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殺しすぎたふたり  作者: 猫村あきら
3/31

3 依頼主

 朝、重い頭を抱えて依頼主を出迎えた。


 ワインなんて見たくもない俺の前には、ワインレッドの靴を履いた銀髪の女がいる。

 美しい銀髪は肩まで伸ばされ、白を基調とした可愛らしいデザインのワンピースを着ている。

 なかなかに目立つ風貌で、リアラに負けず劣らずの美女だ。

 だがタイプはまったく違う。どちらかと言えば『かわいい』に近い。年もまだ十代半ばだろう。

 意思の強そうな目をしている。人の上に立つような人間だと感じさせた。

 立ち振る舞い、目立つことを隠そうともしない服装。貴族だろう。


 女の横には屈強な男が立っている。スピードもパワーもありそうな身体つきだ。

 なかなかの手練れだろう。こいつを殺すのは苦労しそうだ。


「さて、お嬢さん。昨日受けた依頼だが、無事に完遂した」

「わかった。成功報酬を払おう」


 女は特に驚くそぶりもなく、当然のように答えた。

 依頼内容は、山賊が籠城する砦に男女二人で赴いて投降勧告状を届ける。期間はたった一日だ。

 怪我もなく無事に帰って来た俺たちに驚かない。


「まあ、待て。報酬の前に報告がある」

「なんだ?」

「山賊へ投降勧告状は届けたが、もはや意味をなくしてしまった。山賊は全滅したからだ」


 女は唖然とした。

 そう、その表情が見たかったのだ。

 『依頼を果たして当然だ』という顔をする依頼主を出し抜いてやる喜びは格別だ。


 横を見ると、酒が抜けたせいかリアラは無表情だった。

 これはこれで悪くないが笑うところも見たかった。酒を飲ませておけばよかったかな。


「近隣の賊が集まって百はいたはずだが……」


 女は表情を取り繕ってそう言った。


「いや、もっといたな。ついでに砦を破壊してきたが良かったか?」

「……構わんよ」


 ぐっと息を呑むのがわかった。壊してよかったのか壊してはいけなかったのか。果たしてどちらか。


「そうか、構わないなら良かったよ。山賊を討伐した報酬ももらえると思っていいのかな?」

「もちろん、追加報酬も支払おう。しかし、なるほど。砦まで壊すとは……破壊神の名は伊達ではないという事か」


 やはり、俺の素性を知っての依頼だった。

 何も知らずにあんな依頼を何でも屋に出したのなら完全にイカれている。

 俺が街に入った時点から諜報部を付けていたのだろう。俺の後をつけてくる気配はたくさんあったからどれかは分からんが。


 ああ、そうだ。大事な報告があった。


「ついでに墓も建ててきてやったぞ」


 俺がそう付け足すとリアラがフッと軽く息を吐いた。

 ああ、笑ったんだな。こういうのが好みか。覚えておこう。


「墓?」

「ああ、人数分。一人ひとつ墓を建ててきた。良い墓だよ。死体が吊るされてるのが玉に傷だが」


 依頼主は『何を言っているんだ』という顔をしている。

 冗談だとでも思っているのだろう。俺だって冗談みたいな話だと思っている。


「で、お嬢さんの狙いはなんだ?」


 探り合っても意味はないのだ。直接聞かねば交渉もできない。


「そうだな……まずは自己紹介だ。昨日はこの『大都市ガロンを有するトスカート領主の使い』と名乗ったが、私が領主本人、セレナ・ルビーム・フロウディアだ」


 貴族だとは思っていたが予想以上の大物だった。


「俺が誰だかわかっていて、よく領主自ら来れたな」

「来ざるを得なかった。破壊神がくびおとしと組んだと聞いてはな」


 セレナはリアラをちらりと見る。


「なかなか優秀な諜報部員をお持ちのようだ」


 俺たちが何でも屋を開業して二時間で領主自らが依頼に出向いたのだ。相当早い。

 おそらく俺たちが酒場で飲み始めたところから諜報部員はてんてこ舞いだったはずだ。

 自分で言うのも何だが、俺たち二人、どちらも街に入るだけでそれなりの事件だろう。


「君らほどの実力者だ。領主自ら出向くのが礼儀だろう」

「殊勝なことだ」


 護衛の男が苛立つそぶりを見せる。忠誠心は高そうだ。


「さて、改めて聞こう。狙いはなんだ? 有名人を見に来ただけではないだろう?」

「率直に聞こう。貴方がたの目的を知りたい。この街で何をしようとしている?」


 俺とリアラは顔を見合わせる。そして同時に答えた。


「ないな」

「ない」


 ああ、これでは回答になっていなかったか。


「強いて挙げれば退屈凌ぎだ」

「退屈……か。暇つぶしに命を取られては我々としてはたまらん。何をするつもりかだけでも聞かせてもらいたい」

「なぜ話さねばならん」


 リアラはセレナに鋭い視線を投げつける。


「くびおとし殿。これはお願いであって、命令ではない。聞き方が悪かったようだな。すまない」


 セレナは素直に謝るが、リアラはこれ以上話す気はないようで目を瞑って口を閉ざした。

 代わりに俺が会話を続ける。


「いや、構わないさ。別にこの街で誰かを殺したり、何かを滅ぼしたりしたいわけじゃない。そこは安心してくれ。ただ今までやらなかったような仕事をしてみたいだけだ。昨日みたいな仕事はしばらく遠慮したいね」


 殺したのは俺たちの勝手な判断だがな。

 殺す仕事よりは違う何かをしたい、というのは本音だ。手っ取り早く殺しちまう癖をどうにかするべきかもしれない。

 俺の言葉にリアラは閉ざしていた目を開く。


「……私も同意見だ。そうだな。殺すような仕事よりは活かしたり育てたりする仕事をしてみたい」


 なるほど、活かしたり育てたり、か。

 セレナは目を見開いている。本日、二度目の面白い顔だ。

 本当に意外だったのだろう。腹芸もできずに貴族が務まるのか。


「信用できないんなら護衛を一人監視として置いていってもいい。お嬢さんの後ろの男は汗臭そうだからできれば他のやつをお願いしたいが。入り口の向こうにいる奴はどうだ?」


 汗臭そうな男は苛立ちを隠そうともせず俺を睨みつける。セレナはそれを制して話した。


「すまないな。隠すような真似をして失礼だったか。中に入れよう」


 セレナが手を叩くと、扉を開いて女が入ってきた。 


「あ、あのぉ~。何でしょうか……?」


 普通の女だった。いや、胸は大きめかな。引き締まった腰にすらりと伸びた長い足。スタイルは良いな。

 顔は平均的でどこにでもいそうな女だ。すれ違っても記憶には残らないだろう。

 しかし、注意してみればわかる。そのように振舞っているのだ。誰の印象にも残らないように。

 化粧の仕方によっては美女にもブスにもなりそうだ。

 諜報部の者だろうか。汗臭そうな男とは違う方向で腕が立ちそうだ。


「紹介しよう。ここに立っている男がグラッド、そこの女がソフィだ。今はガロンの諜報部も離れた場所から見ているが、私がこの場に連れてきたのはこの二人だけだ」

「よろしく、グラッド。ソフィ」


 にこやかに挨拶をしたのだがグラッドは返事もしなかった。いつの間にか怒らせてしまったようだ。

 ソフィは小さく悲鳴を上げている。失礼な。


「そうだな、その二人のどちらかをうちの従業員として雇おう。それなりに腕もたちそうだ。非常時には俺たちの足止めもできるだろう」

「貴殿らを相手に足止めをしろと?」


 セレナは小さく笑う。そして二人の護衛に声をかけた。


「できるか? グラッド、ソフィ」

「お望みならば命に代えても」

「えぇぇ……あたしにはちょっと難しいかもです」

「俺の好みはソフィだな。ちょっとしたことで殺されそうだからグラッドは嫌だ」


 グラッドに睨まれた。だから嫌なんだよ。この調子じゃあ食事の時にナイフを握っただけで殺されそうだ。

 『命に代えてもそのナイフは使わせん。ガロンは俺が守る』とかな。肉を食いたいだけだっての。


「いいだろう。どちらかを監視として置かせてもらう。正直に言えば助かる。部下をひとり派遣するだけで解決するのだからな。君らを殺すなら、この町を引き換えにするぐらいの覚悟は必要そうだ。本当に何でも屋をやると言うのなら、しばらく監視させてもらう」

「ああ、そうしてくれ」


 好きにすればいい。殺すのに飽きたのは間違いないのだから。


「そうだ。機会があれば私からもいくつか依頼をしようか。その中で、信用できるか見定めさせてもらう」

「くだらない依頼を歓迎するぞ」


 面白いことをしたいのだ。


「はは。考えておこう。あとは……破壊や殺しについてだが、私の領地運営の邪魔にならない程度にとどめてくれ」

「別にこれまでも好きでやっていたわけじゃない。仕事だからやっていただけだ。積極的に殺す気も滅ぼす気もない」

「私もだ。そうだな、花を育ててみるか」

「事務所の脇に花壇でも作るか?」

「いいアイデアだ。後で買い物に行こう」


 セレナが咳払いをする。


「失礼、話が逸れていたな」

「後日……そうだな、ソフィ。ソフィにお願いしよう。彼女を監視役および従業員としてこちらに正式に派遣する」

「えぇぇ」


 ソフィは絶望したような顔をしていた。


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