決勝戦、あるいはお祭り騒ぎ
「さぁて! 闘技大会も佳境を超えた。準決勝第一試合ではエルフで冒険者のレイナが二刀流で勝利! 第二試合ではドワーフ同士が拳で殴り合う大接戦が行われ、栄えある決勝戦で戦うのは――!」
何だかんだで、この闘技大会の期間中。一度も天気が崩れる事は無かった。どこまでも空は青一色で闘技場には街中の、いや下手をすれば近隣中から人が集まり下手をすれば10万人近い観光客がこの街に集まっている。
宿屋はどこも満員御礼、普通のドワーフ達が余った部屋を貸してもなおその需要は賄えず。親方会議が余裕のある工房を開放したとかしてないとか。どちらにせよ景気の良い話ばかりが転がっている。
「奇しくも王都の冒険者! それもどちらも人間だ! 一人目はエリック=フォン=バイエルン! 少年騎士、魔法剣士、そして巨人殺しの異名を持つバイエルン家の三男坊! 冒険者となってから2年で頭角を現しB級へと駆けあがった若き英雄だ!」
セパレートの金属鎧を纏った少年がリングに上がる。若いというより幼い印象が強いが、それでもしっかりとた良い目をしているのが分かった。一緒に仕事をした事は無いが、それなりに良い噂が俺の耳にも届いている。
「そういえば、アッシュは一緒にパーティを組んだことがあるんだっけか?」
「まぁ、素直なのが弱点で魅力のお坊ちゃんって感じだった気がするぜ」
「結構騙されやすい所があるタイプだニャ」
アッシュとミミルの評価は悪くは無い、といったところか。
「だが、実力はある。魔法と剣術を実戦レベルで見に付けた良い戦士だ。体力不足から息切れが早いのが玉に瑕だが。それも経験を積む事で徐々に補えて来ている」
レイナはエリックを高く買っているらしい。
「ねぇ、グレックさん。アリアさんとあの人ってどっちが強いんですか?」
ミミルは単純な疑問で質問を投げかけて来た。気負いは感じない、既に成すべき事を成した実感があるのだろう。その上で出来れば友人に勝って欲しい、それ位の空気を感じる。
「ああ、それは――」
「彼に立ちふさがるは、今もっとも有名なC級冒険者! 金髪の竜殺し 西辺境の救世主! そして婚約破棄令嬢のアリア=フォン=バーナード! その人だ!」
会場から笑いと共に拍手の嵐が鳴り響く。
「ええい、そこばかりクローズアップするでない。妾も怒るぞ!」
いつもの両手剣ではなく、この大会の為に誂えた刃が潰れた訓練用の両手剣を振り回し。アリアはオーバーリアクションで不機嫌さをアピールしていく。
「ええっと、アリアさん。気を落さずに……」
「ああ、すまぬ。少々取り乱した」
エリックの言葉でどうにか落ち着きを取り戻し、アリアは剣を構える。
「どうする? 折角の一騎打ちなのだから名乗りを上げるか?」
「いえ、あくまでもこの戦いはドワーフ達のもの故に、僕は今回名乗りを上げません。ただパーティの仲間であるベベロに勝利を捧げます!」
すっとエリックは片手剣を構える。ただし左手で。いつでも魔法を放てるように、利き手を開けているのだろう。
「そうか、ならば妾も―― この戦いの勝利を依頼主であり、友人のミミルに捧げる!」
それに応えて、アリアも両手剣を正眼に構える。
「――お前の友人の、アリアが勝つさ」
「あ、あう…… 友人って言われたの、初めてかもしれません」
「さぁ! ある意味この大会の趣旨に相応しい。他種族がドワーフを手助けし、そして雌雄を決する戦いが幕を開けます! 事前に賭けられた金額から見るに、この勝負は五分と五分! 大勝はありませんが、だからこそ純粋な戦いとして盛り上がる事が期待出来る!」
煽りの魔術師、ストーク=イーストエンドが全力で場を盛り上げていく。結局彼は幾ら設けたのだろうか? まぁ今回の試合で動いた金は、もう計算するのもめんどくさい額に届いているのは間違いないだろう。
奴の懐も間違いなく潤っている。だからこそもう既に利益とは関係の無い決勝戦の実況に魂を込めるのだ。
「それでは―― 決勝戦、試合開始ィ!」
その声を合図に、リングの中心で力と力が正面から衝突する。
「ファイアボールとは――っ!」
「加減はしてますが、直撃すれば相応のダメージを覚悟して下さい!」
エリックは魔法剣士、属性こそ火に偏っているが。実戦レベルで白兵戦の最中に魔法を放てる技量は驚愕に値する。それを本気の一撃ではないとはいえ、訓練用の剣で切り払ったアリアの勝負勘も恐ろしいのだが。
「ふん、どうせなら本気で撃ってこい」
「――冗談を、死にますよ?」
人である以上、本気のファイアボールが直撃すれば死ぬ。それはフォンのミドルネームを持っていようといなくとも関係はない。
「はっ! 折角の決勝戦、絵面が地味になってはつまらないと思わんか? 芝居っ気を出して演出するのも良いが―― どうにも妾はその手の類いが苦手でな、どうせなら本気でやろう」
「――本当に、死なないで下さいね?」
「貴様も、観客相手に流れ弾は飛ばさない様にな!」
再びアリアが加速する。貴種としての肉体、豊富な魔力による身体強化は文字通り音の速さまでその身を加速させるのだ。けれどエリックも負けてはいない。
単純な速度では、アッシュにやや劣る程度だが。それでも一撃必殺の魔法攻撃を放てるアドバンテージは強力だ。
「ファイアボム!」
「え? あれって、威力が低い魔法じゃ?」
「いや、えげつない方向に本気出しやがったな。あの小僧」
加減したファイアーボールと比べても威力が低い魔法だが、それでも直撃すれば姿勢を崩す程度の衝撃がある。発射の隙も少なくより実戦的なエグい手に切り替えている。
「だが、それはアリア相手には悪手だな」
アリアの姿勢は崩れない。そのまま更に距離を詰めていく。
「なっ!? 魔法を無効化!?」
「竜の血で染めた服だ、一発限りだがその程度の魔法は止められる!」
アリアの右の太腿がむき出しになる。ファイアボムを止めた代償に服が吹き飛んだのだ。エリックは左手に持った片手剣でアリアの一閃を迎撃しようとする。
「だろう、なっ!」
剣と剣がぶつかり合う音が響き、エリックの剣がアリアの両手剣を受け止めた。意外な展開にエリックの顔が驚愕に歪む、大方そのまま吹き飛ばされて距離を取ろうと考えていたのだろう。
「これで、チェックメイトだ。エリック」
チャキリ、と左手で両手剣を振るったアリアが、腰からリボルバーを引き抜き。エリックの額に突きつける。
「驚いた、君は芝居が苦手と聞いていたけれど」
「友の為に洒落た勝ち方を狙う程度なら出来なくもない。それで――」
どうする? と視線で問うたアリアに、エリックは剣を手放して応えた。カランとリングの上に片手剣が転がり試合の終わりを告げる。
「勝者は婚約破棄令嬢アリア! 皆様盛大な拍手を!」
「ええい! それはもういい! もう少しまともな二つ名で呼ばぬか!」
ストークの煽りと、アリアの怒号と、そして多くの観客の賞賛と笑いに闘技場が包まれる。とりあえずはこれで終わり。けれどまだ後片付けと―― その前に賞金を貰って、酒を飲んで、皆で笑う時間が残っている。
色々と片付けは気が重いが、まぁ暫くはそこから目をそらしても許して貰えるだろう。俺はリングからサムズアップするアリアと、それに駆け寄るパーティメンバーとミミルから一歩遅れて彼女の元に歩いていく。
さて、まずはアリアを精一杯褒める処から始めようか。




