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遠神爽香の好きな人②

 ……って、別にそれで真澄くんのことを好きになったわけじゃないんですけどね!


 確かに過剰な親切を受けて好感を抱いたのは事実だけど、それはあくまで良い人に対する好感。恋愛的な意味での好意とは程遠い。

 大体優しくされてコロッと落ちちゃうような安い女なら、通学電車で席を譲られただけでフォーリンラブですよ。


 私の気持ちに変化が生じたのは、森峰高校入学式の日。


「あれって……」


 会場である講堂へ向かう道中、私は彼を見かけた。


 良かった。彼も森峰高校に合格していたんだ。 

 あの日彼が試験に間に合っていたことへの安堵とまた会えたことへの歓喜から、思わず口元が綻ぶ。


「ちょっとごめんなさい。通して下さい」


 人混みをかき分けながら、私は彼に近づいていく。

 なんて声をかけるのかは、もう決まっていた。


「入試の時はありがとうございました。あなたのお陰で、私はこうして森峰高校に入学することが出来ました。これから三年間、仲良くして下さいね。よろしくお願いします」。彼と再会した時の為事前に用意していた台本を、小声で何度も復唱する。


 挨拶をした後は、今度こそ名前を聞こう。クラスとかどこに住んでいるのかとか気になっている部活とか、共有したいことは山程ある。

 彼のことを知りたい。私のことを知ってもらいたい。私は彼と、友達になりたい。


「あのっ」


 今の私と彼の間には、扉のような隔たりはない。私の声は、ちゃんと彼に届いた。


「お久しぶりです。入試の時は、ありが――」

「悪いけど、どこかで会ったことあったか?」


 ……………………。

 用意していた台本が抜け落ち、頭の中が真っ白になる。


「どこかで会ったことあったか?」ですって? 入試の時思いっきり会っているんですけど! なんなら会話もしているんですけど!


 続け様に彼が「はじめまして」などと言うものだから、こちとら怒髪衝天。好感度だだ下がりだよこの野郎。


 私にとっては特別だった出会いも、彼からしたらありふれた日常に過ぎない。自己中心的かもしれないけど、そのことが心底悔しくて。

 私がこんなにも感謝して、再会を心待ちにしていたというのに、どうして覚えていないんだよ!


 彼との再会を喜んだ。忘れられていることを悲しんだ。私を忘れた彼に憤りを覚えた。

 だから入学式の日以降、いつもどこかで彼を目で追っていて。そしたら――どうしてだろう? いつのまにか真澄くんのことを、好きになっていた。


 こんなにも一人の男の子のことばかり考えているなんて、恋以外の何ものでもないじゃないか。


 二年生に進級して、また同じクラスになり、隣の席になり。その上自宅まで隣同士になった。


 なんたる偶然! いいや、これは偶然じゃなくて運命だ。


 そう思い始めたら、この恋心はもう止まらなくなって。ここ最近は毎日のように隣の席から好き好きビームを送っている。


 ほんの少しでも良い。私の気持ちに気が付いて、私のことを見てくれやしないだろうか。

 しかしそんな私のアピールも虚しく終わり、真澄くんはこれっぽっちも私の気持ちに気が付かない。鈍感にも程がある。


 それどころか、あの男ときたら別の男を紹介してきやがった。日高くんと付き合えるように全面的に協力するとか言ってきやがった。


 はあ? ふざけんな。お前の目は節穴かっての。ムカついて、折角作ったケーキを顔面に投げつけてやりたくなった。


 真澄くんの言葉が信じられなくて、彼の言葉を信じたくなくて、「本当ですか?」と尋ねると、「大船に乗ったつもりで任せとけ」って。

 そんな船、今すぐにでも沈没してしまえ。


 真澄くんは主人公の友人Aとして、私と日高くんをくっつけるつもりだ。

 そんなこと、させてたまるか。

 あんたがラブコメの神様に逆らうつもりなら、私は日夜ラブコメの神様に祈り続けてやる。真澄くんと付き合えますように、と。だって――


 私は他の誰でもない、真澄くんとラブコメがしたいのだから。

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