その1 「サンドイッチが気になる件」に関して
大事なことを先に述べておく。
作品の単語が引っ掛かるのは全て、読者の経験や知識によるものである。
もしそれが人を貶めるもので無いのなら、作品が間違っているわけでも、読者が間違っているわけでもない。
先月のこと(2021年2月)気になるエッセイがあり、読ませていただいたところ、非常に考えさせられる内容だった。
新大宮氏の「突然、【異世界サンドイッチ許せねぇ教】の開祖になってしまった件」である。
異世界小説に使われるにあたり、引っ掛かりを覚える単語があるとのこと。
事の発端や詳細については氏のエッセイに書いてあるので、そちらを読んでいただきたい。
私も「サンドイッチ」他、気になる単語や表現はいくつかあるが、新大宮氏と同じく読み流している。
しかし、こういった違和感を「何故なのか」ときちんと考えたことがなかった。
疑問は流せば忘れる。
言葉にしなければ日常のルーチンワークの中に埋もれて風化するだけだ。
で、最初に書いた文に戻るわけなんだが、それでも気になることを気になる、と言うのは読者の自由である。
少なくとも、こういったことは作品を否定することにならない、と思いたいンだけど「作品に悪い影響が出た!」等の事例を私が知らないだけかも知れない。
この件はそれに該当しないと信じたい。
問題をサンドウィッチのことに戻そう。
サンドウィッチとはカードで遊ぶのが大好きな第4代サンドウィッチ伯爵 ジョン・モンタギュー閣下がカード遊戯を中断すること無く、食事を取る為に発案したとされるパンに具材を挟んで食べる料理、とされている。
この単語自体は発案者個人を強く想起させる為、異世界小説中に登場すると「引っ掛かる」読者が出るわけである。
異世界に居ないはずの人物が作ったことになっている物がナゼあるのかって奴である。
今回はここで止まらず、よくよく調べてみたところ、割とデリケートな問題かもしれないぞ!
と思い知らされることになった。
「サンドイッチの何がデリケートなのか」
という話であるけれど、ググってみたところ、一般に実話として流布している内容は実際には証拠も無く(将来発見される可能性だけならある)第4代サンドウィッチ伯爵 ジョン・モンタギュー氏は当時のマスコミに揶揄されただけで、伯爵自身がサンドイッチを発明したわけでも推奨したわけでもない、ということなのだ!
第4代サンドウィッチ伯爵 ジョン・モンタギュー氏は著名な政治家であり、イギリスのマスコミにとっていじりたい人物であったと思われる。
ここに問題がある。捏造エピソードを事実であるように紹介する書籍が多く出版され、それに触れてしまった人物を多く出してしまった。
その知識が残ることが、ある種の「引っ掛かり」を発生させる原因になってしまっているのは間違いない。
我々日本人はあまり考えないことを書く。
第4代サンドウィッチ伯爵 ジョン・モンタギュー氏はもちろん貴族である。したがって、このような事で有名になるのは、不名誉であるのでは無いか?
かの御仁は国務大臣であって、当時の有名政治家としてそれなりの業績も残している。
であるにも関わらず「仕事で忙しいはずの人が、食事の手間も惜しんでカード賭博に興じている」みたいに書かれているわけだ。
遠回しに「仕事サボってますよね」と言われて気分の良い人間は居ないと思う。
私の勝手な想像だが、この「肉を挟んだパン」の名称は人物では無く、地名から来ている気がする。
つまりジョン・モンタギュー氏のゴシップを書くためにサンドウィッチは引き合いに出されただけではないだろうか。
彼の領地であるケント州サンドウィッチの名前で呼ばれる料理はゴシップの内容に対して都合が良かっただけなのだろう。
そういった事を考えてしまうと、今まで自分の中にあった「引っかかり」は捏造記事の拡散を無自覚に行って、悪びれもしない証拠そのものではないのか?
過去の人の名誉を毀損することになりはしないだろうか?
触発されて調べてみた結果、気がつけば私は壁のすぐそばまで追い詰められていた。
新しい知識に多いに狼狽えた私であるが、ここは考え方を変えれば良いのだ!
てんこ盛りの異世界設定大好き、の自分であるが、覚えて無い単語が頻出すると途端に読めなくなる。
歳の所為である。
ルビが振ってあったり、地の文で説明があるとありがたいが、それを作家先生に要求することはもちろん出来ない。
他の読者諸氏には既にご理解いただけていることだが、読みやすさを求めると、一般名詞については可能な限り使用していただくのが良い。
つまり「サンドウィッチ」は一般名詞である。
パンやパスタ、ベーコンなどと同じだ。
サンドウィッチというのはつまり地名であって特定個人とは「あまり関係無い」。
関連付ける証拠が「今のところ無い」のだ。おそらくこの先も出てこない。
私個人の悩みとしては解決した。そういうことにしておきたい。膝の痛みが一部無くなった。
そんな気がした。
大事なことなのでもう一回述べておく。
作品の単語が引っ掛かるのは全て、読者の経験や知識によるものである。
もしそれが人を貶めるもので無いのなら、作品が間違っているわけでも、読者が間違っているわけでもない。