【第5話】罪悪感
【注意】
・若干の残酷な内容を含みます
・ネガティブになりやすい方は閲覧注意
私は君が飛び下りた崖の方を呆然と見つめる。ただただ私は目の前で起きたことの意味が分からなくて、泣くことすら出来なかった。
──即死だった。
風がざわめき、辺りには蝉の声が響き、遠くには積乱雲がそびえ立っていた。
それから私は警察に連絡し、ある程度の事情聴取を受け、帰途についた。
自分が彼を殺したわけではない。警察から疑われた訳でもない。それなのに何故だろう、私の胸は罪悪感に支配されていた。
家に帰ると、母親が夕食を作り待っていた。私は手を洗いうがいをし、椅子に座って箸を持つが、白米を一口だけ口に放り込むと、箸を置いて自室へ向かった。とても食べ物が喉を通る状態ではなかった。
自室のベッドに寝転がると、今日のこと、そして死にたいと告白された日のことを思い返す。そして自分の愚かさ、無力さに気づく。
何故、私は大切な友人が自らを殺めるのを止められなかったのだろう。何故、強い態度で、殴ってでも彼を止めなかったのだろうか。最近の自分の言動全てを悔やみ、シーツを強く握りしめる。
──私は彼を殺した。そう、『見殺し』にした。
その日私は一睡も出来なかった。
【作者の一言】
以上、第3話〜第5話まで、『私』の回想パートでした。
罪悪感に苛まれる、青き頃の『私』。
第6話からは現在に時が戻り、また物語が紡がれます。今、大人になった『私』は何を想うのか。
また次回、お会いしましょう。