ドワーフ領の大通りにて
という訳で、本日より外伝から続・無能扱いで以下略と題名を変更しました。
グレック達の新しい冒険をお楽しみ頂ければ幸いです。
「ああ! 来ます! 来ます! 後ろから追い付かれちゃいます~!」
「頼むから静かにしてくれ嬢ちゃん。抱き抱えてるこっちが辛い!」
俺はドワーフの少女を抱え、全速力で逃げていた。何から? 当然ドワーフのならず者達からである。ここはドワーフの自治領。右を向いても、左を向いても鉄かドワーフが溢れている。そんな場所だから当然と言えば当然なのだが。
「待て! そいつをを置いていけ!」
「こっちもガキの使いじゃねーんだ!」
「この街で俺達に逆らって、無事に済むと思うなよ!」
追っかけて来るのは、髭面、低身長、筋肉質の三拍子に、お手製と思われる質の低い鉄のアクセサリーをガチャガチャ巻き付けた。どこにでもいる平均的なドワーフのごろつき3人組。
そして俺が抱えるのは、太眉、低身長、巨乳で肉質の平均的なドワーフ娘……
と呼ぶには首から下げるガラスの保護眼鏡と、腰に巻いた工具が下がったベルト、同い年の人やエルフなら殆ど着る事のない厚手の作業服が印象的か。何より精緻な彫刻を施された鉄の髪飾りが彼女が一流の職人である事を示している。
「グレックさん! グレックさん! 大丈夫ですか? 逃げられますか?!」
「ああ、人間の方が走るのは得意だからな!」
この世には多種多様な種族が存在している。エルフ、ドワーフ、獣人、リザードマン、人間である。まぁ他にも色々な種族が存在しているが、この国で主だった種族ならばこの5つ。そしてその中でも人間は持久力が一番高い。
魔力ではエルフ、器用さではドワーフ、感覚では獣人、力ではリザードマンが勝る。無論貴族や長命種といった例外もあるので一概には言えないのだが。
「あ、あいつらだってそれくらい分かってます! 右に曲がって!」
「右? ああ、成程そういうことか!」
王都よりも狭い赤茶けた土を固めた大通りを走りつつ、彼女の言葉の意味を理解する。俺達の逃走劇をやんややんやと囃し立てる声に混じって遠くから響くこちらに向かうドワーフの走る音。
要するに奴らは挟み撃ちを考える程度の知恵を持っているらしい。
赤土のレンガを固めた建物によって生まれたT字路に飛びだす。左から4人、右から2人、後ろから追ってくる3人組と似たり寄ったりのドワーフが立ちふさがっていた。
「ったく、ドワーフ相手にどこまで通じるかね?」
小脇にドワーフのお嬢ちゃんを抱えていなければどうにでもなるのだが。流石に武器がない状態で片手間にいなす自信はない。小さいが奴らの筋肉は伊達ではなく、ついでに痛みに耐性があるのだ。
足が鈍るの覚悟で蹴りの一発でも入れてやると、覚悟を決めた直後――
「私がやります! グレックさんは走って!」
小脇に抱えられたままの嬢ちゃんが、腰の工具ベルトから何かを取り出した。工具と呼ぶには複雑な形状、鉄筒の後ろにシリンダーとグリップが取りつけられた何か。強いて言うなれば戦場で使われる大砲と似ている気がした。
当然俺が知る大砲は、もっと巨大で荷車に乗せなければならない代物で。断じて女の子が片手で振り回せる代物ではない。
「音が出ます!」
「大砲と同じか!」
パァン!と弾ける音が響いて。俺達の目の前に立つドワーフが一人、膝を抱えて倒れ込む。
「じゃあ残りの1人は――」
「走って下さい! 私がやれます!」
なに? と聞き返す前に、俺は彼女が手に持った小さな大砲を操作するのが見えた。クロスボウと同じ様に引き金を引いた瞬間、シリンダーが回転する。
「連射式!?」
二度、三度、四度。街中に音が響いて、もう一人も肩を抑えて倒れ込む。痛みに強いドワーフをこうもあっさりと戦闘不能にするとは、小さくても大砲、余程の威力があるらしい。
「はい、そうです! このまま走って!」
「おうよ、やるな嬢ちゃん!」
倒れたドワーフ二人を飛び越え。俺は後ろから響く怒号と、周囲の無関係なドワーフ達の声を背中に、距離を稼いでいく。
「嬢ちゃんじゃありません! ちゃんとミミルって名前があります!」
「分かったよ、ミミル! とりあえず俺の宿に逃げるが良いな?」
さて、何故俺がこんな事件に。いや冒険に巻き込まれたのか説明するのなら。話は3日前に溯る。