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殺しすぎたふたり  作者: 猫村あきら
15/31

15 ダイスの想い

 普通の少年だったと思う。

 小さな村の農家に生まれ畑仕事の手伝いをして育った。剣など握ったこともなかった


 ある日、山賊団が村を襲った。

 子供たちは弄ぶように縊り殺された。

 男たちは戦い死んだ者もいれば、子供たちと同じように死んだ者もいた。

 女たちは襲われた。俺の幼馴染も当然のように。目の前で事は行われ、最後にはゆっくりと首を絞められ、体から力が抜けていくのを見ていることしかできなかった。

 俺は横で体を押さえつけられ、その一部始終を見せられるためだけに生かされていた。気まぐれに殴られ、血反吐を吐き、殴られ、血反吐を吐く。合間に見せつけられる。


 救うことができなかった。全てが憎かった。


 俺は山賊たちの気まぐれで生かされたのだ。力を持つ者の傲慢さを感じた。

 そして、ついに山賊も飽きて、俺の命も終わろうという時に、軍が現れた。

 だがその軍は隣国の軍だった。笑えることに隣国の侵攻と山賊の襲撃が重なったのだ。

 軍と山賊の戦闘が始まった。包囲されていた山賊は全滅し、軍は村を侵攻の拠点とした。


 虐殺も陵辱も終わらなかった。


 やる奴が変わっただけだ。あとは、村に山賊や隣国の兵の死体が増えただけで、村人にとっては何も変わらなかった。

 普段偉そうにしている騎士団は助けに来ないのか。こういう時に、なぜ。


 そして、気付いた。

 騎士団が助けに来たらどうなるのだろう。自分は助かるかもしれない。でも既に起きた悲劇は覆らない。もはや取り返しのつかないことが起きてしまっているのだ。

 そもそも、騎士団は戦争屋だ。あいつらももしかしたら攻め入った先で、いまこの村で起きているようなことをしているのかもしれない。逆に、いまここに攻めてきている軍はきっと、自分の国を守る使命感に燃えているのだ。


 馬鹿馬鹿しい。心底、馬鹿馬鹿しいと思った。

 誰もが、ある場所では何かを守るために必死になって、違う場所では簡単に奪う。大なり小なり、そういう事はある。

 自分だって家族や幼馴染を守りたかったし、その為に必死になりたかった。

 そして一方で、虫の命を弄んだこともある。興味本位でやったのだ。


 意識していようがしていまいが、悲劇は起こるし、覆らない。そこに生物がある限り、こんな下らないことがまた起きるのだ。憎悪と怒りと悲しみ、そして諦念。混ざり合った感情は魔法になった。


「死ぬより怖いもの、生きるより辛いもの、黄昏より生まれるもの、深淵に蠢くもの」


 すべては砂になり、故郷は滅んだ。他国の軍とともに。生き残っていたかもしれない友人や知人とともに。


 人を殺そうとする奴が憎かった。人を殺す奴を殺す。

 故郷を滅ぼして以来、焦燥感に突き動かされてそうしてきた。

 犯罪者だろうが英雄だろうが、そういう奴はなるべく手で殺そうと思った。

 魔法で殺すのでは生ぬるい。できる限り、相手には死ぬことを認識させて死んで欲しかった。だから対人戦闘の技術を磨いた。魔法は範囲を狭められるよう訓練した。


 そして、殺す場所を求めて、殺し続けるうちにいつしか《破壊神》と呼ばれるようになっていた。


 殺すからには自分も自分が殺したい奴の一人になるのだ。

 だから自分は楽をしてはいけない。この世の地獄を生き抜いて、死んでまた地獄を味わわなければならない。


 『殺したい奴ら』の仲間になり戦争に参加して『殺したい奴ら』を殺した。

 仲間も敵もみんな『殺したい奴ら』だった。いろんな奴がいた。戦う理由も殺す理由も様々だった。

 だが俺が知る限り、その理由のすべてが勝手なものだった。殺すことが正当化されるのは殺されない為だけだ。復讐だろうが快楽だろうが誰かのためだろうが、命を奪う奴はろくな奴じゃない。俺も含めて。


 世界が滅びれば良い。そう思っているし、俺にはそれが出来るかもしれない。

 だけど、俺はそうしなかった。

 ただの願望なのだ。人を殺す奴を殺したい。戦う奴を殺したい。守りたいわけじゃない。


 そんな葛藤の中、傭兵を続けていたらとんでもない金がたまり、とんでもない敵ができた。そして、殺し続ける中で、その環境に飽きている自分に気がついた。

 慣れていたのだ。地獄ですらなかった。そこには死体があるだけだった。


 そして、気付いた。ああ、無駄な時間を過ごしたのかもしれない、と。

 何かが間違っていたのだと思う。

 何かが。

 自分は、自分を苦しめているようで実のところ、楽をしていたのかもしれない。もしかしたら自分から逃げていたのではないか。

 自分は許されないことをした。大罪だ。そしてその罪に罪をかぶせてきた。もはや引き返すことはできない。

 どこへ向かえば良いのだろう。何をすれば良いのだろう。がむしゃらに人を殺してきて、今ここにあるのは退屈だけだった。苦しみも喜びもない。

 わかっている。

 俺自身、俺が…………俺が、誰よりも殺したいのは、俺だ。

 これまで俺が手にかけた者達が俺に言う。なぜお前はまだ生きているのか、と。

 知るかよ。そう答えながら、そいつらをまた殺す。

 殺しても殺しても、湧いてくる。

 ああ。

 ああ、これは夢だ。


 目が覚めた時、ひどく喉が渇いていた。汗で布団が湿っている。


「くそっ……」


 気分は最悪だった。たまに、こういう夢を見る。ただただ殺す夢だ。ぎりぎりで残された自分が磨耗していくような夢。

 《拳王》は殺したい奴の一人だ。

 あいつと出会ってから、戦場にいた時の自分の滑稽さを鮮明に自覚するようになっていた。

 同時に、何かを活かすということに対して少しだけ興味が出てきていた。

 だからこその何でも屋だったのかもしれない。


 リアラはシロフを殺したいと言った。どんな理由なのだろうか。それは未来に向けた行動なのだろうか。それとも過去に囚われたものなのか。

 いずれにせよ、彼女は歩いている。ただ流されている俺とは違う。

 俺もそろそろ決めるべきだろう。どう、生きていくのかを。

 踏み出す一歩の行方を。



本日もう一話投稿します。

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