ドワーフ娘とのデート、あるいは恋の後始末
「さぁ! グレックさん! 早く早く! お祭り終っちゃいますよ!?」
「もう少し祭りって奴はゆっくり見るもんじゃないのか?」
「ドワーフの祭りは火力と勢いです! ゆっくりしてたらおいていかれます!」
アリアが勝利したその瞬間から、街中がお祭りモードに包まれた。まぁドワーフの視点から見ればどのチームが優勝しても同じことだ。身内が勝ったのだから歌い、踊り、騒ぐのが彼らの流儀である。
表彰式はあっという間に終了し、それから先はてんやわんやの大騒ぎ。アッシュとチャコは早々に逃げだし、レイナはエルフ同士で盛り上がり。
アリアは祝う為に押し寄せるドワーフ達に立ちふさがって「ここは任せて先にいけ!」と啖呵を切った後、どうなっているかは定かではない。まぁ精々ドワーフ達に無理やり武器を押し付けられる程度で済むだろう。
それはそれで、結構面倒なのだが、上手く捌くのもまた勉強だ。
「それで、こんなに急いでどこに行くんだ?」
半月と同じ道のりを俺達は二人で駆け抜ける。違いがあるとするならば追手がいない事と、先導するのが俺ではなく、ミミルであるということ位か。
「北端のロータリーからちょっと行った先!」
「何があるんだ?」
ドワーフと人間の種族差があるからどうにかなっているが、薬なしでここまで駆け抜けるのは結構辛い。むしろドワーフの少女でありなが、ここまで走って息を切らさないミミルを褒めるべきか。
「秘密! けど急がないと間に合わないから!」
まったく面倒な依頼主様だと苦笑しながら、俺は彼女に手を引かれたまま走っていく。周囲のドワーフ達はお祭り騒ぎに浮かれていて。郊外に向けて走っていく俺達には気づかない。その反応もこの前とは正反対で、苦笑は笑みに変わる。
さぁ彼女は何を見せてくれるつもりなのか。出来ればこうやって走った甲斐があるものだと良いのだが――
◇
「間に合ったぁ!」
「ほう、これは確かに――」
どうにか、間に合った。黄昏の空が広がるこの場所へ、太陽が沈む前にグレックさんを連れて来ることが出来た。ロータリーに並ぶ馬車が見下ろせる小高い丘の上、ずっと一人だった私を受け入れてくれた場所なのだ。
「成程、こんな夕焼けは王都で中々見れるもんじゃない」
「でしょ、でしょ? けどね、まだ終わりじゃないんだよ?」
すぅっと、黄昏が黒に切り替わり夜が訪れる。秋の夕暮れは驚くほど早く過ぎ去って、あっという間にどこかへ消えてしまう。さっきまで輝いていた太陽は、もうどこにも見当たらない。
「なんつーか、終わりって感じだな」
「ふふふ、だと思うでしょ?」
一生懸命探した私の瞳が、きらりと一番星の輝くを捉えた。
「グレックさん! グレックさん! 南の空を見て!」
「ん? そりゃどういう意味――」
街中から甲高い音と共に、空に閃光が駆け抜け、夜空に大輪の華が咲く。
この街の祭りでは、一番星が輝く瞬間に花火を打ち上げるのだ。それに続けと更に空に光が昇って光が空を彩って行く光景は。乱雑で、けれど綺羅星が無数に輝くこの街そのものだ。
「こいつは文字通りの穴場って奴だな、俺達意外に誰も居ない」
「まぁ、お祭りの時にこんな場所に来る人は居ないからね」
それこそ、私くらいのものだ。いつだって他人とそりが合わずに、こんなお祭りの日はこうやって人気のない場所で時間を潰していたのだから。
「こんなことなら、つまみと酒も持って来るんだった」
「むぅ、グレックさんは女の子とこういうロマンスはお嫌いですか?」
「依頼者と冒険者仲間には手を出さないって決めてるんでね」
ああそうですか、と口の中で小さく呟いて頬を膨らます。別に本気で恋をしているわけではないが、こうもあっさり空かされてしまうのは。一応、分類上乙女な生き物としては―― まぁ変人ではあったとしても、少しだけ癪に障る。
「えい……!」
「全く、エスコートを依頼に含めるなら付き合うぜ?」
少しは意識してくれるかと腕にしがみついて、胸を押し付けてみても。仕方無いなと余裕顔でグレックさんは返してくる。花火で照らされた顔は、ちょっと年上の魅力に溢れていて。むしろこちらがドキドキしてしまう。
「それは、なんか負けた気がするから…… やだ」
「じゃあ、普通に花火を楽しもうぜ」
「うん、まぁ…… そうする」
取りあえず、変な気は無理やり押し込んで。グレックさんと一緒に花火を見上げる。ありとあらゆる光が夜の闇を塗りつぶさんと光り、光って、そして消える。よく考えれば生まれて初めて人と一緒に祭りを楽しんでいる現実に胸が熱くなった。
「ほんと、この街は凄いよな」
「うん、まぁ凄いでしょ? 困った時も、多分どうにかなるって信じられるから」
本当はどうなのだろうか? 時々妙に息苦しい時もあったのかもしれない。だから私は誰かに認めて欲しくて、頑張って頑張って、けれどそれでもどうにもならなくなったそんな時。グレックさんと出会えたのだ。
「ねぇ、グレックさん…… もし――」
好きって言ったらどうします? と口にしようとして止めた。間違いなくこの人は色んな場所で色んな人を救っている。そして私はそんな色んな人の一人でしかない。私にとっては特別な出会いでも。彼にとってはよくある事に過ぎないのだと。
そう気づいてしまったから。
「ん、どうし――」
グレックさんが言い切る前に、今日一番大きな花火が空中に広がった。途轍もない爆音で、郊外に居る私とグレックさんの間で会話が通じなくなる程の大音量。
「――っと、今のは見応えあったな」
「ですねぇ、どこかの大親方が奮発したんでしょう」
だから、好きだとは言わない。言えない。言っても彼が困るだけだ。だからこの気持ちには蓋をしてしまい、明日になったら全部忘れる事にする。
けど、今は空に打ちあがった最後の花火が消える時間位は―― グレックさんを独占しても罰は当たらないだろう。
もし恋の神様がいるのなら、それ位は笑って許して欲しいと思う。
という訳で、ドワーフ少女とリボルバー編は完結と致します。
その上で暫くチャージ期間という事で、お休みさせて頂きたいなと。
一応続きの構想はあるのですが、流石にここしばらく更新し続けたので
1~2か月程休憩しつつネタを固められればと。
ここまでお付き合い頂き、本当にありがとうございました。
宜しければ感想等頂ければ、今後の展開に反映したいと思いま――
ごめんなさいただ感想が欲しいだけです!(マテ)




