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殺しすぎたふたり  作者: 猫村あきら
18/31

18 冒険者退治

「おお! これがドラゴンのブレス……!」


 エマは拳を握りしめ目前の光景に感動している。

 スカーヴェント山の中腹にある広場にエルダードラゴンはいた。

 広場には木々がまばらに生えているが、ほぼ草原と言える。


 俺たちは麓から緩やかな斜面を登ってきた。

 なお、依頼元であるスーガル村には寄っていない。村に寄ると少し遠回りになるルートだったためだ。冒険者に追いつくことを優先した。

 広場の奥は急な崖になっており、山頂へと続いている。

 崖には洞窟が見える。たぶん、あそこがエルダードラゴンの寝ぐらだろう。頻繁に出入りしているのか、入り口付近は草が生えていない。


 そして、その広場でエルダードラゴンは火炎のブレスを吐いていた。

 ブレスを受けているのは俺たちではない。おそらく冒険者だ。

 少し離れたところから見えたのだが、壮観だった。

 炎は周囲の岩石をバターのように溶かし、吹き荒れる風は巨木をただの草花であるかのようになぎ倒していた。

 しかし、受けている奴らは感動するどころではないだろう。数人で集まってブレスに耐えている。

 おそらく何らかの魔法で防御を高めているのだろう。何も対策していなければ全員消し炭だ。


 エルダードラゴンはかなりの巨体だった。二階建ての屋敷ぐらいはある。

 身体は赤黒い鱗で覆われており鋭い牙と爪を有している。

 その眼には、睨むだけで弱い者の意識を刈り取りそうなほどの迫力があった。

 ドラゴンは歳を経るほど強力になる。エルダードラゴンとは即ち竜の中でも強力な者である証拠だ。


「始まっていたか。あの六人が《鉄壁のアッシュガルド》かな?」


 依頼を受けてすぐさま出発したのだが、すでに戦闘は始まっていた。

 俺たちはかなり出遅れていたが、追いつけると踏んでいた。思っていたよりも彼らは優秀だったようだ。


 冒険者の目的はエルダードラゴンの討伐だ。それなりに準備もあるだろう。対してこちらは会って説得するだけ。非常に身軽だ。

 《鉄壁のアッシュガルド》は六人組のようだ。男が四人に女が二人。

 前衛に巨大な盾を構えた二人の男がいる。


「まあ、まだ誰も死んでいないようだし間に合ったとも言えるな。説得を始めるぞ」

「……ええ? このタイミングでですか?」


 ソフィはかなり嫌そうな顔をしている。それはそうだろう。始まる前に止めるならまだしも始まった喧嘩の仲裁はダルい。何より、相手はエルダードラゴンだ。


「私の見立てでは鉄壁が死ぬな」


 リアラは手に持っている瓶を口に当て、酒を一口飲む。面白いものを見ると飲みたくなるのだろう。その気持ちはわかる。なかなか良いつまみになりそうな光景だ。


「俺も同じ意見だ。ゆっくり酒を飲みながら賭けたいところだが……まあ、止めるに越したことはないだろう」

「どうやって止めるんですかっ!?」


 エマは興奮した様子だ。顔が紅潮しているし、鼻息も荒い。

 怖がらないのだから大したものだ。


「決まってる。『やめろ』って言うんだよ」

「ええ……?」


 ソフィが『マジかこいつ』みたいな目でこちらを見る。


「まあ、見てろ」


 誰かを言葉で説得した経験なんてほとんどないが、何事もやってみることから始まるのだ。とにかく話しかけないことには話は進まない。


「おい、あんたら《鉄壁のアッシュガルド》だな? 俺は――」


 轟音が響く。おっと危ない岩が飛んできた。避けながら声をかけるが、鉄壁たちには届いていないようだ。

 俺の事は目に入っているようで、鉄壁たちが何かを叫んでいるが何も聞こえない。まいったな。


「おい、俺は何でも屋だ。近くのスーガル村の――」


 竜巻が発生した。誰がやったんだ。ああ、エルダードラゴンか。竜巻は鉄壁たちに襲い掛かる。危ないので少し距離をとろう。

 俺自身、本当にスーガル村の使いなのかどうか自信はないがあの嘘つきの依頼主がスーガル村の村長と名乗っていた以上そう名乗らざるを得ない。彼らがどんな嘘をついていたとしても関係ない。俺は善意の第三者だ。


「おーい、俺たちは――」


 ブレスだ。

 《鉄壁のアッシュガルド》さんはお忙しいようで俺に構う暇はないようだ。

 なるほど、こういう感じになるのか。勉強になった。誰だって初めてのことはある。


 大人しく三人のところに戻る。


 リアラが持つ酒瓶を見ると中身はかなり減っていた。どうやら俺の挑戦は面白い光景だったようだ。少しニヤついている。

 ソフィは『ほれ見たことか』と言った顔だ。

 エマは興奮して『うおー! そこだ! やれっ』とか言っている。エルダードラゴンを応援しているのか。


 さて。


「二手に別れるぞ。《鉄壁のアッシュガルド》を黙らせるチームとエルダードラゴンを黙らせるチームだ」


 リアラが頷く。


「とりあえず殴って落ち着かせようってことだな?」

「その通りだ。腕力は大体のことを解決してくれる」

「良いことを言う」


 リアラは笑みを浮かべ、ソフィは引いた。


「さて、誰が何を担当するかだが……」

「はいはい! あたしは鉄壁の防御力をひたすら下げたいですっ!」


 エマが元気いっぱいに手を挙げてアピールしてきた。


「性格悪そうだな。どうやってやる?」

「見た所、彼らはそれぞれが防御を高める魔法を掛け合っているようです! 防御を下げる魔法を唱えまくれば多分、普通の人たちになると思います!」


 それを聞いたリアラが微笑んだ。ちょっと酔っているな。


「なかなか面白そうだ。エマ、やってみろ」

「はい!」

「じゃあリアラとエマで鉄壁を頼む。ソフィと俺でドラゴンだな」

「うう……爬虫類はあまり好きじゃないんですけど」


 無視だ。


「よし、行くぞ。リベンジだ」


 後ろから小さい声で『リベンジなのはダイスさんだけじゃないですか』と聞こえた気がしたが気のせいだろう。

 なるべく怪我もさせずにエルダードラゴンを無力化させるにはどうしたら良いだろうか。殺すだけならば難しくはなさそうだが。


「ソフィ、何かいいアイデアないか?」

「ないですよ……」

「じゃあとりあえず聞こえるようにしっかりと正面から話しかけるか」


 どの程度の知能を持つのかわからないが、エルダードラゴンであるならば人語ぐらい理解するだろう。


「はぁ……じゃあ、あたしはなるべく攻撃をとめますね」

「頼む」


 俺がドラゴンと対峙すると同時に鉄壁の方からも声が聞こえてくる。

 慌てた声だ。

 魔法の効果が消えたのか、エルダードラゴンとの戦闘中に子供が現れたことについてか、世にも恐ろしい美女が現れたことについてか。

 エルダードラゴンもこちらに気付き、俺を睨む。


「俺はスーガル村の使いだ。戦いをやめろ」

「不遜な……」


 喋った。会話できそうだな。ありがたい。

 そう思ったのもつかの間。その巨大な前足が振り上げられ、俺に向かって振り下ろされてきた。

 不遜なのはどっちだ。問答無用で攻撃してくるとは。

 前足を防ごうと剣を抜きかけ、とどまる。ソフィが割って入ってきたからだ。

 彼女は剣を鞘に入れたまま振るい、前足を弾いた。正面から受けずに上手く軌道を逸らしたようだ。

 エルダードラゴンのスピードとパワーに対して狙った通りに対処するには相当の技術が必要だろう。

 《鉄壁のアッシュガルド》さん達にはどうやっても出来ないであろう偉業を果たした彼女は何てことない顔をしていた。汗ひとつかいていない。


「ぬう……?」


 エルダードラゴンは戸惑っているようだ。おそらく、ソフィには気付いていなかったのだろう。この気配遮断能力と剣技の組み合わせは凶悪だ。


「もう一度言う。戦いをやめろ。俺たちはお前の味方だ」

「笑わせる……」


 エルダードラゴンは大きく息を吸う。ブレスだ。ここでブレスを吐かれては厄介だが、大丈夫だろう。ソフィが動いたからだ。彼女は跳ね、そして剣で喉元を叩きつけた。


「ごっ……」


 中途半端なブレスのようなものが上を向いたドラゴンの口から溢れる。溜めが足りなかったのだろう。

 そろそろ後ろも片付いた頃のはずだ。


「見ろ。お前に挑んでいた人間は俺の仲間が退けた」


 振り向くと、腹を抱えて笑う美女と高笑いする子供がいた。


「てっ……鉄壁が、鉄壁が! 泥壁に…………くっくくく」

「がっはっは! この魔王に敵う人間などおらんのだァー!」


 だいぶおかしなテンションになっているが前者はリアラ、後者はエマだ。

 リアラはたぶんかなり酔っている。

 エマは……何だろうアレは。

 彼女らの足元には《泥壁のアッシュガルド》さん達が倒れていた。


「……あれが貴様の仲間か?」


 エルダードラゴンの敵意が小さくなるのを感じる。


「ああ、あまり大きな声で言いたくはないがあれが俺の仲間だ」

「ふっ…………良いだろう。話を聞いてやる」



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[良い点] ザ・上から目線!w [一言] 穏便に済みそうだ が ここでなんかおきるんだろうなw 温泉が湧くかな?w
[一言] リアラがつぼってる
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