地面を蹴る
「彼氏、って・・・」
「なにも、最近彼の家に入り浸っているじゃねぇか」
「・・・知ってたんだ」
「・・・その言葉、そのまま返すよ」
「え?」
それはどういうこと・・・?
「おい、ガル!」
「いいんだジギー。・・・ところで、君に会いたいという人がいるんだが、会ってやってはくれないか?」
私に会いたい人、かぁ。
「・・・そのお願いは・・・受け入れられないです・・・ごめんなさい」
・・・自分の能力不足が、憎い。
「そうか」
そういってガルム君は一度目を伏せると、彼のその緑色の瞳が私の目をしっかりと捉える。
「だが君には来てもらうしかないんだ。マレディア辺境伯令嬢、リィデア」
「・・・!!」
即座に彼らと距離をとる。がすでにジギー君がガルム君の陰から飛び出してきている。
・・・やっぱりジギー君の方が動き出しが早いよねぇ・・・!でも、私の方が速い・・・!
「・・・やはり逃げ足が速いな」
「ガル、どうするんだよ」
「計画は変わらない。追うぞ」
「・・・ああ」
動き出した計画を止めることはできない。彼女は知っている。知ってしまった。
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「はぁ・・・はぁ・・・」
結局、ステフ君を見つけたあたりまで逃げてきてしまった。ミカエラさんに周りの大人を頼れって言われたのにな・・・。
時間も時間だ。イベントは大盛り上がりで、こんな基地の奥の方まで来るような人はそういない。
彼らが危険だということはお兄様から手紙が届いていたし、何より自分がよくわかっている。
まあ、曲がりなりにも3年間一緒だったし。
でも、彼らがしようとしていることは彼らの本心じゃない。じゃないと・・・
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『では、先週グループ分けしたグループで話し合って下さい。』
げ・・・あの2人と一緒か・・・。なんでこのグループは3人なのさ・・・皆朝イチの授業サボりすぎだよ・・・
『君さ、この課題わかんの?』
『え、うーーん、たぶんこの結果はここで使うやつで、これはこっちだと思う』
『確かにこれでそれっぽい結果がすんなりでるのか・・・』
『それっぽいって・・・まあそうだね』
『・・・勉強できるんだな』
『いやぁ・・・あそこのアインさんのおかげだよ』
『ふーん』
『そうなんだ』
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1年前の授業。すんなり一緒に・・・私がほぼやったようなもんだけど・・・取り組んではくれたんだよね。まあ結局あの授業の時以外ちょくちょく嫌がらせはあったけどさ・・・。
でもそれ以上のことは・・・以前ミカエラさん達に助けてもらった件以外ではされてこなかった。
前実家に帰った時もフィリアが心配していたっけ。
まあ、父親と母親は危険視していなかったし・・・というか、興味なさそうだし。
これは、ただ追手から逃げるとか、対処するとか、そういう問題じゃない。
「覚悟を決めないといけない、な・・・」
そうしてステフ君が出てきた物陰から立ち上がった時。
「!!」
足下にナイフが刺さる。
「・・・そうなんだ」
「そうだ」
「俺らの選択はこれだ」
ジギー君が両手にナイフを持って距離を詰めてくる。そして隙を狙ってガルム君がナイフを投げてくる。
「二対一だし!めちゃくちゃ・・・!だよっ・・・!」
複数人に襲われるって想定は何度も訓練でやったけど、これはめちゃくちゃだ・・・!
「ならおとなしく従えよな!」
「そうするわけ、・・・ないじゃない!」
片手で自分の体重を支えながら飛んできたナイフを蹴り落とし、そのまま地面を押して跳ね返りを利用しつつ後方にくるりと飛び、もう一度踏み切り、近くにあった物置の上に乗り、距離をとる。
ジギー君の攻撃を避けながら飛んでくるナイフも避けないといけない。
飛んできたナイフを取ったところでやりあってる暇がない・・・!
「なにそれ」
「・・・意味わかんない動きするな」
「・・・意味わかんないままでいいよ」
少しの助走で物置からガルム君目掛けて跳躍する。
それを見てジギー君が追いかけてくる。
「がっ!!」
「ジギー!!」
また飛んできたナイフを蹴り落とし、そのまま体を捻ってジギー君の右手にありったけの蹴りを入れ、持っていたナイフを弾き飛ばす。
・・・いまのでジギー君は右手が使えなくなったはず。
「ガル・・・大丈夫だ。やるぞ。」
「な・・・!」
やっぱり突っ込んでくるか・・・
ガロイとの特訓が役に立つって言っても、嫌な気分すぎる。
―― そうして次の攻撃を待ち構えていた時 ――
「!」
風が吹いた。・・・殺気と、人影を連れて。
待って・・・!!
咄嗟に地面を蹴り、ジギー君を突き飛ばす。
「うぁ・・・!・・・」
・・・背中が焼けるように熱くなるのを感じた。
「な・・・!」
「おい・・・!」
「リィデア!!??」
やっぱり、ミカエラさんだった。
「おいお前ら、ここまで基地を荒らしておいてわかってるんだろうな?」
「待てロイ。・・・おい予備隊、こいつらを連れていけ」
ロイさんとルイさんもいる・・・あの2人は予備隊に連れていかれたみたいだ・・・。
「リィデア!なぜ庇ったんだ・・・!」
ミカエラさんが私の肩を掴んで問う。
「ミカエラ、止血が先ですよ」
・・・ロイさんとルイさんが手当てをしてくれる。
といっても出血量的にもうちょっと意識が飛びそう・・・
「ルイ、これでは・・・」
「そうですね、治療を急がなくては」
「・・・私が運ぶ」
「では、ミカエラにお願いしましょう」
「ルイ・・・!」
ミカエラさんに横抱きにされる。・・・ミカエラさんに悪いことしちゃったな・・・。
「ミ、カエラ、さん・・・」
「しゃべるな」
「あの、ふたり、は・・・わるく、ない・・・」
「だからしゃべると・・・」
「りんご、く、のせい、だから・・・」
「なんだと?・・・おい!リィデア!!リィデア!!」
・・・フィリア、ごめんなさい・・・
うまく、できなかった―――――――――――――
ここで意識が途切れた。




