過去の夢 5/6
「――ィ! フェイ! 聞こえてる!?」
揺さぶりながらフェイを呼ぶのはアラキナだった。
「アラキナ姉さん……」
「急にぼーっとするから心配したじゃない、どうしたのよ?」
「山間だから日没が早いみたいです……」
「そう、そうね。でも私たちには今更って感じよね?」
「クリフォードさんには、言っておいたほうがいいと思うんです……」
ちょうどクリフォードが戻っていたので、先ほどの日没について説明をした。
「ハハハハ! なるほどな。だとするとチェスターの旦那たちも森を出るのは間に合わないな。こうなるともうどちらが囮かわからないところだ」
額に手を当て高らかに笑う。
「そんな、笑ってる場合じゃないですよ! クリフォードさんも一緒に逃げましょうよ!」
「すまないがそれはできない。護衛は依頼主を守るのが仕事だ。
安くない金で雇われ、そのぶん命がけで守るものだ。まぁチェスターの旦那の給金は安かったがな」
最後には苦笑し、だが――と続けられた。
「それなりに信念を持って生きてきたつもりだ。本当は護衛の仕事を終えてから、奴と刺し違えるつもりでいた。
それに、護衛の仕事はまだあるんでね。依頼主ほっぽったら職務怠慢もいいところだ。それにお前たちはまだ若い。俺みたいに死に急がず生き延びろ」
「ふん、あなたってほんと不器用ね。その考え、わたくしは嫌いでしてよ」
「ほんと、馬鹿みたいね……」
フェイは俯いたまま、手を震わせている。
「はっ、ひでぇな。ああ、それとその短剣、大切なものだから大事にしろよ?」
「何か、特別な短剣なんですか……?」
短剣は、かつてクリフォードの友人が持っていたものだった。彼は家族を守るために短剣を手に入れた。だが、家族を守れず失うことになってしまった。
クリフォードがそのことを知り、彼の住む家へと向かった。そこに彼の姿はなく、短剣だけが置かれていた。
せめて一矢報いてやろうと。その無念を晴らしてやると誓った。
「そう思って持ち出したんだがな。その短剣に意思があるのかわかんねぇが。なんとなく、フェイに渡して欲しそうな気がしたんだ。
おっさんと一緒にいるよりも嬢ちゃんのほうがいいらしいな」
フェイは短剣を握りこむ。短剣には家族を思った、そんな優しい温もりが感じられた。
「絶対に、無くしません……」
泣きそうな顔で小さく、同時に力の限り呟いた。