表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

2. ようこそ。転送者様。

「よし、転送者召喚の儀式を始める!」


レイ王子の宣言と同時に三十人の「生贄」が入場させられる。

視界も閉ざされ、手足も拘束された彼らは絶望の先にいるのだろう。


別の世界の人間を無理やりこちらの世界に転送させるこの儀式に、代償や犠牲が無いわけがない。

この召喚の儀式のシステムはいたって単純で、

まず、召喚したい人数分の生贄を用意する。

そうして生贄達を魔法陣の中にいれた状態で起動させれば、あっという間に転送者達が召喚されるというわけだ。


そもそもなぜ優秀な人間が集まるこのホンニ国に転送者が必要なのかについてだが、理由は一つ。

この世界の人間では魔族に歯がたたないためだ。


魔族は我々となんら変わらない容姿をしている。ただ人間より50倍ほど長い時を生き、人間より魔法適性も高く、魔力も膨大。簡単に言えば人間の上位互換のような種族であり、普通に戦って勝てる見込みがないのは分かりきっている。


魔族が優れている理由は解明されていないが、そこに対抗する手段として辿り着いた答えが転送者召喚だったのだ。


我々人間の魔法適性や魔力を構築する要因は2つで、「年齢」と「欲望や欲求」である。

魔法適性と魔力量ともに、欲望や欲求に呼応するように二十から二十五歳程度をピークに上昇を続ける。ピークを過ぎると魔力量が減少していくため、扱える魔法も限られてきてしまうのだ。


つまり二十歳前後で何かを成し遂げたいなど欲望や欲求が強いほど魔法に優れ、戦力としての価値が高くなる。そういった者はサイユと呼ばれ、防衛隊としてホンニ国に招集される。


ホンニ国に限ったことではないが、人間領はどこの国も王族が治めており、ある程度の幸せと平穏を防衛隊が確保していると伝わっているため、年々サイユが誕生しづらい環境になっていた。


とはいいつつも毎年一定数誕生するのだから、さすが人間といったところか。人間はどこまでも欲に忠実な生き物だ。


防衛隊は誉高き仕事で、英雄と讃えられる。

この世界を、今の平穏を守ってくれているのは防衛隊だ。人類の大半はそう認識しているだろうが、現実は全く異なる。


どんなに優れたサイユでも魔族には敵わない。よくて腕の一本だろう。

そもそもこちらから攻めているのだから、防衛隊もクソもない。

では防衛隊と称して招集し、なにを行なっているのか。


そう、転送者召喚の儀式の生贄になっているのだ。

さらにいえば、この世界において魔法に優れたものは欲望や欲求が強い者であり、反逆の恐れがあるとも捉えることができる。王族達も危険分子を排除できるため、招集に喜んで協力しているというのが実態だ。


この儀式は生贄にする人間の質がいいほど、成功率が上がる。

中途半端な人間を生贄に混ぜてしまうと生贄三十人に対して、転送者が二十人とかになってしまう失敗の可能性が高まるが、サイユならほぼそんなことはあり得ない。


どうせサイユでも魔族に勝てないのだからと、エサにしているのだ。


では、儀式を十人とかで行えばいいのではと思うかもしれないがここにも理由がある。


転送者の対象もある程度指定することができ、長年に渡りこの儀式を続けてきた結果「日本」という国の「教室」という空間がベストなことがわかった。


魔法陣は直径約8mの円形。この魔法陣が転送元に出現し、その範囲内の人間を生贄の数ぶん召喚する。

日本の教室という空間は同程度の大きさで、仲間意識を持った人間が三十から四十人ほどまとめられており、丸々召喚してしまえば足並みを揃えやすく、手間がかからない。

勝手に団体で行動する意識を持ってくれていて、こちらの世界にも適応しやすいうえに、比較的落ち着いている。なんなら喜んでいる人間さえいる。


さらには私たちの国が襲われている、助けてくれと情に訴えれば容易に信じてくれるため扱いやすい。


そして何よりも魔法適性や魔力が凄まじい。

条件は私たちと変わらず「年齢」と「欲望や欲求」なのだが、これ程までにレベルが違うとなると、どのような世界で、どのような日常を送っているのか非常に興味深い。


総じて、このやり方が一番効率的というわけだ。



「レイ様、いつでも始められます。」


魔法陣の中に三十人の生贄達が拘束されている景色をみるのは何度目だろうか。

見慣れること決してないこの異様な空間には、気持ち悪い緊張感が漂っている。


「やれ。」


レイ王子の言葉と共に魔法陣が起動し始める。


ポワポワと青白い光が漏れ出し、少しずつ魔法陣内を埋め尽くしていく。

生贄達は悲鳴を上げることも、怯えることもせず、ただひたすらその時待っていた。


瞬く間に魔法陣内を覆った光は、私たちまで巻き込むほどの勢いでこの部屋中を照らし輝いた。


視界がままならない状態でも微かに耳に伝ってくる明らかな動揺。

その声に導かれるように、その場に歩を進めるリズベット王女と私。

転送者指導係を任せられている私達の最初の任務は決まってこれだ。


魔法陣の中に生贄達の姿はもうない。そこには新たに三十人の男女。

召喚に成功したことを自らの目で確認した後、彼らの前で片膝をつきリズベット様と声を合わせる。

お願いの形をした命令。世界一汚い魔法。


「ようこそ。転送者様。どうかこの世界をお助けください。」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ