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殺しすぎたふたり  作者: 猫村あきら
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2 何でも屋の夜

 地形が変わっていた。砦を中心に広場――いや、墓場が出来ている。見渡す限りの墓標と、吊るされた屍。

 破壊の魔法で地形が変わるのはいつものことだ。ただ、いつもと違うのは自分たちにとって都合良く地形が変わっていることだ。

 非常に歩きやすい、整えられた地面になっていた。

 砦まで続いていた道もそのままだ。

 しかし、それよりもおかしなことがある。


「さて、この墓標はなんだろうな」


 聞いてみたもののリアラも答えは持っていないだろうことは予想できていた。


「魔法で墓が建つなんて聞いたことがないな」

「まったくだ。ご丁寧に死体一つにつき墓一つときている」

「親切な魔法だな。殺して、墓まで建てるとは」


 そう『殺して』だ。俺たちが殺した奴の墓はもちろん、殺してない奴まで死体になって墓に吊るされていた。


「念のため確認するが、創造の魔法はこんなに都合良く墓や死体を整頓してくれる魔法なのか?」

「ないな。私にとって都合良く機能することは稀だ。ましてや整頓なんてあり得ない」


 整った良い墓地だ。墓標も石でできているようで頑丈に見える。欠点を挙げるとすれば墓標に死体が吊るされていて見苦しい点かな。


「ともかく、戻るか。依頼主から報酬を頂こう」

「そうだな。追加報酬もな」

「わかってるさ」


 依頼主とは事務所で待ち合わせをしている。明日の朝には訪ねてくる事になっていた。


 ◇


 事務所がある街ガロンに戻った頃にはもう夜だった。

 昨日から寝ずに酒を飲んで、殺して、歩いた。今日は早めに眠ろう。


「ダイスは家に帰るのか?」

「いや、もともと家は持っていない。そうだな、せっかくでかい一戸建ての事務所を買ったんだし……事務所に住むかな」

「私もそうする」

「一緒に住むことになるが?」

「構わないが性的な期待はするなよ。私はそういったものは不得手だ」

「そうですか」

「私は宿の荷物を取ってくる。事務所で待っていろ」

「わかったよ」

「勝手に寝るなよ。引越しパーティーだからな」

「……おう」


 リアラと別れ、一人で通りを歩く。事務所は大通りから一本入った路地に面している。

 静かだが、そこそこ人通りがあるため、事務所兼自宅には良い立地だ。

 立地だけではなく建物も良い。古いが大きめで趣がある。建物は丸ごと購入済みだ。


 鍵を開け中に入る。こじんまりとした玄関だ。正面には扉が二つに二階への階段。扉の一つはリビングへ、もう一つは客間へと続いている。

 リビングへ入ると古ぼけたダイニングテーブルと椅子が四脚、そして食器棚があった。食器棚の奥にはキッチンがある。

 ダイニングテーブルだけでは部屋はがらんとしている。

 ソファやローテーブルを買ってもいいかもしれない。


 椅子ではなく床に座り、壁に寄りかかる。

 昨日の夜まで全く予定していなかった仕事と家と仲間。突然の変化。そんなのはよくある事だ。これまでの人生でも何度かあった。戦う理由も、場所も、仲間もよく変わった。昨日の敵は今日の友。逆もまた然りだ。昨日の仲間を殺したこともある。

 さて、今度はどうなるやら。できればあの恐ろしい美女とは戦いたくないが……。

 事務所で一人うつらうつらとしているとドアが勢いよく開いた。


「ダイス。起きているな? 引越しパーティーだ!」

「……ああ」


 元気に声を張り上げた彼女の手には大量の酒があった。

 本当に酒が好きなのだろう。もしかしたら来週にはここは酒場になっているかもしれない。

 これはしばらく退屈することはなさそうだ。


「ダイス、眠そうだな。ひとつ提案がある。ワインを飲むといい。ワインはジュースみたいなものだから酔うことも無いだろう」


 リアラは悪魔のような笑みを浮かべワインばかり飲ませてきた。

 山賊の砦で俺がワインを侮辱したことを根に持っているようだ。

 二人で飲み続け、これまでの仕事の馬鹿話をした。

 リアラは最後にはダイニングの床でつぶれた。俺に抱き着いた状態のまま。

 俺はいったいどうしたら良いのだろう。眠れない。色々な意味でベッドが遠い。


 夜は長かった。ただ眠る美女を見つめ、その体の感触を味わいながら悶々と朝を迎えることになった。


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