうだ。
「今日も何件か会議があるってことでお客様がお見えになるみたい、引き継ぎ書を見てお客様がお見えになったら通してほしいのと、あと今度イベントをするみたいだからもしこれに関する問い合わせで答えにくそうなものがあったら私か事務長のゴートンさんに引き継いでくれると助かるわ。あとはいつも通り窓口にやってくる皆さんの対応をお願い。」
ここは王国騎衛隊本部にある広報部である。もはや親の伝手でここでお世話になっているわけなので少々肩身がせまい。とはいえ国の機関というだけあって給料は良いんだよね・・・。
・・・まあターシャさんのところにもお世話になっているけど・・・。
ここの広報部は本部の建物に入ってすぐのところに位置し、窓口がすぐ目に付く。広報部という名前ではあるが、本部に会議やらなんやらで訪れる方々を案内したり、騎衛隊の活動について知りたい人々からの様々な問い合わせを受けたりなどなど、結構何でもやるところである。
そして騎衛隊には、王国を武力的に守るために動く騎衛部隊と、王国の治安を守る予備部隊がある。
また騎衛部隊は騎士と衛兵とにわけられ、より実力が高い方が騎士とされる。騎士にまで上がることができると、爵位を与えられたり領地を与えられたりするため、毎年入隊試験は高い倍率だという。
さっきレティさんが話していたのは、今度騎衛部隊が主催するイベントのことらしい。本部近くにある騎衛部隊の基地を一部開放し、屋台の出店や騎衛部隊に関する展示などを行うみたいだ。時間が合えば演習の様子なんかも見ることができるらしく、これが特に人気で毎年多くの人々で賑わっている。
とすると今日からしばらく窓口は忙しくなるかもしれないな・・・と覚悟をしていると、さっそく親子が窓口にやってきた。
「お姉さん、今度騎衛部隊のイベントがあるって聞いたんだけど、どんな展示があるとか演習のことについて聞いても構わないかしら」
「はい、こちらは去年のものなのですが、毎年このような展示であったり・・・演習は・・・・
去年の資料が手元に残っていて良かった。一緒にきた子どもの目がきらきらしているのを感じる。騎衛部隊、かっこいいよね、わかる。
「親切にありがとうございました。イベント、行きたいと思います。」
「きえいぶたいのひとたちってかっこいいよね、ぼくたのしみなんだ~!!!おねえさん、ばいばい!!!!」
「ありがとうございます。ぜひイベントでお待ちしております。僕もばいばい~!!」
そうして満足そうに親子は窓口を後にした。
僕、イベント本当に楽しみなんだろうな・・・良い日になりますように。
朝からあったかくて良いな・・・と思っていたら早速次の来客だ。予備部隊の方に会議の用事があるらしい。
予備部隊に繋げ、案内をお願いする。
「さすがだね、いつも助かるよ。」
「ゴートンさん、ありがとうございます。」
「卒業後もここで働いて欲しいとお願いしたいくらいだよ。・・・そういや、父上は元気かね、最近ちょっとごたごたしただのなんだの聞いたが、そこから連絡がないんだよねえ、まあいつものことだが」
「隣国との取引でひと悶着あったみたいです。まあ兄も同行しているので大丈夫だったとは聞いているので、多分大丈夫だと思います。」
「まああいつのことだし心配はあまりしていないんだが・・・そうか、君のお兄さんも同行していたのか。」
「最近は父の仕事に兄が同行することも増えて、本格的に仕事を継がせようと頑張っているみたいです。兄も張り切ってて、こう・・・力がみなぎってる感じがしてちょっと怖かったですね・・・」
「あの父にしてこの子ありって感じか。楽しそうじゃないか。」
「ゴートンさんは父と仲が良いからそう思えるんですよ、私にはあの熱量無理ですね・・・」
「はは、そうかそうか、まあリィデア君含め、マレd・・・マレイ家にはお世話になってばっかりだからね、これからもよろしく頼むよ」
「・・・いえいえ、こちらこそいつもありがとうございます。がんばります」
「リィデアちゃん、この資料なんだけど、リィデアちゃんはどう思う~??ゴートンさんも見て下さいよ~」
イベントの資料を作っていたらしいレティさんがやってきた、いつもレティさんは私が誰かと話していると混ぜてほしそうにしているので、きっとそれだろう。レティさん、人懐っこくてかわいいんだよな。年上の人に持つべき感情ではない気がするけど。それはそれとして時として助けられることもあるのでありがたい。
「君はリィデア君のことが好きすぎる、仕事をさぼるんじゃないよ」
ゴートンさんもレティさんのことをお見通しである。
「え~ゴートンさんにもちょっとお伺いしたかったんですよ~?」
と茶目っ気たっぷりなレティさん。いつも元気で良いよなあ。
「まったく・・・まあ今窓口も落ち着いてるみたいだしちょっと話そうかね」
とはいえゴートンさんも結局は優しいので3人で資料について話し合うことになった。やはりこの職場は良いな・・・。
―――――――――――――――――――――――――
勤務時間もそろそろ終盤になった頃。
「失礼、騎衛部隊のものだが、部隊長は本部にいるだろうか。」
「かしこまりました。確認します。お待ちください。・・・とお名前を・・・?」
名前を聞こうとして今一度相手を確認しようとした時、ふと違和感があったような気がして発言が途中になってしまった。
予備部隊には女性がいることもあるが、騎衛部隊は男性しかいないと聞いている。これはかつての徴兵制度があったころの名残だというが、この方は・・・・
「ミカエラだ、騎衛部隊の騎兵第一班のミカエラだと伝えてくれると助かる」
「・・・ありがとうございます。」
とりあえず騎衛部隊に連絡をとる。
「・・・まだ会議中とのことです、何か伝言があればお伝えしますが・・・」
「いや、また出直す、失礼。」
「かしこまりました。お気をつけて。」
「・・・・・・。」
ミカエラは、なんとなく、自分の予感が当たっているような気がした。
・・・ほんの一瞬だが、確実にあの受付嬢はミカエラに違和感の目を向けていた。
「その違和感を、すぐに隠せた・・・?」
ミカエラは、あの受付嬢についてひそかに調べることを決めたのだった。
ゴートンさんとリィさんのお父さんはかなり仲が良いです。二人ともあまり連絡はとらないですが・・・。今はリィがいるので二人ともリィに聞いてます。おい。