【第4話】あの夏
【注意】
・若干の残酷な内容を含みます
・ネガティブになりやすい方は閲覧注意
あの日から十日ほど経っただろうか。君は再び私の前に姿を現し、こう言った。
「なあ、どこか遠くへ行ってみないか?」
私は二つ返事でそれを受け入れ、そのまま二人で最寄りの駅へ向かい、電車に乗り込む。
電車の中で、君は無言であった。そして次から次へと移り変わる、窓から見える外の景色をただひたすらに呆然と眺めていた。
とある田舎の駅で私たちは電車を降りる。
それから私たちは駅から少し離れた山へ入っていった。山は鬱蒼と木々が生い茂っていた。
山のそれなりに深いところまで来て、君は急に口を開く。
「僕は今日、死のうと思う。」
これまた唐突な言葉であった。
暑い暑い夏の日に、冷たい汗が筋となり、私の首から背中へ流れる。
「なんでまた、そんなことを。」
頓珍漢な受け答えだ。普通ならここは止めるべき所であるはずなのに。
私はてっきり、君が考え直したものだと思っていた。しかしそれは思い違いで、とても浅はかな考えであった。
「あの日、僕は君ならなんとかしてくれるかなと思って、君に死にたいと告白した。けれど、それはどうやら思い違いだったらしい。」
そう言うと、君は近くにある崖に近寄ってゆく。その崖はとても高いところにあり、万が一落ちれば一溜りもない。
「おい、まさかそこから飛び降りる気じゃないだろうな?」
慌てて私は君を止めようとする。
──遅かった。
「僕には生きる意味が無い。だから今ここで死ぬ。君の人生はまだ長い。僕の分まで生きて。」
君はそう言って、崖から飛び下りた。
君が私に死にたいと告白した日のように、空高く太陽が輝き、焼けるように暑い、真夏のとある日のことであった。
【作者の一言】
第4話は以上です。
『私』の友人は崖から飛び下りてしまいました。『私』は彼を止めることが出来ませんでした。その後『私』は何を思うのか。
次回、第5話。回想パート最終回です。