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♪Kool & The Gang「Chocolate Buttermilk」

 僕のよくプレイするアーケードレースゲームのセレクト画面ではこの音楽がかかっている。レースが始まれば「Jungle Boogie」が流れだした。

「ジャンゴオボーゲー」「ギビラッ」

 ただ筐体の近くを通っただけのカップルでさえこの音楽を聞くとみんな口ずさんでしまう。このゲームは古いものでありながらゲームセンターの客から本当に愛されていた。


“電気屋で売られている最新の洗濯機に結婚を迫ったが、ノーという返事はなかった”

 ここはそんなシニカルさを原動力に据えてある街だった。街に住む人々も当然、その原動力に当てられて、目の輝きを失っている。決して悲劇的な出来事など起きないまま、気づけば子供のころの夢を忘れている。寝るためのベッドはいつしか寝るためのスペースへと縮小を迫られ、いつしかその範囲の中だけで暮らすようになっていった袋の鼠……。

「そうだな、あまり与えすぎて調子に乗られても困る。なるべく小出しにするべきだ。」

 これはとある駆け出しCEOの寝言だ。まさにCEOになるべき男の寝言だと、そう思わないか? それに彼は何度か、起きているあいだの電話口でも同じようなことを言っていた。もはやそういうごっこ遊びだったのかもしれない。だが彼がCEOであろうとなかろうと、重要なのはCEOになるべき男だということであって、その理由付けなど本当はどうでもいいことだったんだ。どうでもいいなら初めから同意を求めるなって? 君はなるべく効率的に動くのが好きな人間らしい。まさに君こそが労働者になるべき人間だったんだな。


 とにかく僕は自動ドアから漏れ聞こえる街の声やスマホの盗聴音声ファイルなんかと戯れながら、小説の冒頭から稼働しっぱなしのレースゲームをプレイしていたわけだ。レースの結果はぶっちぎりで一位。もはや描画が間に合っていないくらい速い。背景も道も透明な空間をウィニングラン。中に入っている基盤も熱暴走を起こして、僕がプレイするようになってからできた筐体の表面の膨らみが段々と大きくなってきている。このまま爆発したら一体何色の液体が飛び出してくるんだろう。そしてその液体を飲んだら、僕の食道管のうえでレースが始まったりしないだろうか。しないよな。分かってる。しかもしたところでだ。ほんの数秒前までは最高に面白い考えだと思っていたんだけど、数秒前の僕は一体何を考えていたんだろう。こんなゲーセンさっさと帰ろう。

 ふらついたまま歩く街は霧の濃いロンドンの夜を三倍濃縮した麺つゆの上に顔を出した空気混じり氷のトップオブトップだ。右手のひらに映し出されるインターネットには「玉ねぎの中心の真実」というフェイクニュースに心躍らされた人ばかりだった。あとは肌色エロ広告。この広告はあなたのアクセス履歴に基づき選出されています、だって。うーん、これは恥ずかしい。どうりでいくら真面目ぶっても誰からも信用を得られないわけだ。家に着いてソファに座る。その一瞬で発生したシコる衝動は電流のように頭を突き抜けて出て行ったわりに外に出てからは風船のようにふわふわ昇って行った。目に止まって見えるスピードだった。僕はこうみえて立派に不全というわけだ。こうみえてと言っても僕がどうみえるのか、分からないのが小説という媒体の優れた点だと思う。だからあまり頑張って描写し過ぎないように。映画に仕立て直したときに、滑稽過ぎるかグロ過ぎる小説でありなさい。これは僕のいない師匠から言われていない教えだ。よって世界で覚えているのは僕一人だけというわけだ。室内との寒暖差で曇った窓から、ふと星がきれいな夜だった。こんなとき吐き気を催す義務がある気がしてしまうタイプの強迫性障害から生えた第3の手が、体の内部から内部へとその先の肝臓をぎゅっと掴んだ。でも吐きそうでも吐いちゃいけない強迫性障害も持ち合わせている。あんまりこの二つを戦わせてはいけない。さもないと吐きたくても吐けない、でも一応はトイレに籠ってそのときを待ち構えちゃうそんな膠着状態が、これから3時間後、泣きながらちょっとずつ吐くという我ながら可哀そうすぎる結末を連れてきてしまうから、絶対にこの二つを戦わせてはいけないのだ。分かったか強迫性障害。それより強迫性障害ってなんだ教えて肌色エロ広告。

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