琴石さん自重して! ~陰キャでなんの取り柄もない俺が、クラス1の美少女に溺愛されています~
突然ですが、俺は今、隣の席の女の子に恋をされています。
名前は琴石 美子。
学年1の美人で、頭もよく、運動もできる。白みがかった綺麗な髪に、少し幼さを感じられる所が、全校生徒から注目の的で、週に3回は告られるらしい。
そんな彼女に、何故か俺は好かれている。
なんだそりゃ。
普通の人なら自意識過剰すぎだろって思うと思う。
なんなら俺も、自分が自意識過剰である事を願いたい。
ちなみに俺は勉強できないし、顔面偏差値はかなり低い。オマケに運動もできない。
しかしだが、琴石さんが俺の事が好きなのは、本人も言いまくっているため周知の事実。
とにかく誰か助けて欲しい。
俺はただ平凡に学園生活を終えたいだけなのだ。
「野村くん! 一緒にお弁当食べよー!」
ほぼ毎日、昼休みになると彼女は俺の所へやって来て弁当に誘う。
「他の人と食わなくていいのか?」
「野村くんがいいんだよ。」
俺はできるだけ彼女と接点を持ちたくないので、いつも1度遠ざけようとするが、彼女は、自分が好意を持っている事を匂わせて無理やり俺と食べようとする。
最初はかなり拒否してたんだけど、毎日来られるとさすがに面倒くさくなって、もう諦めた。
当たりを見渡すと、みんな俺を見る。
とくに琴石さんを好きな男や、俺と同じような陰キャからの嫉妬の目が怖い。
なんだその目は? こっちは欲しくもない彼女の好意に苦労しているというのに...!
「へぇ、野村くん、今日はハンバーグなんだ。」
「まぁハンバーグは好きだからな。」
俺が弁当を開けると、彼女は目をきらきらさせて中身を観察してくる。
意識しているのか分からないが、肩が少し当たるくらいまで距離を詰められ、流石に俺も緊張した。
いや、近い近い。まぁ、いつもの事なんだけど!
小さな息でも届きそうなくらいに距離を詰めてくる琴石さんに、俺はもう諦めの感情を抱いていた。
彼女が学校一の美人であることもあり、とても気まずくなる。
「へぇ、そう、ハンバーグ好きなんだ...」
不意に、彼女は何かに納得した様子で元の体勢に戻り、自分の弁当を開ける。
え? 何? 俺の食の好みなんて知って何する気?
弁当でも作ってくれるのかなぁ? 別にいらんけど。
ていうか、なんか今の行動で周りからの嫉妬の目線が、倍増した気がする。
隣を見れば、俺の悩み事なんて知ったこっちゃねぇとでも言うように、琴石さんは、「いただきます!」とご飯を食べ始めていた。
なんてマイペースな...
俺は高校の昼休みで『いただきます』なんて、恥ずかしくて言えないので、黙って弁当を開けて、一緒に食べ始めた。
琴石さんの弁当を見ると、中には少量の肉と、野菜、卵焼きが入っている。
俺の弁当と比べると、3分の2くらいの大きさなので、それで足りるのか?と疑問に思ってしまうが、前に本人に聞いた時は、少食だからと言っていたので、きっと足りるのだろう。
太らないように気を使ってたりするのかな?と思うことはあるが、デリカシーにかけると思うので、そこはあえて言及しない。
「あっ、そういえば、次の時間英単語の小テストだったな。めんどくさっ。」
俺がそう話を振ると、彼女はジト目でこちらを見つめる。
なんだ?俺の口に米粒でも着いているのか?と黙り込んでいると、琴石さんは呆れた声で言った。
「野村くん、勉強した?」
「いやしてない。」
彼女がまるでお母さんのようなことを言うので、俺は即答した。
彼女は呆れ声を加速させていく。
「はぁぁ? もういつもじゃん。また再テスト受けるつもりなの?」
「うん。巷では再テストマスターと呼ばれているからな!何回だって受けてやるぜ。」
「その根性はすごいと思うけど、普通に勉強すれば?」
琴石さんのド正論に俺は何も言えなくなった。
まぁ、何を言われてもやる気はないけど。
あえて言っておくが、俺は勉強をやりたくない。
強いて言うなら、部活も、運動も、学校行事も、何事においてもやりたくない。というかしようとも思わない。
親の圧と、元々地頭が良かったのもあって、かなりレベルの高い高校には入学できたが、それからの成績は
最悪。
ほとんど勉強していないのもあってクラスでは下から三番目であった。
まぁ補足しておくと、赤点だけはないのだがそれでもいつも危なっかしい点ばかりとっている。
本当に最低限だけやれる事やってあとはのんびり遊ぶ、それが俺のスタイルだ。
「勉強したら負けだと思ってる。」
俺が口を開けば、彼女の呆れは更に超加速する。
「野村くんって、普段あんなに優しくてかっこいいのに、ダメな時は本当にダメだよね。」
ビクッ
俺は背筋に鳥肌が立った。
彼女の冷たい目が原因ではない。周りの男子からの視線が冷たく、怒りに満ちているのが原因だ。
学年一の美人に、優しくてかっこいいなんて褒められた事のある人はそうそういない。てかいない
そもそも女子にかっこいいなんて言われるのは、極わずかな人間だけで、俺みたいな影の薄いキャラがそういったことを言われるなんて、普通ありえない。別にかっこよくもないし。
そんな俺が琴石さんに褒められているのは、周囲の人から見てもあまりいい話じゃないのだろう。
なんであいつなんかが...
陰キャのくせに...
そう言いたげな視線がビシバシ伝わってきて、正直辛い。
目の前の琴石さんはというと、何も気づいていないのか、じっと俺を見つめている。
お前なぁ...
頼むから自重しろよ! 俺がこの教室に居づらくなるんだよ...!
「ねぇ野山くん。」
「なんだよ。」
「なんでもない。」
「本当になんだよ。」
琴石さんの表情は気付けば緩やかになり、少し頬を赤らめていた。
しばらくすれば、弁当は空になった。
琴石さんはわざわざ手を合わせて『ご馳走様』と礼儀正しくする。
普段は明るくて所々幼ささえも感じられるのに、たまにどこかのお嬢様かってツッコミたくなるくらい清楚になる。
彼女が人気の理由の一つだ。
「そういえば琴石さんって弁当自分で作ってるのか?」
ふと気になったので、理由もないが、聞いてみると、琴石さんは不気味に、にゃーっと笑う。
「何? 私に弁当作って欲しいの?」
「別にそんなことは言ってない。」
「照れちゃってぇ。野村くんにならいくらでも作ってあげるのに〜。」
ピキン!
教室の空気が、北極海かってくらい冷たくなる。
周りを見渡せば、男子からの嫉妬の目線と、女子からの暖かい目線が同時に向けられている。
なんだお前ら、またかよ。琴石さんに弁当作って欲しいのか?
てか気まずい!! 空気冷たい!! 重い!!
やめろー、そんなめで俺を見るなぁ!!
「俺にならってどういうこと?」
とりあえず聞き返す。
まぁ、どういうことかは流石にわかるが、ここはあえて鈍感系主人公を演じよう。
じゃないと反応に困る。
「さぁどういうことでしょう?」
琴石さんは、まるで小悪魔のようにニヤニヤ歯をむき出して笑った。
いや、可愛いなぁおい。
その少しいたずらっぽい笑顔は俺の性癖の奥底に突き刺さった。こんな顔をされて平然としていられる人は少ないだろう。
ただでさえ美女だと言うのに、ギラギラと青みがかった髪が眩しく、目が焼け死にそうだ。
いつも通りの会話なのに、あまりにも琴石さんがアタックしてくるので、非常に居心地が悪い。
なんか最近どんどん当たりが強くなっていってる気がするし。
とりあえず、俺は彼女から目を逸らした。
心無しか、少し顔が熱い気がする。
そんなことを考えていると、琴石さんのニヤニヤは、どんどん強くなっていった。
「恥ずかしがって顔真っ赤になってる所、可愛い。」
ド直球に言うな、お前。
普通に恥ずかしい。
「お前、男に可愛いは褒め言葉じゃないからな?」
「でも可愛い。」
「いや、普通に俺が恥ずかしいんだけど。」
いつの間にか、人差し指1つ分くらいまで距離を詰められていた俺は、それに気づいた時、さらに頬を赤くする羽目になった。
『キーンコーンカーンコーン』
予鈴がなると、彼女は「もう昼休み終わりかぁ」と悲しげに自分席へと戻る。
一方俺は、予鈴がなった事で重い空気感から解放されたので予鈴に感謝していた。
「ナマステ〜」
あっ、これイタリア語でごめんなさいって意味だっけ。
ありがとう関係ないやん。
ていうか、琴石さん...本当に自重してくれないかなぁ。
色んな意味で。