善良なる悪役と偽善たる悪女
星花女子15弾の紹介小説となります
キャラ設定の補足となるものですので、そちらを先に見ていただいた方が理解が深まると思います
私がその小説に出会ったのは中学生の頃だった。
その頃の私はとにかく自分に自信がなかった。
そんな自分が嫌で嫌で仕方なく、変わりたいと思っても変われなくて。
みんなが輝いて見えるのに、自分だけ違う。
そんな私はネット小説を漁っているときに目に付いたのは、一つのある物語。
ポイントも高くないし、レビューもされてない。
きっとランキングにだって乗ったことのない作品だろう。
面白くなかったら、ブラウザバックしてしまおうと思って最初の数ページを読み進めていたのだが、どんどんと目は文字を追っていく。
面白いと素直に思った。
文章が好き。
作品の雰囲気が好き。
いや、どれもかれもが私の好みのど真ん中だった。
あぁ、素敵。
「ある悪役令嬢の後悔」のアレイシア。
たくさんと後悔と苦悩を抱えた彼女は死ぬ最後まで、首を垂れることなく前を向き続けていた。
その背中に罪を背負って、少しでも罪滅ぼしが出来るように歩み続けていた。
それが現代編に移れば、最初はガキ大将みたいだったが、どんどん人の中心にいき、多くの問題を解決して、自分がして行かないといけないことに向かい合って、歩みを進める。
そんな姿をもっと見ていたかったが、作品はエタってしまった。
感想も送っていた。
拙いけどレビューも書いてみた。
それでも作品の更新は止まり、一条怜の活躍は途切れてしまった。
だけど、私の名前も一条怜。
くしくも、アレイシアと同姓同名。
だったら、私にアレイシアの魂が宿っているのではないか。
そう考えると、自分を恥じた。
だって、こんな姿、アレイシアじゃない。
アレイシアはいつだって自信に溢れていたじゃないか。
それが私はどうだ。
自分がダサくて、そんな自分の姿が見たくなくて、自分の殻にこもって、負のスパイラルに巻き込まれて。
変わらなきゃ。
アレイシアに恥じない、彼女の魂が目覚めて私を見た時に、失望されないような姿でいないでどうするんだ。
それからの行動は、とにかく頑張った。
だって、物語のアレイシアはとにかく何でもできた。
勉強だって運動だって、人並み以上の成績を残していた。
それになるには並大抵の努力では足りない。
けど、アレイシアという大きな支えをもらった私は折れることはなかった。
だって、私はアレイシアなんだよ。
誰一人味方のいない断罪の現場。
非難の言葉と軽蔑を込められた視線を一身に受けながらも、凛として姿勢を保っていたアレイシア。
多くの罪をその背に背負って、でも前を向いて歩み続けていた彼女に比べて、私はただ前を向いて進めばいいだけだから、楽な道。
だったら、折れていられないじゃない。
高校に上がるにあたり、髪を染めてみた。
「ある悪役令嬢の後悔」の一条怜はずっと黒髪だったから、少しだけ解釈違いかもしれない。
それでも、異世界にいたアレイシアの髪色にしたかったから。
ここにいるよ、アレイシア。
貴方が異世界で頑張っていた分、私が今度は貴方の心を持って頑張るから。
そう伝えたくて、髪を金に染めた。
鏡の前でそんな様子を見ていると、部屋の扉が開けられる。
視線を向けたら、妹がいて、
「おかあさん! お姉ちゃんが不良になっちゃったー!」
「ちょっ!! 待って! 違うから!!」
妹を追って、階下に向かったが最後、お母さんからは雷が落ちた。
思ったよりも怒られて、髪色を戻せと言われたが、大喧嘩の末、何とか死守することが出来た。
星花女子学園に入ってから、私は頑張った。
中学から変わってきたつもりだけど、高校生活で本格的に変わる必要があるんだ。
だから、しっかりと勉強も頑張った。
頑張ったのだが、さすが才女たちが集まるだけある。
トップを狙っていたのに、見事に外してしまう事になってしまった。
それでも手が届く位置に着けていたのだけは幸いだろう。
それにしても、これではアレイシアになれないじゃないか。
努力が足りない。
私には特別な才能なんて何一つない。
この身一つ。
だから、努力しかない。
ずっとそうやってきたから。
苦手だった勉強も、運動も全部アレイシアになるために頑張ってきたんだから。
そのためだったら惜しくもない。
自分から知らない人に声をかけるのだって本当に苦手だった。
自分の空にこもっていたいと思っている。
だけど、それじゃあ、アレイシアになれないから。
彼女のように人と関わり、悩みを解決したり、中心に立つためにはどうしても人と積極的に関わらないといけない。
それが同級生でも上級生でも関係ない。
自信ない態度を見せてはいけない。
常に余裕のある笑みを浮かべ、自信に満ちた態度を持って。
「あなたどうしたの? 何か悩みがあるのかしら?」
今日も私はそんな人たちに関わり、一歩でもアレイシアに近付けるように前を向いて進み続ける。
φ
あたしは全てを失った。
あたしのせいじゃない。
親のせいで全てを失った。
最初に出たのは子役として、CMでのちょい役。
出演シーンも一瞬で過ぎてしまうもの。
だけど、ドラマの一話だけ、名前もない子供の役をやったあとに声がかけられて、しっかりとした名前のある役をもらい、そのドラマが共演した男性の役者さんのおかげもあったのだろう大ヒットして、あたしの名前も売れた。
嬉しかった。
あたしが有名になると両親が喜んでくれたから。
だから、あたしは頑張った。
最初の原動力は、両親のため。
だけど、次第にそれは変化していく。
新しい役をもらって、それが売れれば、また新しい名前と役をもらう。
そうやって演技を続けていくうちに、あたしは人前で演じる事が楽しくなっていった。
ドラマも大事な仕事の一つだけど、それよりももっと大きな舞台に立ちたい。
誰かを蹴落として、なんて思わない。
あたしの演技力で圧倒して、上に立ちたい。
天才子役なんて世間では言われていた。
出るドラマ、映画はいい数字を出していたみたいだし。
あたしの後に出てきた子たちもあたしを追い抜こうと必死になっていたのを知ってる。
だけど、負けてなんて上げない。
あたしの演技でボコボコにして、敵わないんだと心底思い知らして、心を折ってあげる。
人間関係やつまらない工作で上で上がる子たちもいるだろうけど、そんな子たちはそこ止まり。
比べた時に、実力差が浮き出てくる。
だから、あたしはそんなことはしない。
そして、あたしは決定的な仕事を受けた。
スポットライトを浴びる仕事。
舞台役者として、出ることが決まった。
テレビの撮影とは違って、一度動き出した舞台は止まらない。
あたしの一挙手一投足に観客たちの目が向けられる。
舞台という生き物をあたしたち全員で動かして、観客たちを魅了する。
一度浴びたスポットライトの光。
世界にあたしだけが存在するような不思議な感覚。
もっとここに立ちたい。
あたしはもっと高みに、もっと多くの人たちを魅了するんだ。
そう思っていたのに、あたしは芸能界を去ることになった。
両親のスキャンダル。
多少のことなら、我慢出来た。
けど、お金、人間関係、お酒に暴力、これほどまでに落ちぶれるのかと思うほどやってくれた。
あたしがやったわけじゃない。
やったわけじゃないのに、野次馬共は面白おかしく、いいネタだと飛びついて記事にした。
ネットやニュースでは取り上げられて、自宅にまで記者たちは押し寄せてくる。
まともに生活できなくなったのもあるし、両親が離婚したのを期に芸能界を引退して、引っ越すことにした。
あたしから両親に対しての愛情は冷めきっていた。
だって、あたしのことをいい金づるとしか思ってなかった人たちだもん。
だから、引っ越した先で親権を持った母親と生活をしていたわけだけど、悪いけど母親とはここで別れることにした。
お母さんは悪くないんだよ。
けどね、あたしはもっと醜い人たちをいっぱい見てきたんだもん。
人の機微も手に取るようにわかるし、どうしたら敵を作れるのか、あたしの演技力だったら簡単にできるんだよ。
知らなかったもんね、お母さん。
あたしのことを見ないでお金ばかり見ていた方が悪いんだよ?
そうして、母親とは涙ぐましい別れをした後は施設で生活することになった。
けど、あたしが普通にしているとどこからか嗅ぎ取ったのか分からないけど、記者の人が尋ねてくる事があった。
こういう時、子供っていい身分なんだよ。
大人は子供の味方をしてくれるから。
正義感が強い人ほど、それが顕著。
守られる弱い立場の人を守りたくなっちゃうんだろうね。
だから、守ってもらうことにした。
その後は、隠し撮りしたあたしに迫ってくる記者の動画をネットに流して、ロリコンのレッテルを張ってあげて終わり。
ネットには正義の味方ごっこしている人たちが一定の数いて、思ったよりも炎上していてびっくりした。
その人がどうなったかなんて知らない。
中学に入る頃は、オタクっぽい陰キャな子みたいに見せるようにしていた。
同級生で知っている人はいないかもしれないけど、もしかしたらその親が知っているかもしれない。
いらない噂とか立てられたくないから、擬態することにした。
演技力なら自信はある。
高校に上がる頃にはもうみんなあたしのことを根暗なことしか思ってないみたい。
星花女子学園に入学して、何の部活に入ろうか悩んでいると一つの部活で足を止めた。
演劇部。
高校と輝きを放つスポットライト。
長い間舞台から離れていたのに、あたしはまたあそこに立ちたいと思ってしまう。
スポットライトの輝きに惹かれている。
呪いのようにあたしの目を、心を奪って離してくれない。
けど、目立つわけには行かないから、そのスポットライトがあたしに向けられることはない。
気が付いたら入部していた。
何やってんだろうと自分で思う。
演劇部の部員の演じる姿は、劇団にいた子もいるため悪くはない、といった評価。
ただ、物足りない。
熱量が、貪欲さが、焦がれたようにスポットライトに手を伸ばす必死さが。
あたしは常に舞台の上にいるのに、どうしてスポットライトは照らしてくれないの。
祝福を与えてくれたスポットライト。
心を奪い、逃がしてくれない呪いのスポットライト。
舞台役者たちは役をもらって次の舞台に。
だけど、あたしの舞台はどこなの?
どこにあたしの舞台はあるの?
どこにも行けないあたしは唇を噛み、舞台袖で見ていることしか出来ないんだと思い知らされた。