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ショートショート集・2

とりあえずだよ人生は

作者: 青樹空良

 とりあえず、にこにこ笑っていればなんとかなる。

 とりあえず、人に合わせて過ごしていれば大丈夫。

 それはもう、子どもの頃からそうだったと思う。

 とりあえず。




 ◇ ◇ ◇




「ね、どこの中学校から来たの?」

「え?」


 高校生になって家から少し遠い学校を選んでしまった私の周りには、知っている顔があまりいなかった。

 でも、大丈夫。

 とりあえず、私はすぐ後ろの席の子に話しかけた。

 その子はちょっとびっくりした顔をしたけれど、すぐに仲良くなれた。

 だって、そういうものだから。

 別にめちゃくちゃ真剣に友達を探しているわけじゃない。

 気が合うとか合わないとか、二の次でいい。

 とりあえず、でいい。

 とりあえずでも、学校で独りぼっちよりずっといい。

 そんな風にとりあえず、私は世間を渡っている。




 ◇ ◇ ◇




「あ、あの!」


 就職説明会に向かっている途中で真新しそうなスーツを着た知らない男性に話しかけられた。

 そのまま行ってしまおうかと思ったが、その人があまりに切羽詰まった様子だったので、


「なんですか?」


 私は、とりあえず立ち止まってしまった。


「もしかして、行き先が同じかと思って。あの、就職説明会じゃないですか? 道がわからなくって。違っていたらごめんなさい」

「ああ」


 それで他の通行人ではなく私を選んだらしい。

 私もこの男性と同じく真新しいスーツに身を包んでいる。


「いいですよ。じゃ、とりあえず行きましょうか」


 私は言った。

 ナンパとか怪しい人ではなさそうだ。

 とりあえず行き先が同じなら、一緒に行くくらい構わない。


「やった! 助かります」


 男性は嬉しそうに笑った。

 そうして、私たちは連れ立って会場へと向かうことになった。




 ◇ ◇ ◇




「あ、ねえ。今日、高校の頃の友達が来る日じゃない?」

「そうだった。準備しなきゃ」


 夫に言われて私は慌てる。

 今も私の隣にいるこの人は就職説明会に行くときに出会った、あの男性だ。

 チャイムが鳴る。


「え、ウソ。もう来た? せっかちなんだから」

「ずっと仲いいよね」


 夫はにこにこと微笑ましそうに笑っている。

 そして、


「いらっしゃい!」


 ドアの前に立っているのは。


「久しぶりー!」


 高校に入学したその日に、私がとりあえず声を掛けたあの子だ。

 なんだか気が合って、大人になってからもちょこちょこ遊んでいる。

 そんなに続く関係になるなんて思ってもいなかったんだけど不思議なものだ。


「とりあえず、入って入って」

「おじゃましまーす」


 とりあえずって、昔はあまりいいイメージじゃなかった。

 でも、今は違う。

 とりあえずでも、ちゃんと自分で決めたことだから。

 今が幸せならきっとそれでいい。

 とりあえず、ね。

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― 新着の感想 ―
『とりあえず』をキーワードに、非常に綺麗にまとめられていてとても読みやすい作品でした。 軽快なテンポでサクサクと読み進めることができる作風で、それでいて読後には幸せな気持ちになれるような、素晴らしいお…
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